ツーリング日和31(第12話)ランチタイム

 なんとか終点みたいなところについたけど、なんか駐車場も整備されていてタワーみたいなものもあるじゃない。へぇ、二輪用の駐輪スペースもあるのは嬉しいぞ。バイクを停めて行ったのだけど、こ、これは・・・絶景だよ、絶景。西と東の舞鶴港が一望じゃないの。

 へぇ、近畿百景第一位に選ばれてるのか。二位以下は知らないけど、ここが絶景なのは間違いない。そうなればタワーに登らない理由がない。昔からなんとかと煙は高いとこに登りたがるのは決まってるもの。

 有料だったけどエレベータで上がると、料金だけの値打ちは余裕である、個人的にはポートタワーより値打ちがある。もっともポートタワーなんか子どもの時に行ったきりだけどね。それともっと感動したのは目の前に広がってるのは日本海なんだよ。

 日本海を臨むとこまでモンキーで走って来たんだよ。この感動は・・・誰にも伝わらないか。でもさぁ、でもさぁ、クルマで来たり、大型バイクで来るより感動的なはず。千草先輩も言ってたけど、ツーリングの楽しさとか、喜びはあくまで乗ってる人のモノだって。

 ここまで来るのだって下道オンリーのモンキーと、高速とかを使える中型以上のバイクならそれだけで違うはずなんだ。たとえ同じ道を走っても小型の方がどうしたって苦労するじゃない。そうやって苦労した分だけ手にした喜びは大きいはずだもの。鈴音は勝手にそう思っとく。

 それはそうと腹減ったな。バイクも乗ってるとお腹が空くんだよね。だからお昼も楽しみにしてた。ちゃんと考えてくれてるよね。まだ付き合ってる訳じゃないからデートじゃないかもしれないけど、友だちから恋人関係をたぶん目指してるはず。

 デートと考えるとランチをどう考えてくれてるかはポイントになる。もちろんバイクだし、哲也さんにカネがないのも知ってるから、リッチなものを望んでるわけじゃない。なんだかんだと言ってもライダー飯だものね。だからこその心遣いが欲しいかな。

「ここに行きます」

 タワーの一階のカフェなのか。眺めが良いのは合格だけど、メニューは・・・へぇ、あれこれあるんだ。あははは、限定五食となってるけどGOROバーガーとか、nanakoパンケーキなんて食べる人はいるのかな。

「ユーチューバーなら挑戦しそうですし、インスタ系の人も・・・」

 インスタ系の人は嫌かも。ちゃんと食べるのならかまわないけど、写真だけ撮って食べない人もいるじゃない。それはそうとメニューに『みょうこう』の文字が目に付くけど、これってやっぱり。

「ええ、これを食べに来たようなものです」

 売店のところにもあったけど海軍カレーってやつだな。今なら海自カレーになるだろうけど、響きは海軍カレーの方が良いかな。海軍カレーって有名だけど、あれって一種類のカレーじゃなくて、海自で作っているカレーの総称みたいなものなんだって。具体的には軍艦ごとにも、海自基地ごとにも違うんだってさ。

 海軍カレーって有名だから、それぞれの厨房が腕を競ってるぐらいかもしれないな。でもって、このカフェは護衛艦みょうこうのレシピの海軍カレーを提供してるで良さそうだ。これは食べるべしだよ。

 感想は海軍カレーだった。美味しかったよ。こればっかりは神戸じゃ食べられないものね。うん、店を選ぶセンスも、メニューの選択も余裕の合格点だ。ライダー飯って、これぐらいの店で、こういうものを食べたいはずだもの。少しだけオシャレなのはデート要素も考慮してるはず。

 だって千草先輩と行ったうどん屋は味も、値段も、店の雰囲気もバイク乗りにはピッタリだったけど、デートに向いてるかと言われたら微妙過ぎる。ああいう店だって構わないのだけど、ああいう店はもうちょっと関係が深まってからになるはず。

 ところでさ、ここまで来てるけど舞鶴の赤レンガ倉庫はどうするの。舞鶴観光の目玉見たいなところのはずだよね。

「あそこも良いところですが・・・」

 あははは。メジャーすぎるか。つうか混んでるだろうから、バイクを停めるところに自信がなかったのか。わかる、わかる。クルマの駐車場は絶対にあるけど、バイクとなれば、それこそ聞いてみないとわからない世界になるものね。

 それと赤レンガ倉庫の目玉はどうしたって海自の艦艇になってくる。艦艇を見て回る遊覧船があるぐらいだもの。ただ軍艦となればとくに女は好みが別れるものね。軍艦があんまり好きじゃなくてもカレーなら文句は出ないだろうとしたのは賢いよ。

 軍隊だってカレーの味で競うぐらいだったら平和で良いものね。あんなもので本気で撃ち合う世界はゴメンだもの。でも男の子なら好きだよね。

「それは認めますが、あれだってメカとしての格好良さが好きなだけで、あれに乗って殺し合いが大好きなのは限られます。自衛隊員だってそうのはずです」

 それもそうだ。殺し合いをするっていうのは、こっちも殺されるかもしれないもの。それが大好きなのは殺人狂みたいなものだ。デザートに五老パンケーキを食べながら考えてた。間違いなく哲也さんを気に入ってる。つうか惚れてる。

 であればみたいな話になるけど、既にウィークポイントも知ってしまってるんだよね。悪いけど生活能力に欠けてるんだよ。さすがにフリーターと結婚するのは躊躇われるもの。これは計算高い女でないつもりだ。

 男をカネで値踏みする女もいるのを知ってる。よりカネがある男を渡り歩き、ゴールに玉の輿を狙ってる女だ。あれだってね、そうしたい理由ぐらいわかるのよ。誰だって願ってまで貧乏暮らしをしたいわけじゃない。

 軽蔑されるのはそのクラスだと思うのよね。そこまで高望みをするかってやつ。鈴音だって共働きは当然ぐらいに思ってるんだ。別に専業主婦になりたい訳じゃない。それでも二人の収入で少しぐらいは余裕がある生活はしたいじゃないの。

 鈴音が望むのはその程度だし、これを高望みって言われたら、言いたいやつは勝手にしろだ。だけど残念ながらそのレベルにも程遠いのが哲也さんだ。それもこれもイラストレーターにこだわり過ぎた部分はあると思ってる。

 だってもう三十歳だよ。あんなもの才能だけで争う弱肉強食の世界そのものだろうし、そこでの勝敗だってもう付いてたっておかしくないじゃないの。けどさぁ、ここまで粘ったから、今さら普通の会社員になるのも難しいだろうな。

 二十代って、なんだんかだと言っても社会人の基礎を身に着ける期間ではあると思うんだ。会社員なら仕事を覚えて、どうやって成果を上げれるかのノウハウを知るぐらいかな。そりゃ、三十歳からでも可能だろうけど、基礎の期間は辛い立場なのはどこの世界も同じだ。今さら、そっちに進めるかは・・・簡単じゃないだろうな。

 だったらあきらめるかはあるけど、好きになっちゃったんだよ。これは理屈じゃない。収入を除けば良い男だもの。だけど鈴音に男を養えるほどの甲斐性はないのよね。そうなると、哲也さんがこだわって来てるイラストレーターで成功してもらうだけど、そんなものどうやったら出来るんだろ。

 そうだ、そうだ、どんなイラストを描いてるか見せてもらおう。可能性を考えるには作品を見ないと始まらないもの。

「こんな感じですが・・・」

 どれどれ、上手だと思うけどわかんないよ。とりあえずコピーさせてもらうか。とは言え、どうしたら良いかわかんない。この問題はここではこれぐらいにしといて、そうだそうだ、ハンターカブのシフトってどうなってるの。

「あれはカブの伝統的なものですが・・・」

 自動遠心クラッチだからクラッチレバーはないのは知ってるけど、シフトレバーが前後のシーソー式になってるのか。前に踏めばシフトアップ、後ろを踏めばシフトダウンなんだって。なるほど、なるほど、

「停車中もニュートラルに入れる必要はありません」

 へぇ、そうなんだ。モンキーなら絶対にそうするけど、ギアが入ったままでもエンストしないみたいだ。それでも停車する時には一速にしておかないと良くないだろうな。

「それと走行中は四速からニュートラルには入りません」

 頭が混乱しそうになったけど、カブのシフトってモンキーと違って循環式になってるみたいだ。シフトアップしていくと四速になるけど、その次はニュートラルになり、さらにその次は一速みたいなんだ。

 走行中に間違ってシフトアップしてニュートラルに入れたり、そこで焦って一速に入れたりしたら困るから四速からニュートラルにならないそうだけど、そっか、そっか、信号とかで停車中なら二回踏めば一速に入ってくれるみたい。

「停車中はそう出来ますが、走行中は一速から四速の間を行ったり来たりだけになります」

 なんとなく頭でわかったけど、クラッチ付とだいぶ違うのだけはわかったかな。一番間違いそうなのはクラッチ付とシフトの順番が逆の点かものね。こんな事を聞いているのは乗ってみたいから。

 だって、買い替える時の最終段階までハンターカブにしようと考えてもの。その走りを知りたいじゃない。頼んだらOKしてくれた。もっとも道路で乗るのは怖そうだから駐車場にしたんだ。

 鈴音たちがバイクを停めたのは第二駐車場なのだけど、その少し下に第一駐車場があって誰も停めてなかったから、そこで乗ってみた。一速に入れて、アクセル開くとさすがノンクラであっさりスタート出来た。

 なんか力強いな。シフトチェンジもしてみたけど、ガツンって感じでギアが入るって言えば良いのかな。短い時間だからエラそうな事は言えないけど、オフロード向けらしく低速が強そうな気がした。

 シフトは慣れるしかないだろうけど、初めてならハンターカブの方が早くなじみそう。クラッチがないから当たり前か。シートは高いと思ったけどシートの前から足を回せるのもラクそうに思ったかな。

 街乗りだってダッシュ力はある気がした。モンキーなんて五〇CCのスクーターにも負けそうになるのよね。それにクラッチ操作でアタフタしなくても良いのもメリットかも。その辺も聞いてみたのだけど、

「他人の芝生は青く見えますが、知らぬが仏です」

 そうかも。他のバイクで良く見えるところは、自分のバイクより優れてるところよね。逆に気づきにくいのは劣るところかもしれない。そういうメリット、デメリットを含めて乗りこなすのだけど、

「そうかもです。ボクもモンキーが百二十五キロまで出るのは素直に羨ましいかったです」

 哲也さんもモンキーに乗ってみるって言ったのだけど、

「AT免許ですから」

 だってさ。