バイクも恋も若葉マーク(第12話)有馬街道

 ミルとマップを見ながら検討していたんだけど、

「六甲山トンネルから六甲北有料道路を使えば三田のフラワータウンに着くのは間違いない」

 問題は六甲山トンネルなんだよね。だって海抜五百メートルのところにあるんだぞ。神戸市街がゼロに近いからどんだけ登るんだよの世界だ。

「鶴甲の坂だけでも余裕でヤバかった」

 下見にミルと行ったのだけど、どうせなら徳井の交差点から走ろうとなったんだ。徳井の交差点からJRの高架まではたいした事は無かった。

「阪急の高架を潜ってからが本番だったね」

 いきなりみたいな急坂があり、そこから登れば登るほど坂がキツクなる。五速なんて論外で、四速でもすこしでもスピードが落ちれば苦しくなり三速も必要なぐらい。

「あれがパワーバンドを外れるってやつだろうな」

 最近覚えた言葉だ。スピードが落ちるのはエンジンパワーの限界もあるけど、前のクルマが妙に遅かったり、

「カーブも甘くない」

 表六甲ドライブウェイに入る手前で六甲ケーブルの方に下りたけど、表六甲ドライブウェイに入ったからと言って坂が緩くなるはずないよな。

「あそこから本番かもだ」

 なんかカブエンジンの限界を実感させられてしまった感じだ。三田に行くルートとしては良いけど、あれを登るのは出来れば避けたい。避けたいけど他のルートが思いつかないんだよ。

「阪神高速は走れないものね」

 そんな時に有馬街道なら三田に行けるって話を小耳に挟んだんだ。とは言うものの、どこを走ってる道かはっきりしない。そこで歴研の知恵を借りることにした。歴研とツーリングコースは関係ないみたいに思うだろうけど、歴研には歴史街道マニアもいるのよね。

「梶本先輩ね」

 丁寧に教えてくれたけど、なんか歴史の講義を聞かされてる気になったかな。有馬街道はその名の通り有馬温泉に向かう街道になるのだけど有馬温泉の歴史がトンデモないぐらいまず古い。

「日本書紀にも出て来るぐらい」

 近畿は温泉が少なかったみたいで、数少ない有馬温泉に王朝貴族たちが入りに来てたみたいなんだよ。当時の都と言えば奈良から京都の時代になるから、宝塚のあたりから山越えで有馬温泉に向かっていた道が原初の有馬街道のはずだって。梶本先輩は、

『江戸時代ぐらいまで有馬じゃなくて湯山と呼ばれてたから、湯山街道とか、湯の山街道とも呼ばれてたよ』

 東からは宝塚の生瀬ってところぐらいから有馬に向かう街道なんだけど、西から向かう有馬街道もあって、

『こっちは有馬街道と言うより湯の山街道の方が有名かな。三木と有馬温泉を結ぶ街道だよ』

 湯の山街道も南北二つあるらしくて、南ルートが呑吐ダムのツーリングに使った道らしく、

『狭義の有馬街道は箕谷から有馬温泉に向かう道になる』

 狭義とは現代人が有馬街道と言う場合ぐらいらしい。それなら新神戸トンネルから箕谷に出れば有馬街道に入れるよね。ここで気になる情報も出てきて、

『新神戸トンネルが出来る前は平野から箕谷に向かってたんだよ』

 平野ってどこだと聞いたら、中央図書館とか文化ホールがある大倉山公園ぐらいのところらしくて、

『清盛が都を遷した福原になると思えば良いよ』

 清盛もその道を通って有馬温泉に行ってたかもって。ただその道もかなりの急な坂道らしいし、交通量も多いとか。神戸ってどこまで行っても坂の街だ。とにかく箕谷から有馬温泉には行けるのは分かったけど、有馬温泉から三田ってどうやって行くのよ。

『北に伸びる有馬街道もある』

 なるほど。北に住んでる人も有馬温泉に湯治に来るものね。北への有馬街道は山口ってところに向かって、そこから丹波街道に入るって言うけど、それは今ならどこなんだ。

『あの辺は大規模なニュータウン開発をされてしまってるから・・・』

 北の有馬街道は有馬川沿いの道らしくて、丹波街道は国道一七六号だとか。じゃあ、有馬温泉から国道一七六号にすんなり行けるかと聞いたんだけど、

『初めてなら難しいと思うよ』

 ぎゃふん。さらにがあって、箕谷から有馬温泉に向かう道は、かつては渋滞の名所だったらしくて、今は阪神高速の北神戸線が出来てマシになってるそうだけど、ツーリングコースとしてはあまり面白くなさそう。

『旧街道の雰囲気を味わいたいのだったら・・・』

 なんとか話を終わらせた。梶本先輩の有馬街道の話は興味深かったけど、まとめると有馬街道を使って三田に行くのは可能だけど、

「最終的に国道一七六号に入らないと篠山には着かないって事になるよ」

 ここはシンプルに有馬街道経由で篠山にツーリングに行くのはやめておいた方が無難そうだ。ミルとも話してたのだけど、バイクもツーリングも初心者なんだよね。初心者だから道も知らないってこと。

「やっぱりスマホナビを積もうか」

 積んでる人が多いのも動画で知ってるけど、あれってどうなんだろ。

「わかんないけど、とにかくクルマでも、自転車でもスマホを見るのは目の敵にされてるじゃない」

 ついでに歩いていてもね。理由もわかるのよ。運転中にスマホで電話するのは危険だもの。でもさぁ、電話じゃなくてナビとして使うんだから良いはずよ。ナビ積んでないクルマの方が少ないはずだ。

「そう見てくれるかどうかは警官の裁量だよ」

 道交法はスマホを見てるだけでアウトっぽいもの。さらにカネの問題もある。カノンのスマホのバッテリーも怪しくなってる。そうなるとバイクにUSB電源を付けるカスタムもあるけど、

「冬対策のウェアの方が優先だって」

 そうなのよね。他にもキャリアを付けてボックスを乗せたいのもある。だってさ、モンキーってホントに物が載らないのよ。今はリュック背負ってるけど肩凝るじゃない。

「ボックスは格好悪いよ」

 うぐぐぐ、バイクのボックスに対する意見で代表的なものだ。その気持ちはわかる。スクーターじゃないもの。でもさぁ、一度付けたら便利過ぎて病みつきになるとも言ってたぞ。

「そりゃ、バイクにトランクが出来るようなものでしょ」

 雨に濡れないし、あそこにメットも入れられるはずだし、レインコートだって入るはずだ。その上に蓋があってカギまで閉められる。とは言え、そうするにもカネだ。ここは基本に戻ろう。道は走って覚えるものだ。

「カノンって昭和の人かよ」

 そういうけど、呑吐ダムへの道ならもう走れるじゃない。あそこならナビなんか無くても良くなった。これを広げていくのもツーリングの楽しみじゃないかな。

「楽しみも何もそうするしかミルたちに選択肢は無いか・・・」

 篠山へのルートでもう一つわかったのは、どこかの道に入りさえすれば一本道じゃないって事かな。そうならばまずは篠山の前段階である三田へのルートを体で覚えないと行けないかも。

「簡単に行けてしまったらおもしろくないかも」

 ツーリングも奥が深い。