ツーリング日和27(第19話)海自のカレー

 田辺城から国道一七五号が終わった交差点に戻り東に。ここは国道二十七号になるのか。西舞鶴に入ってから市街地走行で少しウンザリしてたのだけど、走るにつれて町はずれって感じになっていって、

「なんかバイパスみたいやな」

 バイパスだろこれ。中央分離帯付きの四車線だし信号も少なくなってるもの。山が近づいて来て登りになって来てる。急ではないのだけど、この程度の勾配でも敏感に道路状況の変化に反応するのがモンキーの優秀なところだ。

「素直に非力と言わんかい」

 五速じゃ引っ張り切れないのよね。速度が乗ってれば五速でも走れるのだけど、

「色んなクルマがおるもんな」

 それは思う。速度制限を守るのが交通法規的には正義なのは言うまでもないけど、

「まあボヤくな。オレらかって知らん道や。流れに乗っ取るのが一番無難やし、それしか出来へんのがモンキーや」

 出来ないと言うな! それがストレスも少なく・・・

「ストレスないか?」

 先に進もう。トンネルが見えて来たからこの峠の頂上のはず。トンネルを抜けたところで、

「右に入るで」

 へぇっと思って曲がったのだけど、なんだよこの道。さっきのトンネルで峠を越えたと思ったのに、ぐにゃぐにゃワインディングじゃないの。

「走り屋は峠を見たら走りたくなるもんや」

 千草は生粋のトコトコ派だし、コータローだって悔い改めてトコトコ教の敬虔な信者になったんだろうが。えいや、こらやと登り詰めると見えて来たのが、

「五老タワーや」

 なんとかと煙は高いところに登りたがるってやつか。でも駐車場は広いし、公園としてちゃんと整備されるみたいだぞ。錨のモニュメントはインスタスポットになりそうだな。

「ここは近畿百景で一位になったとこやねん」

 そんなもの聞いたこともないけど、たしかに景色は良い。そうなると、

「タワーに登るで」

 行きたい、行きたい。あそこからならもっと良く見えるはず。タワーの中には売店もあるけど、

「なんかポートタワーを思い出すな」

 コータローも爺だ。

「全面改装したんはちょっと前やろが」

 最近行ってないだろうが。売ってる物はおもしろいな。舞鶴って海軍の街でもあるから、それ関連のお土産が並んでるもの。三百円也でエレベーターで上がると、これは絶景だ。舞鶴湾がまさに一望じゃない。リアス式海岸は地理で習ったけど、リアスってやっぱり名付けた人の名前だよね。

「オレもそうやと思うとってんけど・・・」

 もともとはスペインのガリシア地方の地形から名付けられとかで、スペイン語で入り江を意味するリアからだって。一つ賢くなった気がする。西側に見える神戸の空港島ぐらいの島が舞鶴の国際港で、アマゾンの物流基地の一つだとかなんとか。あっちに見えるのは、

「色からして軍艦やろな」

 ここにはカフェもあって海軍カレーならぬ海自カレーを食べれるそうだけど、そういうのって因んでるだけよね。

「そうやのうて、レシピを提供してもうて作ってるそうやねん」

 海軍カレーと言うか海自カレーは有名だけど、海上自衛隊で同じカレーを作ってる訳じゃなく護衛艦ごとにレシピが違って、味を競い合ってるそう。ここのはイージス艦みょうこうのものだって。他にも十三種類の海自カレーのレシピが市内の食堂とかに提供されて、色んな海自カレーが食べられるんだって。

「全店制覇したんはおるやろな」

 ユーチューバーなら絶対にやりそうだ。舞鶴だけでなく全国制覇をしたのがいたっておかしくないだろ。ユーチューバーとは、そういうことをする人種だもの。ここは寄り道だったけど思いの外に良かった。さすがは近畿百景第一位なだけのことはある。

 舞鶴って港と言うか軍港ってイメージしかなかったけど、舞鶴湾の美しさも見どころとしてあったんだ。実際に来てみたら発見ってあるもんだね。

「場所的にお手軽にとは言いにくのがネックやな。舞鶴観光言うても西舞鶴まで足を伸ばすんは少ないやろ」

 そんな気がする。舞鶴にクルマで来るなら舞鶴道になると思うけど、舞鶴西ICじゃなくて舞鶴東ICに下りそうだものね。舞鶴東ICで下りたらそこから西舞鶴までは、

「ユーチューブでも少なかったわ」

 原付じゃないバイクもそうだし、電車ならなおさらだ。五老タワーは東西舞鶴の間の山にあるぐらいで良いと思うけど、東西舞鶴をセットで回るのなら立ち寄りポイントになるけど、東舞鶴観光の人からしたらわざわざ足を伸ばすとこだものね。


 五老タワーから国道二十七号に戻り東舞鶴の街に入って来たぞ。なんかこっちの方が新しいと言うか、昭和でないと言うか、平成みたいな街の感じがする。あそこに見えるのは赤レンガの倉庫だよ。ここが舞鶴の、

「いやもうちょっと先や」

 そういうけどあれだけ立派な赤レンガ倉庫がそんなに残ってるはずないじゃない。ハーバーランドだってあれだけしかないんだよ。と、抗議しかけたら次々に見えて来た。どれだけ赤レンガ倉庫があるんだよ。舞鶴恐るべしだ。

「ここを左でエエはずや」

 駐車場にバイクを停めて行ったのだけど、まさにふひょうだよ。ここまでになれば赤レンガ倉庫群だよ。ハーバーランドのあれはなんだったんだ。コータローは二号棟に行って、

「遊覧船に乗るで」

 桟橋から遊覧船に乗り込んだけど、これは神戸で言うなら港めぐりみたいな感じみたいだ。ガイドの人も元自衛隊員みたいだけど、これは港めぐりと言うより軍艦巡りだよ。掃海艇とか、ミサイルなんたら艦、イージス艦、補給艦は大きかったけど、

「ひゅうがもおったやん」

 あれは空母だ。これはなかなか見れるものじゃないぞ。戻ってきたら五号棟に行って、

「お腹がカレーしか受け付けん」

 千草もそんな感じ。ここは、ふゆつきって護衛艦の海自カレーだそうだけど、これが世間に名高い海軍カレーってやつか。それにしてもどうして海軍はカレーで有名なの?

「諸説あるけど美味いからやろ」

 それで終わらせるな! もっとも一般的な説は長い航海に出ると海しか見えないから、乗組員の曜日感覚がなくなるらしい。そこで金曜日にカレーを出していたとされてるけど、

「そうするためやのうて、そういうメリットもあるぐらいの話みたいやで」

 こんなものまで調べてる人がいるのに驚かされるけど、終戦から十五年後ぐらいの海自隊員の経験談としてカレーは出たけど、給食のメニューサイクルぐらいだったの証言がまずあるそう。

「そこから話が飛ぶと言うか、ある意味で肝心なとこがわからんのやけど・・・」

 ある時期から土曜の昼食はカレーになったのだそう。そうなった理由として、当時の土曜は半ドンだから、後片付けが容易なメニューとして選ばれたとか。厨房員の負担軽減ってやつだろうか。

 後片付けが容易である点でカレーがあっても良いと思うけど、なぜにカレーだけになったのかははっきりしないそう。最初からカレーが選ばれたのか、それともいくつかあったメニューからカレーだけになってしまったのかも不明だそうで、

「やっぱり美味しかったからやろ」

 この土曜カレーが金曜カレーになった理由だけはわかっていて、笑ったらいけないけど自衛隊も週休二日制に移行したからだって。でもさぁ、でもさぁ、金曜は半ドンじゃなくてフルタイムじゃない。別にカレーにこだわらなくても、

「やっぱり美味しかったからやろ」

 これはコータローに言われて気が付いたのだけど、毎週同じメニューが出て来るのは辛いところはあるはずなんだ。カレーが好きな人は多いと思うけど、海自の入隊条件に、三度のメシがカレーなら人生バラ色みたいなカレー狂であるのは条件にないはずだろうって。

 カレーが嫌いとか、それほど好きじゃない人だっているはずだから、土曜が半ドン時代の厨房員負担の軽減の大義名分がなくなった週休二日制への移行の時に、土曜カレーから金曜カレーへのスライドに反対意見が出てもおかしくないよね。なのにカレーが生き残ったのは、

「やっぱり美味しかったからやろ」

 これもたぶんそうのはずだけど、週一のカレーを守るために厨房員も努力を重ねたはずだって。隊員たちに飽きられて、

『ああ、また金曜や』
『伝統や言うけど、これはもう苦行やで』
『海自におる限り続くと思うウンザリや』

 こうなってしまったら困るよね。とくに土曜カレー時代にこんな声が大きくなってしまったらカレーは中止になり、そのために厨房員の負担が増えても困るじゃない。だから味の改良に心血を注いだんじゃないかって。

「やっぱり美味しかったからやろ」

 毎週の土曜カレーが美味しいと受け入れられていたから、週休二日で土曜カレーがなくなり、金曜にスライドしてもとくに反対の声が上がらないどころか、むしろ歓迎の空気だったんじゃないかって。

「結局のとこようわからんけど、やっぱり美味しかったからやろ」

 不味けりゃ排除されるものね。古い組織には由緒不明の伝統がよくあるけど、海自カレーもその一つかもしれない。そのお味だけど、

「普通に美味いな」

 そう思った。