母性健康管理指導事項連絡カード

たまには「医療閑話」をやってみます。


母性健康管理指導事項連絡カードとは

通称「母管カード」というらしいですが、私は良く知らなかったので解説させて頂きます。まずは厚労省のHPより、

母健連絡カードは、主治医等が行った指導事項の内容を、仕事を持つ妊産婦から事業主へ明確に伝えるのに役立つカードです。

【母健連絡カードの使い方】

  1. 妊娠中及び出産後の健康診査等の結果、通勤緩和や休憩に関する措置などが必要であると主治医等に指導を受けたとき、母健連絡カードに必要な事項を記入して発行してもらいます。
  2. 性労働者は、事業主に母健連絡カードを提出して措置を申し出ます。
  3. 事業主は母健連絡カードの記入事項にしたがって時差通勤や休憩時間の延長等の措置を講じます。

これで必要にして十分の解説と思いますがもう少し補足します。


母管カードの法律的背景

これも厚労省のパンフから補足説明させて頂きます。

男女雇用均等法に基づくものであるのはわかるのですが、少々難儀させられたところです。パンフには22条と23条に基づくとなっているのですが

厚労省パンフ 男女雇用均等法
22条 12条
事業主は、女性労働者が妊産婦のための健康診査等を受診するために必要な時間を確保することができるようにしなければなりません。(第22条) 委員会は、調停案を作成し、関係当事者に対しその受諾を勧告することができる。 事業主は、厚生労働省令で定めるところにより、その雇用する女性労働者が母子保健法(昭和四十年法律第百四十一号)の規定による保健指導又は健康診査を受けるために必要な時間を確保することができるようにしなければならない。
厚労省パンフ 男女雇用均等法
23条1項 13条1項
事業主は、女性労働者からの「母性健康管理指導事項連絡カード」の提出等により、健康診査等の結果主治医等から指導を受けた旨の申し出があった場合には、同カードの記載内容等に沿って必要な措置を講じなければなりません。(第23条) 委員会は 調停に係る紛争について調停による解決の見込みがないと認めるときは調停を打ち切ることができる。 事業主は、その雇用する女性労働者が前条の保健指導又は健康診査に基づく指導事項を守ることができるようにするため、勤務時間の変更、勤務の軽減等必要な措置を講じなければならない。
何回か照らし合わせたのですが、厚労省パンフの方が男女雇用均等法の適用条項を誤っていると見られます。誰にだって間違いはありますが、訂正された方が宜しいかと思います。厚労省パンフを読みながら少々苦笑していたのですが、母管カードは男女雇用均等法だけでなく労基法にも基づくとなっています。

どうもなんですが、労基法に定められた程度では守らない事業主が多く、さらに男女雇用均等法で定めても守らない事業主が多いために、屋上屋をさらに重ねて母管カードが設けられたように私は見えます。ここで男女雇用均等法13条2項には、

厚生労働大臣は、前項の規定に基づき事業主が講ずべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(次項において「指針」という )を定めるものとする。

この指針と言うのが厚労省HPにあります。

妊娠中及び出産後の女性労働者が保健指導又は健康診査に基づく指導事項を守ることができるようにするために事業主が講ずべき措置に関する指針
(平成10年4月1日適用)
  1. はじめに
  2. 事業主が講ずべき妊娠中及び出産後の女性労働者の母性健康管理上の措置
    1. 妊娠中の通勤緩和について
         事業主は、その雇用する妊娠中の女性労働者から、通勤に利用する交通機関の混雑の程度が母体又は胎児の健康保持に影響があるとして、医師又は助産師(以下「医師等」という。)により通勤緩和の指導を受けた旨の申出があった場合には、時差通勤、勤務時間の短縮等の必要な措置を講ずるものとする。  また、事業主は、医師等による具体的な指導がない場合においても、妊娠中の女性労働者から通勤緩和の申出があったときには、担当の医師等と連絡をとり、その判断を求める等適切な対応を図る必要がある。
    2. 妊娠中の休憩に関する措置について
         事業主は、その雇用する妊娠中の女性労働者から、当該女性労働者の作業等が母体又は胎児の健康保持に影響があるとして、医師等により休憩に関する措置についての指導を受けた旨の申出があった場合には、休憩時間の延長、休憩の回数の増加等の必要な措置を講ずるものとする。  また、事業主は、医師等による具体的な指導がない場合においても、妊娠中の女性労働者から休憩に関する措置についての申出があったときは、担当の医師等と連絡をとり、その判断を求める等適切な対応を図る必要がある。
    3. 妊娠中又は出産後の症状等に対応する措置について
         事業主は、その雇用する妊娠中又は出産後の女性労働者から、保健指導又は健康診査に基づき、医師等によりその症状等に関して指導を受けた旨の申出があった場合には、当該指導に基づき、作業の制限、勤務時間の短縮、休業等の必要な措置を講ずるものとする。  また、事業主は、医師等による指導に基づく必要な措置が不明確である場合には、担当の医師等と連絡をとりその判断を求める等により、作業の制限、勤務時間の短縮、休業等の必要な措置を講ずるものとする。
  3. その他
    1. 母性健康管理指導事項連絡カードの利用について
         事業主がその雇用する妊娠中及び出産後の女性労働者に対し、母性健康管理上必要な措置を適切に講ずるためには、当該女性労働者に係る指導事項の内容が当該事業主に的確に伝達され、かつ、講ずべき措置の内容が明確にされることが重要である。 このため、事業主は、母性健康管理指導事項連絡カードの利用に努めるものとする。
    2. プライバシーの保護について
         事業主は、個々の妊娠中及び出産後の女性労働者の症状等に関する情報が、個人のプライバシーに属するものであることから、その保護に特に留意する必要がある。

厚労省と言うか労基局もかなり力が入っている感じはします。


男女雇用均等法での罰則と除外規定

罰則は

男女雇用均等法 条文
33条 第二十九条第一項の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者は、二十万円以下の過料に処する。
29条1項 厚生労働大臣は、この法律の施行に関し必要があると認めるときは、事業主に対して、報告を求め、又は助言、指導若しくは勧告をすることができる。
30条 厚生労働大臣は、第五条から第七条まで、第九条第一項から第三項まで、第十一条第一項、第十二条及び第十三条第一項の規定に違反している事業主に対し、前条第一項の規定による勧告をした場合において その勧告を受けた者がこれに従わなかつたときはその旨を公表することができる。
適用除外は32条なんですが、

第二章第一節及び第三節、前章、第二十九条並びに第三十条の規定は、国家公務員及び地方公務員に、第二章第二節の規定は、一般職の国家公務員(特定独立行政法人等の労働関係に関する法律(昭和二十三年法律第二百五十七号 )第二条第四号の職員を除く)、裁判所職員臨時措置法(昭和二十六年法律第二百九十九号)の適用を受ける裁判所職員、国会職員法(昭和二十二年法律第八十五号)の適用を受ける国会職員及び自衛隊法(昭和二十九年法律第百六十五号)第二条第五項に規定する隊員に関しては適用しない。

何回読んでも判りにくいのですが、とりあえず細かな例外を除いて公務員には適用しない部分があるとなっています。ここで母管カードの法律的背景である12条及び13条は第2章第2節にありますが、その適用は国家公務員一般職には適用しないとなっています。一般職以外の国家公務員及び地方公務員は適用されると読んで良さそうです。29条と30条は罰則規定と呼んで良いと考えますが、これは国家公務員も地方公務員も適用されないとなっています。思い切って単純化して表にします。

公務員の区別 母管カード適用 罰則適用
国家公務員一般職 × ×
地方公務員 ×
私の解釈が間違っていなければ、地方公務員は母管カードの適用は受けますが、一方で罰則規定もない事になります。「なんでやろ?」と思うのですが、そういう法律の様です。


小耳に挟んだお話

医療情報であり個人情報にも触れる懸念がありますから、思いっきりボカして書きます。

    母管カードを提出して就業上の配慮を求めたら受け取りを拒否された
なんとかならんかってお話です。先に書いておきますが、労基署に通報したら労基署が
    厳重な指導を行う
おおよそこんなお話でとりあえず一件落着となった「らしい」です。それはメデタシ、メデタシ(後の職場の人間関係までは仕方がないので置いておきます)なんですが、当事者が公務員だったらどうなんだろうと思っています。先に挙げた除外規定は国家公務員一般職なら母管カード自体が無効です。地方公務員なら母管カードは有効ですが、そのカードが示す内容の遵守は「努力義務」に留まり、さらにこれに指導監督する条項も適用外になります。医療関係者であれば私立病院であれば母管カードは葵の印籠になる可能性はありますが、地方公立病院(独立行政法人の適用は煩雑なので省略します)では労基署に通報しても動かへんの・・・かなぁ?