バイクも恋も若葉マーク(第10話)初ツーリング

 カノンがモンキー、ミルがダックスにした理由はバイク女子になりたいから。バイク女子になって何をするかと言えばツーリングだ。だからこそスクーターにしなかったんだよ。

「秋になったら行こうね」

 もちの論だ。異様なぐらい夏の暑さが続いたけど、なんとかツーリングに行けそうなぐらいには下がって来たはず。ミルとマップであれこれ下調べをしたけど、ツーリングをするには、とにもかくにも神戸市街を脱出しないと始まらない。

「ツーリングの本場は奥播磨とか、丹波らしいものね」

 まず、目指しているのは篠山だ。あそこに行けば松茸もあるし、黒大豆もあるし、猪だってあるはず。

「そんなもの買ってどうするのよ。篠山と言ったら栗でしょ」

 丹波栗も欠かせない。食べ物だけじゃなく、観光地としても整備されてるのよね。だからだと思うけどツーリング動画がたくさん上がってるもの。とは言えだ、篠山に行くにも神戸市街を脱出しないと行けないんだよ。

 神戸の地形は南に海、北に六甲山なんだけど、篠山を目指すには六甲山を越えないと行けない。けどさぁ、あんなものどうやって超えるかになる。あれこれ調べてみると新神戸トンネルを潜れば北区の箕谷に出れるはず。

「入口がわかりにくかった」

 あれも下見に行った時に迷子になりかけた。マップでは国道二号を道なりに走って行けば入口に着くはずだけど、

「道路に国道二号って書いとけよな」

 それ思った。それにさ、王子公園の高架のところもわかりにくすぎる。

「最初の時は直進してエライ目に遭った」

 気が付いたら新神戸の駅前だったもの。それとさ、何車線もある道って困るのよね。

「そうよそうよ、右側車線を走ってたら、突然右折レーンってなんのトラップだよ」

 そういう苦難を乗り越えて、今日はついに新神戸トンネルを抜けて北区に行くぞ。二宮の入口に無事にたどり着き、いよいよトンネルだ。途中で山麓バイパスに向かう道と分岐するはずだから、そっちに行かないように要注意だ。

 へぇ、山麓バイパスはこんな感じで分岐してるのか。今日は直進だ。ここも『新』と言いながらだいぶ古いから路面も荒れてるぞ。それより、なにより、

「なんなのよ、このスピードは!」

 仕込んだインカムも快調そうだ。クルマはビュンビュン飛ばしてるな。こういう時はあのバスの後ろに付けよう。

「らじゃ」

 八十キロも出すと怖いな。八十キロでも全速力って感じになるのだけど、さっき抜いて行ったクルマは百キロどころじゃないぞ。八十キロでもモンキーちゃんはちゃんとは走ってくれるけど、

「ダックスちゃんもよ」

 なんかさ無理して走ってる気がする。小型バイクにこの速度は合ってない。つうか楽しくないんだもの。とは言え、このトンネルを抜けないとツーリングは始まらないはず。

「長いトンネルだ」

 トンネルもこれだけ長いとね。そうだそうだ、トンネル出口は右車線だからね。間違えたら阪神高速に入っちゃうぞ。

「道にもそう書いてある」

 ついにトンネルを抜けたら左カーブになっていて、あそこが料金所だ。

「それにしても五十円なんだ」

 安いのは小型のメリットだけどETCなんか付いてるはずもなく、

「そもそも小型は現金オンリーだぞ」

 とにかく面倒。だってさ、ニュートラルに入れてバイクを停めて、グローブを脱ぎ、ポケットに用意しといた五十円を取り出さないといけないもの。料金所から発進する時もグローブを付ける手間がある。

 料金所を出るとこれまた左カーブで、あの信号を右折だ、ここが箕谷の料金所なんだよね。右折すると、

「合ってるよね」

 たぶん。とは言うものの、なんか狭苦しい道だぞ。右が谷で、左は断崖絶壁だ。無理やり作ったような道で、それがクネクネ曲がってるんだもの。まるで秘境の道みたいじゃないか。

「秘境の道にあんなデッカイトラックが走るものか」

 クルマもすれ違いに往生してそう。こんなものが続くのは嫌だなって思ってたら、

「なんか抜けたみたい」

 断崖絶壁がなくなった。信号を三つばかり越え、なんか丘みたいなものを越えたら、

「おぉ、カントリーロードだ」

 田んぼの中の余裕の二車線だ。これ良い感じじゃない。ここが山田のはず。

「そのまんまの地名じゃない」

 それは実感してるけど、とにかく歴史は古いんだって。歴研はコンパ目当ての会員も多いのだけど、ちゃんと歴史研究もしてる人もいるんだよね。

「米田先輩が詳しかった。鳥居があるからあの山じゃないかな」

 丹生神社ってなってるからそうかも。今は丹生神社だけど、あそこには明要寺があったそうで、創建されたのは仏教伝来の前だとか。歴史だけでいうとさらに古くて、神功皇后が三韓征伐に使う船の塗料をここまで取りに来たんだって。明要寺は戦国時代に秀吉の焼き討ちに遭って衰えたそうだけど、

「清盛が福原からお参りに来てたって言うものね」

 ここまで歴史に溢れるところは珍しいかもって米田先輩は言ってた。

「一の谷の合戦の時に義経も通ったみたいだもの」

 それもあった。平家物語には鷲尾義久って人を道案内を雇って、さらに家来にしたそうだけど、その鷲尾って家は今も続いてるって聞いてビックリしたもの。

「また谷間に入るよ」

 見えて来たのが呑吐ダム。レイクサイドロードだ。ここも緩やかなワインディングだけど、

「バイクも走ってるね」

 なんかすれ違うと心楽しいな。もうすぐのはずだけど、

「あそこじゃないかな」

 右折して入ろう。うわぁ、バイクがあんなに停まってる。バイクを停めてフェンスのところに行くと呑吐ダムの本体が一望だ。

「着いたね」

 なんとかだけど今日の初ツーリングの目的地の衝原湖展望所だぞ。あっちにベンチみたいなものと、公園みたいになってるところがあるけど、

「あっても良さそうなものがないね」

 そうなんだよ。トイレが見当たらない。公園とか、展望所と言えばトイレがセットになりそうなものなのにね。バイク乗りも多いけど、声をかけれたから聞いてみた。

「岩谷峠を走るんや」

 そこを越えると淡河になって、そこの道の駅と往復してるのもいるみたい。目指してるのは篠山だから、ここからどうやったら行けるかって聞いたんだけど、

「ここから篠山か! そりゃ、行けへんことないけど、説明しにくいな」

 神戸から来たって言ったら、

「篠山やったら、六甲山トンネル越えて、六甲北有料道路で三田に出るのがわかりやすいで」

 六甲山トンネルってどこにあるんだって聞いたら、

「表六甲ドライブウェイを登って行ったらあるで」

 あのねぇ、表六甲ドライブウエイって鶴甲の坂の上から始まるゴッツイ登りじゃないの。

「ウルトラ警備隊も走った道や」

 なんだそれ。篠山への道は別途検討だな。