ツーリング日和19(第17話)南部の峠越え

 大浜海岸を過ぎると洲本温泉みたいだけど、

「こんなに立派だったっけ?」

 ボクも意外だった。洲本温泉は明石大橋が出来た後に苦戦していた記事を読んだことはある。それまでは淡路旅行は泊りが定番だっだけど、橋が出来たお蔭で日帰り旅行にシフトしたとかだったはず。

「もうホテルニュー淡路ぐらいしか残ってないと思ってた」

 実はボクもそうだったのだけど、大きな旅館やホテルが軒を並べるみたいにあるじゃないか。それもまだ新しい気がする。これって、

「う~ん、引き留める観光開発に成功したぐらいかな」

 色々出来ていたはずだ。日帰りじゃもったいないと思わせる観光開発の成功ってやつかな。でもそれだけじゃない気もする。たしかに明石大橋は時間の短縮効果はあったと思うけど、やっぱり淡路は大阪や京都から遠いと思うんだ。日帰りでも行けないことはないけど、どうせ淡路まで観光で出かけるならノンビリしたいもあったんじゃないのかな。

「それもある気がする。明石からの国道フェリーなら二十分ぐらいだったんじゃない」

 ジェノバラインは昔の国道フェリーの航路に近いはずだから、時間短縮と言ってもさほどの効果じゃなかったかもしれない。そのうえに滞在時間が延びるような観光開発もしたから再び洲本温泉も栄えだしたのかも。

「ホントのところはわからないけど、子どもの頃に泊まった洲本温泉が寂れてなくてホッとした」

 その気持ちはわかるな。遊園地なんかがそうで、

「USJが出来てどれだけ潰れてしまったことか」

 USJはたしかに良く出来た施設だけど、宝塚ファミリーランドや阪神パーク、

「ポートピアランドも無くなったものね」

 道は国道から県道に変わってるけど、洲本を過ぎてからぐっと空いてきた。やがて由良の街に入ったけど、

「あれが成ケ島よね」

 そうのはず。成ケ島から砂州が伸びてて淡路橋立とも呼ばれてる。それにしてもこんなに近いのか。

「初めて見る」

 いやそうじゃないはず。モンキーセンターとか黒岩水仙郷は行っただろ。

「そっかそっか、ここは通ってるはずだよね」

 実はボクも成ケ島を見るのは記憶の中では初めてなんだ。覚えてないのはやっぱり大人と子どもの差だろうな。同じ風景を見ても大人と子どもの感じ方と言うか、記憶に残るものは同じじゃないもの。

「それわかる。子どもの時の記憶ってゲームセンターだったり、お土産物売り場だったりが多くて、風景はそれほど興味ないものね。ここだって通ったはずだけど寝てたかもしれないもの」

 由良の街は漁船だと思うけど造船関係の工場が多いけどもう終わりか。すぐに登りになったけど、あれっ、これはさっきの曲がり角だったかもしれない。ここでターンしよう。

「えっ、ここで。なんか怖いな」

 ゴメンナサイだ。ここは動画では行っていないところだけど、別の動画で良かったんだよ。うぉ、これは山道だな。急カーブが続くし、薄暗くて、路面も少し荒れてる。

「それより狭いよ」

 やがて分かれ道があったけど第一駐車場の方に行くことにする。ここみたいだな。道はあんまり良くなかったけど、駐車場もトイレやベンチまで整備されてるぞ。バイクを停めて、

「これは絶景よ。あれって友が島よね」

 ここの景色が良いのは折り紙付きのはず。というのも、戦前はここに大要塞があったんだ。狙いは紀淡海峡から大阪湾に侵入してくる敵艦隊を迎え撃つためだ。

「なるほど! だから一望できるのか。役に立ったの?」

 立たなかった。明治のころから断続的に強化されたそうだけど、日清戦争も、日露戦争も、第一次大戦も、日中戦争も本土は攻められていないし、

「そっかそっか、第二次大戦のB29は撃ち落とせないか」

 景色を楽しんで道を引き返し、さっきの峠道に。ここは一車線半ぐらいの狭い道だし、峠道らしくカーブの連続。それに結構な登りだ。

「サイクリストの人も苦戦してる」

 押してる人までいるもの。それに走ってみるとかなり長い。淡路にこれほどの峠道があるとは思わなかった。あちこちで休憩しているサイクリストの人たちを追い越しながらやと下りだ。

「ナゾのパラダイス?」

 立川水仙郷のことだけど閉園って書いてあるな。チサさんは行ったことがないのかな。

「あるよ。水仙は覚えてないけど、なんか変と言うか妙な置物があったのを覚えてる」

 ボクが行った時もそんな感じだったけど、それが発展と言うか拡大したらしく、さらにナイトスクープが取材したからプチブームになったらしい。

「水仙の時期以外の集客のためかもしれないけど、そもそも水仙だけで商売になったのかな」

 それはボクも疑問だったけど、水仙を見せて商売してると言うより、水仙を売って商売してたのじゃないかな。

「そんなに水仙って儲かるの」

 うぅ、そこまでは知らないな。峠道を下って来ると、

「これって、最高のシーサイドロードじゃない」

 ボクもそう思う。波打ち際にあるし、堤防だって低いから海が広々と見える。道だって緩やかなカーブ程度だよ。

「あの島は?」

 沼島だろ。沼島って小さいって聞いてたけど、こうやってみると存在感があるな。シーサイドロードを楽しみながら走って行くと、沼島への渡船の乗り場があった。綺麗に整備されてるけど、

「こんなところにクルマ無しでどうやって来るのだろう」

 ボクもそう思った。もっとも沼島に観光に行く人はさすがに少ないだろうから、これで良いのかもしれないけど。沼島の渡船場を過ぎると道は緩やかに登って、少し高台から海を見下ろす感じに。

「これはこれで絶景だよ。サイクリストの人も由良からの峠を越えたご褒美に感じるんじゃないかな」

 バイクでもそう感じるから自転車ではなおらさらだろう。道は下って阿万の街に入ったのだけど、

「海水浴場には行かないの」

 動画の人は行ってたけどパスだ。それよりここからが問題なんだ。目指すのは福良だけど、どうやって行ったのかがわからなかったんだ。だから南淡路水仙ラインを北上して、国道二十八号から福良に向かうつもりだったのだけど。

「アワイチは左に曲がるってなってるよ」

 淡路を走ってわかったのだけど、アワイチのコース整備はかなりされてるみたいなんだ。随所に案内とか距離表示がしっかりあるもの。

「緑の道しるべもそうじゃない」

 ちょっとした休憩所みたいなものだけど、あれもサイクリストのためかもしれない。それが必要なぐらい自転車も走ってるもの。アワイチはサイクリストのためだけど、自転車が走れればバイクだって走れる。

「原付自転車だものね」

 それはちょっと違うと思うけど、今日の目的はアワイチだからそっちを走ってみよう。なんか山に向かってるけど、

「この道も相当な峠道だよ」

 たしかにそうだ。由良の峠並みかもしれない。サイクリストの人も苦労してるもの。自転車ならパスしても良さそうな気がしたけど、

「サイクリストの人だって大変だと思うけど、こういう峠道を越えるのもサイクリストの楽しみじゃないのかな。ツール・ド・フランスにも山岳ステージがあるじゃない」

 楽しみまではどうかと思うけど、越える価値は認めてるかもな。自転車もそこに道があればどこでも走れるツールだし、バイク以上に険しい道だって走ってるのも知っている。だってさ、ハイキングに行ったらバイクを担いで上がってくる人に出会ってビックリしたもの。

 それと由良の峠だって越えればあの海岸線の絶景シーサイドロードが待ってるとは言える。まさに苦あれば楽ありだ。そういうのが楽しいからサイクリストをやってるはずだもの。

「バイクだってそうだけど、趣味が違えば醍醐味とかカタルシスは変わるのよ」

 これは一本取られたな。