ツーリング日和19(第18話)大鳴門橋でランチ

 福良への峠道だけどこっちはバイクだからなんとか走り抜け、峠道を下りてくると、

「見て見て、帆船みたいじゃない」

 大阪にもあったけど帆船型の遊覧船で良さそうだ。そこから道の駅福良に立ち寄ったのだけど、

「この道の駅ってさっき見た遊覧船の発着場になってるみたいだね」

 渦潮クルーズってやつだろう。それにしても駐車場もいっぱいだ。そんなに人気があるのかな。

「あるのじゃない。あるからあんな咸臨丸もどきを作ったはずだよ」

 ここで思ったのだけど国道二十八号って福良が終点なんだよ。それって、

「あっ、そっか、大鳴門橋が出来る前はフェリーだったはずよね」

 徳島からのフェリーが福良の港に着き、そこから国道二十八号で岩屋まで行き、そこから明石にフェリーで渡っていたはずなんだ。

「だったらここもかつてはフェリーターミナルだったのか」

 そのはずだけど、淡路までは旅行で行ったけど徳島は行かなかったよな。

「チサもそうだった。というかさ、モンキーセンターは行ったはずだけど、そこからどうしたんだろう」

 国道二十八号で洲本に戻ったんだろうな。さて、ここから大鳴門橋を目指すのだけど、ここは無難に行こう。アワイチはさっきの峠道から引き続いてうずしおラインに入るってなってたから、道を少し戻ってうずしおラインだ。

「ここも登るんだね」

 そんなに急じゃないけどかなり登るな。大鳴門橋だけど、ここも動画の人と少し違うところに行くことになる。動画の人は道の駅うずしおに行ってるけど、現在改修工事中なんだ。だから仮営業中のうすまちテラスに行くつもり。

「あそこみたい」

 駐車場にバイクを停めて歩いて行くと、

「こ、これは・・・」

 うずまちテラスは土産物売り場と、淡路島バーガーを売っている窓口と、トイレの構成になってるけど、まだ新しくて綺麗な建物になってる。その建物の前に広い芝生広場があり、西側に大鳴門橋、南側にも海が見える。

 芝生広場のフェンス沿いには多くのベンチが置かれ、中には屋根付きの四人掛けみたいなのも十台ぐらい並んでるかな。また大鳴門橋の正面には玉ねぎをモチーフにしたおっ玉チェアと階段状のものもある。

 とくに大鳴門橋と鳴門海峡、四国を臨む西側はホントに素晴らしいとしか言いようがない。大鳴門橋を臨むベンチを確保できたから、いよいよチサさんの手作り弁当のお出ましだ。これは美味しそうだ。彩りも綺麗だし、どっかの茶色弁当とはエライ違いだ。さっそく食べてみたのだけど、

「美味しい!」

 こんな美味しい弁当を食べるのは生まれて初めてだ。

「大げさだよ、まあ空腹は最高の調味料って言うし、このロケーションで食べればね」

 そんなレベルじゃないよ。それにだぞ、この弁当を誰が作ったと思ってるんだ。チサさんの手作り弁当を高校時代に食べたりしたら、学校中の男連中から石を投げられ生きて帰れなかったはず。

「いつからそんなお世辞量産マシーンになったのよ」

 晴れ渡った空に蒼い海は絶景だけど、チサさんだって負けていない。会うたびに感心するしかないのだけど、晴天の真昼間にこの美しさは奇跡だ。

「でもないって。外でお弁当だからここまで仕上げるのは大変だったんだから。どう頑張っても元がバツイチのオバサンだものね」

 歳がお互いにオッサン、オバサン年齢になっているのはそうだけど、チサさんの美しさは美魔女そのもの。いや魔女じゃない、チサさんに魔女は失礼極まりない。これは穢れを知らない聖女の美しさだ。

「どこが穢れを知らないよ。バツイチだから旦那とやりまくってるのは保証付きだし、チサだってヴァージンでお見合いして結婚してないよ。何人もの男を知ってる穢れまくった立派なオバサンよ」

 それはわかってるよ。でもさぁ、旦那とやろうと恋人やろうとそれが穢れじゃないだろ。穢れてるって言うのはさ、

「ありがと。高校の時はせっかくコウキにイワケンの魔の手から守ってもらったのに、人生って思う通りにならないのよ。チサは間違っても聖女じゃないよ」

 そう言うや否やボクのペットボトルを取り上げて飲んじゃったじゃないか。そんなことをすれば間接キッスに、

「もうお互い幾つになったと思ってるの。さすがに直接でブチュってやったらこの歳でも問題があるかもしれないけど、ペットボトルの回し飲みぐらい誰も気になんてするものか」

 そういう歳になってしまっているのはわかってるつもりだけど、

「だいたいだよ。バーでモヒートを回し飲みしてるじゃない。バーで良いのならここで悪い訳ないでしょうが」

 ごもっとも。

「これは怒らないでね。ミサに相談した時にコウキを頼れってアドバイスされたのはウソじゃないけど、コウキだったのが意外過ぎると言うか、あの、その・・・」

 選りもよってガリ勉陰キャのボクに頼るのが嫌だったのか。そりゃ、そうだろう。他に方法があれば避けたいよな。

「悪い人じゃないのは知ってたよ。でも、どうしてもね」

 だったら無理しなくても、

「ミサのタロット占いって良く当たるじゃない。でも相談した時はタロットを使わなかったの。ミサが言うにはタロットはただの道具で使い手の能力を反映してるんだって」

 白滝さんならそうだろうな。

「タロットは使い手の能力を引き出すことはあるけど、ミサぐらいになるとタロットを使わなくても引き出せるというか、タロットをミサが操ってるになるとか」

 操るのじゃなく勝手にそうなるというか、あれってタロットを使って時間を稼いでいる間にどう答えるかを考えてる時間で良いはず。

「さすがにミサのことは良く知ってるね」

 だから付き合いは小学校からだって。白滝さんの口調は独特というか、何時代の人間なのかと言うか、どれだけ上から目線なのかってのものだけど気にならなかった?

「そうだったよね。とくに占いの結果を告げるときなんて輪をかけて迫力あったもの。あの時だって、

『そなたの破滅はほぼ確定しておる。常ならば避ける事など出来ぬ。だが唯一つだけ隠された救いの道が残されておる。それをわらわは示した。そちが救われたいと思うのならば従え。従わざる時は破滅しか待っておらぬと心得よ』

どれだけ怖かったか」

 なんとなくわかる。だから今は星辰教の教祖様になり予言者やってるもの。白滝さんってどんな職業になるのだろうってずっと思ってたけど、今となれば天職だよ。

「コウキ、どうでも良いけどミサのことはどうしてそんなに覚えているのよ。やっぱり好きだったの?」

 えっ、白滝さんを。そんなのは学校中探しまわってもいなかったのじゃないかな。白滝さんも美人の方に入るとは思うけど、あれってどう見ても変人だぞ。それも半端な変人じゃなくて生まれついてのウルトラ変人だし、憧れたり恋焦がれたりされるよりひたすら怖がられただろうが。

「それはわかるけど、仲良かったじゃないの」

 だから小学校からの腐れ縁だって。

「どうだか。そこは置いとくとしてコウキもミサに脅かされてチサを助けたの?」

 う~ん、そんな感じじゃなかったな。白滝さんは怖がられていたけど、ボクは怖くなかったんだよ。昔から知ってるから頼まれたらホイホイって感じだった。たくさぁ、あれだけ予言が出来るのだから試験問題ぐらい予言で当てろと言ったぐらいだもの。

「よくそんな口を利けたよね」

 もうバラしても良いと思うけど、白滝さんは試験問題の予言まで出来てたんだよ。

「それってマジの話なの」

 ホントだよ。白滝さんはああ見えてと言うか、どう見えてたか知らないけどホントに勉強嫌いだったんだ。

「でも成績は・・・」

 だから、それは出てくる問題が予言できたからだって。それにトコトン胡坐をかきまくりやがって、予言出来た問題が解けないって泣きついて来たのさ。だから助けたのも一回や二回じゃない。

「だったらチサの時も」

 あれは違う。白滝さんは試験問題を予言は出来たけど、それを誰にも漏らしたりはしなかった。物理の時は例外みたいなもので、どうしたって解けなかったからそれこそボクを脅すようにして協力させたのだよ。たく合格点ぐらいは自力で解いてみろよと思ったもの。

「そうだったんだ」

 この話は白滝さんが秘密にしてくれって頼まれていたけど、さすがに時効だろう。

「ミサとはそこまで仲が良かったんだ」

 悪くはなかった。ああ見えてミサの性格は悪くない・・・あれが良いとするのも無理はあり過ぎるけど、

「間違いなく良い人よ。チサも助けてくれたもの」

 その辺は不思議な人徳があったのは認めてやるか。さてそろそろ行くか。

「そうだね。そろそろ行こうか」