ツーリング日和10(第32話)いよいよ四耐

 今日は四耐の決勝。コトリと初めて鈴鹿に来たよ。ミサキちゃんの奮闘でライディング・スーツもスタッフのユニフォーム完成。なかなかオシャレじゃない。

「ウインド・ミルがロゴマークやねんて」

 そういうブランド戦略か。

「スタジャンやパーカーもあるで。着るか?」

 このクソ暑いのに誰が着るか。わざわざ持ってくるな。Tシャツで十分でしょうが。それでもスタッフ用のキャップは嬉しいな。へぇ、タオルまで作ったんだ。

「うちわと電動ハンドファンもあるで」

 助かるけど、こんなものまで必要なのかな。数が出て売れるわけじゃないから普通に買って来れば良さそうな気がする。

「トータル・コーディネイトや」

 まあイイか。そうそう八耐もそうだけど、四耐も歴史ありなんだ。最初から八耐は国際ライダーのレースだったけど、一方の四耐は国内ライセンス者のためと位置付けられたレースで、若手の登竜門とされてたんだよ。

「バイク甲子園みたいなもんや」

 今よりレギュレーションが緩い時代なのもあって、ドンドン参加台数が増え、当時のバイクブームの影響もあって最盛期は六百十九台もエントリーがあったんだよ。

「そこから二耐と六耐が生まれたもんな」

 四耐決勝の出場台数は六十台だったから予選はそれこその真剣勝負になったそう。だって十台に一台しか走れないものね。それを緩和するために産み出されたのが、

「二耐や」

 四耐予選で六十一位から百二十位の六十台で二時間耐久レースをやり、上位三位までは四耐決勝への出場を認める敗者復活戦のようなもの。それでも二耐まで含めても出場できるのは五台に一台ぐらいだから、

「四耐決勝を走れたら一目置かれたし、二耐出場だけでも箔が付いたらしいで」

 だろうね。四百台ぐらいは予選敗退だものね。だからだと思うけど、

「それでも出場できんからジュニア・クラス用に出来たのが六耐や」

 今となっては信じられないかもしれないけど、八耐、四耐、二耐、六耐の四つの耐久レースをやってた時代もあったんだよ。様々な変遷の末に八耐と四耐だけに戻り、今の四耐はST600になってるの。

 この規格はMFJ公認の市販車で、なおかつ改造範囲が限られるバイクでのレースになってるんだ。今は六百台がエントリーされていた時代がウソのようになり、参加資格さえ満たせば誰でも決勝まで走れる時代になってるよ。

「そうやねんよな。一応七十台が上限になっとるけど、これさえ満たさんからな」

 この辺はST600になっている影響もあるとはされてる。改造範囲こそ狭いけど、MFJ公認車を買うだけで新車なら二百万円ぐらいは余裕でするもの。

「昔は普段乗っとるバイクの保安部品取っ払って参加しとったんも多かったんちゃうか」

 さらにだけど600CCだから大型免許が必要。大型免許だって限定解除時代の運転試験場の一発勝負で合格率三%とは様変わりしてるけど、いきなり大型に乗るのはやはり無理があるよ。原付からとまで言わないけど、せめて中型からステップアップじゃないと厳しいと思う。

「グンとヒデヨシで四耐制覇したイチノセ・スペシャルもGSXーRの400CCやんか」

 そうかつては今の普通二輪、かつての中型免許で乗れる400CCどころか250CCの2stまで混走してたもの。そういう点でST600は参戦するのに敷居が高くなっている部分はあるともされている。でもそんな免許やマシンの問題じゃなくてバイクに乗る若者が減ったのが最大の原因だけどね。

「それでも熱気はあるで」

 そうなのよ優勝や上位を目指すチームのライダーにとっては、八耐とかへの登竜門と今でもされてるもの。

「その一方でプライベーターどころか個人参加もあるぐらい門戸も広い」

 手弁当で参加も可能ってこと。参加最低人数はライダー二人にピットクルー一人だけど、最小の三人体制で参戦しているチームもあるぐらい。そこまでは極端だけど、バイク仲間が五人ぐらいでチームを組んでるところも少なくないらしい。

「バイク代抜きやったら百万円ぐらいで参加できるかもな」

 八耐の一千万円以上に較べると安いよね。杉田さんのチームだって初めは手弁当組の規模だったもの。その杉田さんのチームだけど注目度は高いのよね。さすがはカリスマだよ。

「八耐イベントのモトブロガー座談会のスペシャルゲストやもんな」

 そりゃそうなるだろう。他のモトブロガーが引っ切り無しに逆取材に来てるって話だもの。

「六花も注目されてるよな」

 四耐にも女性ライダーは参戦してるけど格段に目を引くものね。レースクイーンでさえ霞みそうな美貌とスタイルだもの。それだけじゃない実力だって、

「バリバリの国内A級やからな」

 バイクのレースのライセンスも複雑なんだけど、

 国際A級 ← 国際B級 ←国内A級 ← 国内B級 ← フレッシュマン・・・

 この後も続くのだけど省略。というのも分類が細かくてモトクロス用だとか、ロードレース用とか、トライアル用とか別れてるんだよ。他にもコースライセンスとかもあって、レースによって必要なライセンスが異なるぐらい。ただライセンス取得自体は、

「下の方のライセンスは講習会だけでくれるぐらいや」

 もちろんだけど上に行くほど難しくなり、レースの実績を踏まえて認定される仕組みと思えば良いかな。四耐は基本的に新人の登竜門的な性格が強いから必要なライセンスは緩いけど、逆に高すぎるライセンスの規制はあって、

「最高で国際+国内や」

 これも知らなかったのだけど杉田さんは国際B級だったのに驚いた。道理で十勝であれだけ速かったわけだ。バリバリの国内A級の六花と互角だったもの。モトブロガーやりながら大したものじゃない。

「だ か ら、ファクトリーにも声かけられてるし、八耐も走ってるやないか」

 二人の組み合わせだけなら最速かも、

「そうもいかん」

 八耐は世界選手権の最終戦で、四耐は地方大会に位置づけられるそうだけど、日本だけでなくアジアのレーサーの登竜門にもなってるんだって。そう言えば日本の四大メーカーの生産拠点も国内分は少ないものね。

「国によって温度差はあるけど、一九八〇年代の熱気がある国も少なくないからな。あいつらのハングリー精神は怖いで。ここ五年ぐらい日本のチームは勝っとらへんはずや」

 なるほどベトナムとか、タイとか、インドが強いのか。あれっ、中国は、

「あの国はバイクの規制が強すぎてアカンらしいわ」

 指導者にバイク嫌いが伝統的に多いとか、なんとか。中国はさておき、そういう国のハングリー精神が強いのはわかる気がする。それこそスラムから這い上がってきたような連中もいるはずだもの。

「あっちの国流のヤンキーの暴走族上がりもな」

 ギリギリの土壇場で勝負を分けるのは、どうしたって勝つんだの精神力は大きいものね。そういうモチベーションで最強なのが底辺からの脱出とか、一発逆転の成り上がりのチャンスをつかんだ時だもの。

「日本に選ばれて来るぐらいやから、あっちの国ではトップライダー・クラスと見ても良いかもしれん」

 たぶんだけど、あっちの国からすれば鈴鹿四耐は夢のステージになっていても不思議無いよね。そのステージに立つだけでなく。名誉とカネさえ手に入るチャンスとなれば目の色が変わっているのは当然だし、そういうライダーしか選ばれないはず。

 この四耐だけど八耐に較べるとまだ涼しいのよ。八耐は午前十一時半にスタートだから、それこそ一日で一番暑い時間帯を走り抜き、夕闇迫る十九時半を回ってからゴールなのよね。

「八耐の予選の関係やろ」

 そうなのよ、今日は四耐もやるけど、八耐の予選もやるのよね。だから、笑ったらいけないけど午前八時にスタートして、

「ゴールしたら真昼の祝勝会や」

 だからだと思うけど、スタートになっても関係者の家族ぐらいしかいない感じ。八耐予選を見に来る人もいると思うけど、その前座みたいな四耐のスタートまで付き合わないよね。それでもレースの終盤になればもう少し増えるのじゃないかな。