ツーリング日和19(第40話)秘術の実態

「ところでさぁ、ミサが誰かの不幸を防ぐ術ってなにをやらされてたの」

 あんなもの話したくない。

「聞かせてよ。チサのお願い」

 卑怯だぞ。そんな上目遣いで頼まれたら断れないじゃないか。あれはまさにトンデモだった、簡単なやつなら安来節だ。

「それって泥鰌すくい?」

 ああそうだ、あれをみんなの前でやらされた。それも成績だけは優等生のボクにだぞ。

「他には」

 腹芸って言って、お腹に人の顔を描いて踊るのもあった。でもそんなものは大したものじゃない。ミサがなぜか異常に好んだのはストリーキングだ。

「それって裸で走るやつ」

 ああそうだ。さすがに街中を走らされるのじゃなく、人目がまずないところでやらされたけど、それでも屋外だから誰に見られるか分かったものじゃないから、恥ずかしいなんてものじゃなかった。せめてパンツだけは許してくれと頼み込んだけど、

『下郎めがわらわの術に意見するか。すべて脱がなければ友垣を見捨てることになるのじゃぞ。うぬはその程度の卑しい心しか持たぬと言うのか!』

 やらされたよ。靴下まで脱いで素っ裸でミサが満足するまで走らされた。

「それってミサも見てたの」

 見てたよ。というかミサしか見ていない。それも見てたなんてものじゃない。ミサのあんにゃろめは、

『振りが少し足りぬが、されど今のうぬならこれが限界じゃ。それでもなんとかなるであろう』

 信じられるか! フリチンがどう動くかまでしっかり観察してやがったんだよ。チサはなにか考え込んでから、

「それって玉振りの秘術かな」

 あのな、それは玉振りじゃなく魂振りだし、やらされたのは竿振りだろうが。

「そうなんだけど、魂振りは体を震動させることで魂を活性化させ霊力を蘇らせたり高めたりする秘術よ」

 魂振りは古神道からあるはずだけど、今でも宮中祭祀の鎮魂祭で行われるってマジかよ。だからと言っていくら竿振ったって、

「ミサの秘術は二つの要素があると思うの。一つは羞恥心の活用」

 そりゃ恥ずかしいなんてものじゃなかった。ミサしか見ていないとは言えスッポンポンのフリチンだぞ。

「そこに意味があったのよ。だって羞恥心が極限まで高まるでしょ」

 あのな、極限を突き抜けるぐらい高まるわい。

「そうしておいての竿振りじゃない」

 羞恥心にまみれながら竿振ったら何か起こると言うんだよ。

「古来より陽根には霊力があると考えられ、日本だけでなく世界各地で祀られてるじゃない。それを震動させるのだから霊力が高まるに決まってる。より大きく震動させるためにはフリチンでなければならないし、そこに強い羞恥心を加えることでさらに効果を高めたはず」

 いかにも意味がありそうに解説してるけど、やらされたのはミサの前でやらされたストリーキングだぞ。あんなもの三流芸人だってやらない珍芸だ。

「いつまでやらされたの」

 言いたくない。これだけはチサにいくら頼まれても、

「聞かせてよ。コウキのすべてを知りたいの」

 違うだろ。ボクのすべてじゃなく野次馬としての興味だろうが。だからその上目遣いはやめてくれ、

「チサのお願い」

 なんてこった。ストリーキングは小学校からやらされたが、中学でも続き高校でもやらされた。

「高校の時ならコウキは反応してたんじゃない」

 これ以上は聞くな。誰にだって話したくないことぐらいあるだろうが。

「チサのお願い」

 まただ。その縋るような上目遣いは頼むからやめてくれ。ちくしょう、今日はなんて日だ。こんなものチサにカミングアウトする代物じゃないだろうが。

「お願い」

 高校ともなれば思春期の真っただ中だぞ。別にミサの前じゃなくても女の子に見られながらフリチンをさせられれば反応してしまうじゃないか。そりゃ情けないと言うか、みじめなぐらい反応していた。

 そうやって反応していることを知られるだけでも、恥ずかしさが胸に突き刺さるどころか、突き破って風穴が空いたよ。それでもミサのあんにゃろめは情け容赦なくやらせやがった。しかもだぞ、ミサだって高校生の女の子だぞ。それなのに、

『やはり益荒男はこうであらねばならぬ。こうであってこそ大いなる流れを変える力を得られるというものじゃ』

 女子高生があんなものを冷ややかに見れる方がおかしいだろうが。普通なら悲鳴を挙げて逃げるとか、せめて顔を覆うとか、目をそむけるものだ。それなのに、それなのに一部始終をまるで科学者のように観察しやがった。

「そこまで反応していたら、さぞや豪快な竿振りだったのでしょうね」

 チサ! お前まで・・・そっか、そっか、チサにはそれぐらい見飽きるぐらい見てるか。それでもまだ高校生だったんだぞ。

「だから効果があったのじゃないかな。魂振りの震動は大きい方が良いはずだもの。こんなことをしてくれる人だからミサはコウキを選んだはずよ」

 どこか間違ってるぞ。ボクだってやりたくてやった訳じゃない。あんのもの進んでやったら露出狂だろうが。そんな趣味は断じてない。

「でもやったんでしょ」

 仕方ないだろうが。ミサの命令だぞ。

「ミサの命令だからでしょ」

 なんか話の流れがおかしいぞ、

「やっぱりあの噂は本当だったんだ」

 なんの噂だよ。

「コウキとミサが付き合ってる噂よ。竿振りの秘術なんてミサの彼氏じゃなかったら出来ないもの」

 あのな、彼氏にだって出来るものか。だいたいだぞ、彼氏にそんな破廉恥なことをさせる彼女がどこにいるって言うんだよ。ボクはマゾじゃないぞ。もっともミサにはサドがありそうだけど、

「でもさぁ、そこまで出来るってお互いのすべてを知っていないと無理だよ。ミサだって肌を許した相手だからそこまで頼めたし、そんなミサの頼みだからコウキも断れなかったのでしょ。そこまでの関係だったとはさすがに意外だったな」

 チサの説明は合理的なところがあるのは認める。あんなものを彼氏にやらせるのはともかく、それぐらい深い関係でなければ頼まれたって出来るものじゃないからな。だけどな、ミサとは深い関係どころか付き合ってもいない。そもそも手さえ握ったこともあるものか。

「手を握るぐらいはあるでしょ。たとえばさ、体育祭のフォークダンスならあるじゃない。それも定番のように中学ぐらいからオクラホマミキサーだったじゃない。恋人とか関係なしに、どう考えたって一度ぐらいはあるはずよ」

 あのな、ミサはそんなに甘い女じゃない。