ツーリング日和10(第3話)オロロンライン

 小樽は完璧な素泊まり。そして日の出とともに、

「ユッキー、起きろ」

 コトリに起こされた。さすがに緯度高いからまだ四時だよ。身支度を手早く済ませて四時半には出発。朝食は、

「店が開き次第や」

 調べてないのは怠慢だぞ。

「セイコーマートぐらいあるやろ」

 時計屋になんの用だろう。そんなことを話している間に、あっと言う間に小樽から石狩に。こりゃ、快走路じゃない。

「これがオロロンラインや」

 オロロンとはオロロン鳥に因んだもの。オロロン鳥は俗称で正式にはウミガラス。でもチドリ目のウミスズメ科になってるから雀の仲間かも。見れるのかな。

「日本では絶滅寸前らしいから無理やろ」

 出発して一時間ぐらいで厚田なのか。コトリがコンビニに寄るみたいだ。まだ五時半だものね。おそらく北に上がるほど街も少なくなるからサンドイッチで妥協かな。

「ユッキー、塩おにぎりにしといて」

 えっ、それはいくらなんでも。それも食べないの。

「朝市行くで」

 なるほど! ここは漁港だから朝市やってるのか。そこで何か食べれるんだろうけど、塩おにぎりが謎だな。ここが朝市か、こりゃ、おもしろそうだけど、これってガチの朝市じゃない。つまりは魚や貝ぐらいしか売っていないもの。

「ホタテにシャコ、そのウニもくれるか」

 新鮮だし美味しそうだけど、さすがに持って帰れないよ。

「朝飯にしょうか」

 はぁ、生でも食べられそうだけど、そっちに行っても厚田海浜プールじゃない。まさか海水浴をするなんて言わないよね。さすがに水着までは持って来てないし。へぇ、ここでバーベキューが出来るんだ。これイイよ。さっそく焼いたら・・・美味しい。

「朝飯代わりやけど、ちょっと趣向やろ」

 こんな贅沢な朝御飯はここでしか食べられないよ。しっかし、まあよくこんなところを見つけてくるもんだ。だからコトリと行くツーリングは最高。欠点はコトリと一緒だと男が寄って来ないことだけど。

「うるさいわ。こっちかって迷惑してるんやぞ」

 オロロンラインはシーサイドコース。左側に海を見て走る感じかな。海は綺麗だし、右側の山との対比が素晴らしい。走りやすくて気持ちの良い道なんだけど罠も多い。

「罠は言い過ぎやけど、ネズミ捕りには要注意や」

 これだけ真っすぐだし広々してるから、ついつい速度が上がってしまうのよね。そりゃ制限速度さえ守れば終わっちゃう話なんだけど、そんなに簡単な話じゃない。

「基本は先頭走らんことや」

 とはいえ先頭になってしまう事だってある。

「とりあえず十五キロを越えんこっちゃ」

 十五キロ未満でも捕まる事はあるけど、なんと〇・〇〇三二%だってデータがあるぐらい。

「そんなデータもあるけど、十五キロ未満の検挙も増えとるデータもあるで」

 そりゃ、1キロでもオーバーしたら違反は違反だけど、

「増えたのに二つほど理由が上がとったな」

 一つはスクールゾーンでの厳格化らしい。スクールゾーンは登下校の子ども安全のために設けられてるけど制限速度は三十キロ。そういうところでは十キロオーバーでも子どもに危険すぎるからだろうな。

 もう一つがトバッチリ。原付一種って問答無用の三十キロ制限があるじゃない。だから五十キロ近く出せばどこでもアウトになるのよね。

「ああそうや。そやけど原付二種との見分けが出来へん時もあるみたいや」

 原付二種と一種ってサイズが近いのよね。車種にもよるだろうけど、パッと見ではわからない事があるのはわかる。たとえば時速四十キロ制限のところで五十キロで走っていて、捕まえたら原付二種だったみたいなケース。原付二種だから放免にしても良さそうなものだけど。

「せっかく捕まえたし、違反は違反やし、検挙件数にノルマがあるのは確実や」

 だからトバッチリ。サイズの小さいわたしのようなバイクは、とくにそうなりやすいぐらい。傍迷惑な話だよ。そうだ、そうだ、どうして十五キロオーバーが検挙の目安になるのだろう。

「ポリさんに聞いてくれ」

 たぶんぐらいしか言えないけど、まず反則金の違いは考えられる。違反点数は二十キロ未満なら一点だけど、十五キロを越えると反則金が九千円から一万二千円になる。でもさぁ、たった三千円じゃないの。

「ポリさんのノルマがどうなってるかは知らんけど・・・」

 件数なのか、違反点数なのか、反則金なのか、それともミックスしたものなのか。交通安全週間とかなると変わるのかもね。

「その辺より検挙後のトラブル回避やろ」

 検挙されたら殆どの人が違反を認めて反則金を払うけど、中には争う人もいるのよね。争えば裁判になるのだけど、そこまで行けば警察だって手間がかかり過ぎる。

「そやから違反者が、やってもたと自覚してしまう速度の目安を十五キロとしたんちゃうかな」

 これにはさらにがある。違反者が速度を確認しているのは当たり前だけど速度計なのよね。でも速度計って、実速度を反映しているものじゃなく、バラツキはあるけどだいたい一割ぐらい速く表示してるのが多いそう。

「高速で百三十キロで捕まったっらアカンと思うやろ」

 三十キロオーバーは意図的にやらないと出来無いものね。

「下道かって八十五キロは絶対アウトやんか」

 でも実測ならメーター読みで百三十キロでも百十七キロ、八十五キロでも七十六・五キロ。ここも、もう一度念を押しとくけど車種によってバラツキはあるから、速度計が一割増しなのはあくまでも仮にの話だからね。

「でも捕まったら十五キロをちょっとオーバーしとるだけやから、逆にラッキーと思うぐらいで、ホイホイと違反を認めて事を終わらせてまうぐらいや」

 これも本当のところはわからないけど、そういう説もあるぐらいと思ってね。

「そやから速度制限が変ったとこは要注意や」

 北海道なんてとくにそうだと思うけど、一般道でも速度制限がない道が延々と続くのよね。速度制限がないと言っても高速じゃないから、一般道の上限の六十キロよ。でも街に入るとこれが五十キロとか四十キロになるところがほとんど。

 つまり七十キロぐらいで走っていたとして、制限速度が五十キロになれば二十キロオーバー、四十キロになれば三十キロオーバーになる。どっちもアウトだ。

「速度制限が変るところは街に入る前になるけど、その時点では、今まで走って来た道と状況はあんまり変らへんやんか」

 街の中に入ると家も建ち並んでるし、人だって増えるし、信号だってある。だから気を付けようの心理も出るだろうけど、その手前なら、

「速度標識見落として突っ走ったらアウトや」

 警察の取り締まりもそういうとこに重点を置くと言うか、検挙効率が良いものね。

「北海道ではさらならトラップもあるそうや」

 嫌だなそれ。取り締まりの現場は走りながら見えるじゃない。そこをやり過ごしたら、多かれ少なかれ人はホッとするのよね。単純には、

『当分ネズミ捕りはいないはず』

 そこで飛ばしたら、

「第二のトラップがある仕組みや」

 速度違反をやらなきゃ良いだけの話だけど、後ろからせっつかれたりもあるし、自分の後ろに延々と並ばれたりすれば、ドライバー心理としては嫌なもの。

「まあな、都市部やったら拷問みたいな速度制限もあるもんな」

 こんな真っすぐの広い道で四十キロとか三十キロとかね。そりゃ、ゆっくり走る方が事故も少なくなるし、事故が起きても被害が少なくなるだろうけど、

「とも言い切れん。運転する方はストレスかかるやん」

 だからと言って最適解などないのも現実。わたしたちのツーリングは、とくに初見の道ではコトリが先導する事が多いけど、せいぜい十キロオーバーぐらいが多いかな。

「他のバイクとちゃうで。実測の十キロや」

 このバイクは色んな意味で特製だけど、メーターもまた特製。とにかく鬼のように正確。だから速度計も実速度表示なのよ。あんなに正確なものを作って意味があるかと思うほど。燃料系だってエンプティ・ラインの真上できっちりガス欠になるもの。

 そのクセだよ、指針式なのはコトリの趣味だから良いとしても、メーターにあるのは速度計、回転計、燃料系、油温計だけ。ウインカーとかのランプ類はゼロ。ニュートラル・ランプさえないってなんなのよ。

「こんなもんに力を入れるんやったら、ネズミ捕り対策用のレーダー探知機でも作ってくれたら良かったのに」

 コトリがこんなものと言ってるのメーターだけじゃなく、AIまで組み込んだマルチ・アクティブ・セッティング・システムも含めてのこと。これはこれで必要と言うか、なければホイル・スピンとウィリーしまくるトンデモ・バイクなんだ。

 まあわたしもコトリも電気仕掛けの制御は好きじゃないから、あんな制御のいらないバイクを作って欲しかった。それなのに、

「マッド・サイエンティストに餌やりすぎた」

 だから、そこまで技術を注ぎ込めるのだから、ツーリングに欲しいレーダー探知機ぐらい作って組み込んで欲しかったのは確実にあるのよね。

「レーダー・ステルス機能でもエエで」

 だけど、あいつらホントに趣味だけで作りやがったから、気が向かないものはテコでも作らないし、付けてもくれないんだもの。

「そやそや、いくらなんでも八速はやり過ぎやし、いくらユッキーの要望でも、こんなかかりにくいキックはないやろ。そもそも、今の時代にキャブってなんやねん。ヘッドライトがハロゲンなんて信じられへんやんか」

 それでもトラブルなく走ってくれるからイイけどね。