チサはしばらく考え込んでいたけど、
「やっとわかった気がする。ミサはコウキを恋人として選んだ。いや恋人どころか結婚相手として選んだはず」
そんなことがあるものか。ボクだってミサを恋人とするのはご遠慮したかったけど、ミサだってガリ勉陰キャでブサメンのボクを選ぶ理由がないじゃないか。
「ミサがコウキを選んだのは一度結ばれたら自分しか見ず、あらん限りの愛を傾けてくれる男だからよ」
ボクが離婚しているのを忘れてるぞ。初婚は物の見事に失敗してる。
「ミサは女の運命を変えるために男と組み合わせる秘術があるとしてたよね。その男も女の運命を変えられる男じゃないとダメだって。さらにそんな男は滅多にいないともしてた」
ミサはそう言ってたけど、
「あれは男の方にも、そう出来る女と組み合わせるのが必要だったのよ。コウキの元嫁はそうじゃなかっただけ」
わかりにくいな。誰でも幸せに出来ないのは離婚したから実証済だけど。
「コウキが真の実力を発揮できるのは不幸な女だ」
チサはそうだけどミサは・・・あんにゃろめに幸せとか不幸せって感覚があったのだろうか。
「ミサは自分の不幸に気が付いてたのよ。ミサには人の運命を見通せる天与の能力がある。でもさぁ、そんなものが見えてしまうって不幸なことじゃない。だからミサはその不幸を避けさせようと懸命だったのよ」
おかげで、フリチンで何度も走らされた。
「ミサはそんな自分に女の幸せなどあり得ないと思っていたはず。でもね、ミサだって女なのよ」
ミサが生物学的に女なのは認める。
「自分の運命を変え、女の幸せを与えてくれる男としてコウキを選んだはず」
ちょっと待て。どういうことだ。
「ミサがコウキと結ばれたらあの能力は消えたはず。ミサの不幸の原因はそこだからね。それを消し去る力がコウキにあるはずなんだ。そしてコウキは結ばれたミサに渾身の愛を捧げ尽くしてくれるじゃない」
男と結ばれたらミサのあの能力が衰えたり、消えたりする可能性があるのはまだ認めよう。あの手の巫女的な能力の前提は、たいていは処女だからな。だけどだよ、どうやってあの能面無表情女のミサに恋愛感情を抱くって言うんだ。
「良く言うよ、それはこの世でコウキだけが知ってるじゃないの」
しまった、それもチサに話してしまっていた。ああそうだよ、ミサは能面無表情女だったが、ボクと二人の時にだけ表情を見せていた。
「可愛かったのでしょ。だからハートを撃ち抜かれてベタ惚れしたのでしょ」
誘導尋問に嵌められた。ああ白状するよ。ミサは能面無表情女だが掛け値なしの美人だ。スタイルだってあの服というか装束の上からしかわからないけど素晴らしいはずだ。信じられないかもしれないけど、笑えばそれこそ天使のように可愛いんだよ。
「やっぱりそうだったんだ」
だがな、ミサの真価はそこじゃない。そんなものミサの上っ面を見てるだけだ。
「そんなミサを見れるだけでもレアな気がするけど」
うるさい。否定はしないけど、ボクがミサに惚れたのはなによりその心だ。ミサは友だち思いだし、本当に心優しいんだ。
「口ぶりとは裏腹に本当に友だち思いなのと心優しいのはチサも感じてた」
そりゃ、取っ付きにくいなんてレベルじゃない塩対応だし、上から目線の権化のような何時代の人間かと思うほどの物言いだし、取り扱うのがクソややこしいウルトラ変人キャラだったけど、そんなものを余裕で吹き飛ばす魅力がミサにはあった。
ああそうだよ、ボクはそんなミサに欲情していた変態だ。ミサに恋人と認めてもらい付き合いたかった変人だ。ミサと結ばれて、結婚してミサを幸せにすることを夢見ていた変わり者だ。あの頃のボクはミサこそがすべて、ボクはミサに恋焦がれていた。
「思っていた通りだ。コウキの初恋の人はミサだったんだ」
ミサの笑顔を見た瞬間に恋に落ちたよ。
「いつだったの?」
そんなもの初めて見た時だ。
「それって、まさか小学校の時から」
その通りだよ。あの日からミサに夢中になり、ミサがボクのすべてになった。だからミサのためならなんでもできた。それでミサが満足し、喜んでくれるならフリチンだって出来た。さすがにフリチンは抵抗もあったけど、ミサの願いだぞ、ミサがそうして欲しいと言ってるものを断れるはずがないだろう。
「それって、高校までに既に・・・」
反応するに決まってるだろう。愛しのミサに見られてるのだぞ。それで反応しない訳があるものか。そんな姿を見られるのは恥ずかしいなんてものじゃなかったが、もし反応できてなかったらミサへの愛の裏切りになるじゃないか。
チサが憧れの特別の人だったのはウソじゃないが、チサには悪いがそれだけの人だった。だからイワケン事件もすっかり忘れていた。それぐらいしか興味が無かったんだよ。ボクが見ていたのはミサだけだ。
ミサはとにかくあのキャラだから怖がられていたし、敬遠もされていた。でもさ、本当のミサはそうじゃない。だから悔しかったんだよ。だから世界中の男がミサを怖がり敬遠しようとも、ボクだけはミサを絶対に幸せにしようと思ってたんだ。ミサはそうされるべき女なんだよ。
「ああやっぱりそうだったんだ。ミサに見えたコウキの能力はそれのはず。コウキには女の運命を変える力が秘められている。それはコウキがその女が不幸になっていると感じ、それを自分が愛することで救おうと思った時にのみ発揮される」
なんかチート過ぎる能力だな。じゃあ、どうして初婚は失敗したんだ。
「元嫁を不幸と感じなかったからよ。だから救う気も起らず、コウキの能力も発動されなかった」
たしかにそうだったけど離婚まで行くか。
「コウキがその能力を発揮して愛せば、不幸な境遇にいる女を幸せに出来る。だけどね、そうじゃない場合はその能力が邪魔して不幸になってしまう」
おいおい、それはいくらなんでもだろ、だったらボクは平凡に恋をして、平凡に結婚したら不幸になる運命しかないって言うのかよ。
「そのはずよ。だからミサは自分が幸せになるためにコウキを選んだ」
ミサがボクと結ばれ結婚したら幸せになるのは良いとしてボクはどうなるんだ。
「もちろんコウキも幸せになる。コウキの能力は選ばれた女のみを救い幸せにし、選ばれた女と結ばれた時のみ幸せになれる」
それってチート過ぎるだろうが。そのボクの能力とやらが発揮されるのにもう他の条件は無いよな。
「まだあるよ。ミサはこうも言ってたよね。あの秘術は選ばれた不幸な女が自分の意志でコウキを選ぶ必要としてるのよ」
それもミサは言ってた。だったらさ、その選ばれた女ってのは、どれだけいるんだよ。
「コウキと同じぐらいじゃないの」
えっ、えっ、
「ミサはそういう男が見えるじゃない。だけどミサでも見つけられたのはコウキだけだったはず」
そんなに少ないのかよ。
「だってだよ、チサが選ばれた女になるためには、奴隷屋敷を生き残り、売春婦をやり、前科者になり、ホテトル嬢で男を搾りまくってやっとじゃない。あそこまで経験して選ばれた女の資格をチサも手に入れた」
あのな、そんなに資格を取るのにハードルが高いのかよ。そんなもの一生のうちにいるかいないかレベルだぞ。