中原先生支援する会 ボールペン作戦

福島大野病院事件ではボールペン作戦に多大な御支持、御協力を頂きありがとうございます。福島大野病院事件のボールペン作戦は、福島地裁の無罪判決及び控訴断念により一応の終止符を打たせて頂いています。「頂いています」と言ってもボールペン作戦は私の独占企画でも何でもありませんし、関わりと言えば企画が当ブログのコメント欄の議論から発生した事と、その後に何度かエントリーで取り上げさせて頂いたぐらいです。

福島大野病院事件のボールペン作戦は無罪判決により無事終了したのですが、新たにボールペン作戦を展開したいとの話がありました。別に私の許可などまったく不要ですし、新たなボールペン作戦にも、福島の時に実行部隊として絶大な協力を頂いたmoto先生が御参加されていますから、異論も何もなく趣旨に賛同させてもらっています。

新たなボールペン作戦は4/25に開始との事で、本来はそれに合わせて昨日取り上げるべきだったのですが、奈良の時間外訴訟も手を抜くわけにはいかず、一日遅れで取り上げさせて頂きます。

中原先生の件は周知の事ですから、ごく簡単な説明にさせて頂きますが、医師4人で24時間365日の小児救急を担当し、過労から鬱病を発症し自殺された痛ましい事件です。この事件は民事訴訟になっているのですが、構図が少々複雑(私もよく知らなかった)なので出来るだけ単純に整理してみます。遺族が起された訴訟は二本です。

  1. 過労死による労災認定
  2. 過労死を起した病院の管理監督責任
労災認定が訴訟になったのは労基署がこれを認めなかったからで、2007.3.14に東京地裁で労災認定判決を勝ち取り、これが確定しています。一方の病院の管理監督責任については、
    東京地裁:原告主張を全面却下
    東京高裁:過労死は認めるものの病院責任は否定
現在最高裁に上告受理(用語の正確性が怪しいのですが・・・)を運動中です。原告遺族の主張をこれも簡単にまとめると、
  • 中原医師の死亡原因が過労死である事は労災認定されている
  • 労災としての過労死を起すような病院には管理監督責任があるはず
えらいシンプルにまとめましたが、他の事例に置き換えて考えてみると分かりやすい主張です。例えば運送会社がトラック運転手に過重な業務を強いたとします。これによる疲労により過労死したとなれば、運転手が労災にあたるだけでなく、過労死を招く業務を強いた会社にも責任があって然るべしだとの主張です。過労死は本人が勝手に過労になったのではなく、過労になる職場環境があり、その職場環境の改善を怠ったものにも当然責任があると言えばよいでしょうか。

ここで過労死と言っても、それだけで病院の管理責任が問われるものではありません。同じ労働条件でも過労になるものと、ならない者がいるからです。過労死で事業所側の管理責任が問われるのは、ある一定数以上の者がその条件で過労になって然るべしであるとの事実認定が必要です。一つの目安として、時間外労働の過労死ラインがあります。

平成18年3月17日付基発第0317008号「過重労働による健康障害防止のための総合対策について」には、まず冒頭部に、

 長時間にわたる過重な労働は、疲労の蓄積をもたらす最も重要な要因と考えられ、さらには、脳・心臓疾患の発症との関連性が強いという医学的知見が得られている。働くことにより労働者が健康を損なうようなことはあってはならないものであり、この医学的知見を踏まえると、労働者が疲労を回復することができないような長時間にわたる過重労働を排除していくとともに、労働者に疲労の蓄積を生じさせないようにするため、労働者の健康管理に係る措置を適切に実施することが重要である。

ここに

    労働者が疲労を回復することができないような長時間にわたる過重労働を排除
こういう趣旨の通達であると明記されています。また、

5 過重労働による業務上の疾病が発生した場合の再発防止対策を徹底するための指導等

  1. 過重労働による業務上の疾病を発生させた事業場に対する再発防止対策の徹底の指導


      過重労働による業務上の疾病を発生させた事業場については、当該疾病の原因の究明及び再発防止の措置を行うよう指導する。


  2. 司法処分を含めた厳正な対処


      過重労働による業務上の疾病を発生させた事業場であって労働基準関係法令違反が認められるものについては、司法処分を含めて厳正に対処する。

ここの

    過重労働による業務上の疾病を発生させた事業場であって労働基準関係法令違反が認められるものについては、司法処分を含めて厳正に対処する
こうした上で

事業者は、労働安全衛生法等に基づき、労働者の時間外・休日労働時間に応じた面接指導等を次のとおり実施するものとする。

  1. 時間外・休日労働時間が1月当たり100時間を超える労働者であって、申出を行ったものについては、医師による面接指導を確実に実施するものとする。
  2. 時間外・休日労働時間が1月当たり80時間を超える労働者であって、申出を行ったもの(1.に該当する労働者を除く。)については、面接指導等を実施するよう努めるものとする。
  3. 時間外・休日労働時間が1月当たり100時間を超える労働者(1.に該当する労働者を除く。)又は時間外・休日労働時間が2ないし6月の平均で1月当たり80時間を超える労働者については、医師による面接指導を実施するよう努めるものとする。
  4. 時間外・休日労働時間が1月当たり45時間を超える労働者で、健康への配慮が必要と認めた者については、面接指導等の措置を講ずることが望ましいものとする。

中原医師がどれほどの時間外労働を行なっていたかですが、中原医師支援の会のHPによれば、

平成10年4月ころから,佼成病院では経営改善への取り組みが本格的に行われて,経費削減が意識されるようになっていたところ,平成11年1月から3月末にかけて,小児科部長を含め3名の小児科医が辞めることになったにもかかわらず,小児科医は同年5月に1名補充されたのみであった。

そのため,平成11年3月以降は大変な激務となり,故中原は,同年3月には8回,同年4月には6回(一般の小児科医平均の約1・7倍)の当直を受け持たざるを得なかった。当直の日は,通常勤務から連続して24時間以上勤務することになる場合がほとんどで,そのまま翌日の通常勤務まで担当して32時間以上の連続勤務となる場合も多かった。しかも,3月は,小児科の総患者数が前年の1735人に比して2324人に膨れ上がるなど患者数が多かったため,通常勤務も忙しかった。

まずここの当直勤務ですが論じるまでもなく医療法16条による当直勤務であり、労基法41条3号によるものでないことは論を待ちません。つまりはすべて時間外労働と認定されるものです。この事は奈良産科医時間外訴訟で法務業の末席様から詳細なレクチャーを頂いています。また例外と言うか条件による労基法41条3号にも該当しません。

中原医師は平成11年3月に8回、4月に6回の当直勤務を行なっています。佼成病院の勤務時間等が不明なため、日勤を9時間(1時間の休憩時間を含む)、夜勤15時間とします。当直勤務がすべて時間外労働・休日労働と認定された奈良産科医時間外訴訟に従います。中原医師の8回の夜勤がすべて平日であったとしても、

    3月:15時間 × 8回 = 120時間
    4月:15時間 × 6回 = 90時間
これは前提としたように当直がすべて平日であったとの試算であり、これに休日の日当直が加わればさらに時間は増えます。さらにこれは当直分だけの計算であり、現実は当直日以外の時間外勤務、休日勤務が発生します。それだけの時間外及び休日勤務は十分に過労死ラインに達すると考えられます。ただ、ここは自信が無いのですが、平成11年当時に長時間の時間外労働・休日労働による過労死の基準と言うか扱いがどうなっていたかの根拠が見つからないのですが、平成11年当時でも過労死は十分な社会問題であったかと記憶しています。

客観的に考えて、中原医師は過労死を起す勤務環境にいたと考えられます。またその環境下で過労を起こし鬱病を発症しています。さらに鬱病から飛び降り自殺を行なっています。さらにさらに過労死からの鬱病発症、さらには自殺は労災として認定されています。これの事業所による管理監督責任がゼロとはやはり違和感を感じざるを得ません。医師といえどもそこまで鉄人である事が「一般常識である」とされたらたまりません。

滋賀で36協定の特別条項により月120時間の時間外労働を認める労使協定が結ばれています。原則として労使協定を結べば長時間の時間外労働は合法的に可能ですし、普通の36協定があっても、現実として過労死ラインを超える時間外・休日労働を行なっている労働者は医療界だけではなく他の職種にもゴマンとあります。

ただし労基法の精神と言うか、運用として過労死ラインを超えて過労からの疾病発症、ましてや過労死が発生すれば、労働者の管理監督責任がある使用者には重い責任が生じるはずです。しかし中原医師には一審、二審と認められておりません。私はやはり認められるべきだと考えますし、考えるから中原医師へのボールペン作戦に賛同します。

ボールペン作戦に賛同される方はボールペン作戦会議室を御訪問ください。いちおうボールペンの希望要項を引用しておくと、

★ボールペンご希望の方は、封筒の表に「中原支援ボールペン希望」と朱書し、送り先の住所・氏名を記入し必要金額の切手を貼った返信用封筒を同封の上、下記あてにお申込みください。

お一人様1本は無料でお送りいたします。

このボールペンで同封の署名用紙にご協力いただけたら幸いです。

2本以上ご希望の場合は、1本につき原価(約84円)以上のご寄附を、下記口座あて、お願い致します。

ご寄附でさらに追加のボールペンを作成し、無料配布による支援の輪を広げていきたいと考えます。

★[宛先]

460-0012名古屋市中区千代田5−20−6鶴舞公園クリニック

★複数本ご希望の方は、

【10本まで】

「中原支援ボールペン○本希望」と朱書して、返信用封筒には

2本まで:120円

3−5本:140円

6−7本:200円

8−10本:240円

の切手を貼ってください。

【11本以上】

104-0033東京都中央区新川1-11-6 中原ビル「中原支援の会」(TEL:090-6133-0090  

FAX:03-3552-2888)まで御連絡ください。個別にご相談、対応させていただきます。

★ご寄付は下記宛にお願い致します。

三菱東京UFJ銀行 築地支店 普通預金 0026409

「中原先生支援する会 ボールペン作戦」

◎郵便局振込口座 00160−2−361759

「中原先生支援する会 ボールペン作戦」

作戦に参加されるかどうかは皆様のあくまでも自由意志です。個人的にはこの問題は、中原医師だけの特殊例ではなく、広く適用される事が多い問題と考えています。1人でも多く、問題意識を共有してくだされる方がおられれば嬉しいところです。


■中原のり子氏の印象

中原医師の問題では御遺族の粘り強い活動が特筆されます。中心になっておられるのは中原医師の妻であった中原のり子氏です。リアルでの人脈が乏しい私ですが、本当にタマタマですが、実際にお会いしてお話をさせて頂いた事があります。会う前の勝手なイメージとして、そういう運動をされている方ですから、キリリとした美人で、物静かであっても意志の強そうな、ちょっと怖そうな方を頭に描いていました。

ご紹介頂いたのは、とある会の親睦会のさらに二次会です。恥ずかしながらその二次会に中原のり子氏が参加されている事は、まったく知らず、ある時に

てな感じのこれ以上軽くは出来ないほどの軽さで、とある女性を私の隣の席に引っ張ってこられました。「のりピーって誰?」と思いながら話を聞いてみると、かの中原のり子氏であったわけです。実際にお会いした印象は、キリリというより親しみやすい美人(こうしておきます)で、意志は強そうではありましたが、物静かと言うより、これは失礼かとは思いますし、酒席であったためとも考えていますが、どちらかと言うと騒がしいぐらい陽気な方でした。

これくらいギラギラ陽気な奥様が中原医師の家庭を支えられていたのに、それでも耐え切れないぐらいの過労が中原医師に圧し掛かり、鬱病から投身自殺をせざるを得なくなったと考えると、その勤務の過酷さが窺えると個人的には感じています。一度限りの、それも二次会の酒席でのイメージですから誤解もあるかとは思っていますが、御参考までに。