ツーリング日和(第13話)旅の終わり

 コトリたちは執念深く温泉に入ってから宿を出たんよ。まず口の宮本社にお参りして、今度は石鎚山ロープーウェイがある下谷駅に走って行ったんや。そこから十分ぐらいで成就駅に到着。ここには中宮の成就社がある。

「役の行者が苦労したとこやな」
「やっと山頂を極めてここまで下りてきて、吾願い成就せりって叫んだから成就社なんだよね」

 ここまでは楽やねんけど、ここからが今日のメイン・イベントや。ここまで来たら、奥宮の頂上社まで行かんと意味があらへん。

「三・五キロだって」
「役の行者が悪戦苦闘したルートや」

 成就社のとこで一四五〇メートルぐらいやから、まだ五百メートルあるねん。そのうえ急勾配で、

「おもしろうそう」

 ユッキーは平気な顔して登っていくけど、四か所の鎖場がある。成就社までに試しの鎖、一の鎖ってあって、成就社からなら二の鎖になる。この鎖もタダの鎖やない、電車の吊り側みたいなゴッツイ鎖や。二の鎖は六十五メートル、三の鎖は六十八メートルや。

 どっちも足をかけるとこも難儀するぐらいで、ありゃ、垂直の壁や。やっぱり事故もあるそうや。そりゃ、そうやろ。そやけど脇道もちゃんとある。

「これ、ずるいよ。ちゃんと試練を乗り越えなくちゃ」
「まあ、商売でもあるからな」

 成就社から頂上社までゆっくり歩いて三時間らしいが、コトリたちは二時間かからず到着。頂上社も参拝。

「ちょっと愛想ないね」
「風強いんやろ。華奢な建物やったら吹っ飛ばされるんちゃうか」

 ここで昼食や。ビックリするけど石鎚神社頂上山荘って山小屋があってメシ食えるんよ。メニューも結構豊富やねん。

「六甲山の一軒茶屋より充実してない?」
「一軒茶屋のカレーは名物やけど、クリームシチューは置いとらへんもんな」

 ここから成就社に向かって下山や。ここも標準的には一時間半~二時間ぐらいやそうやけど、一時間で降りてきた。

「これで一日で四社制覇だね」
「あんまりおらへんと思うで」

 石鎚神社四社とは、

 ・口之宮 本社
 ・中宮 成就社
 ・奥宮 頂上社
 ・土小屋遥拝殿

 土小屋遥拝殿は朝飯前に行った石鎚スカイラインのテッペンにあったやつやねん。成就社からはまたロープーウェイで下まで降りて、今度は新居浜、目指すは別子銅山や。

「泉屋の繁栄の源ね」
「泉屋言うても今どきの人間がわかるかい」

 江戸時代の住友の屋号や。江戸時代は日本は銅の産出が多くて主要輸出品やったぐらいやねん。まずは鉱山記念館を見てマイントピア別子やで。

「東洋のマチュピチュは言い過ぎだけど立派なものね」
「夢の跡やな」

 別子銅山から四国鉄道博物館も見て回り、西条市内を気まぐれ歩き。

「あれ、うちぬきって言うんだって」
「天然の噴水やな」

 ぶらぶらと見れるだけ見て、東予港に。

「あれだね」
「あそこに並ぶみたいや」

 帰りはオレンジ・フェリーにしたわ。高松の方に回って、瀬戸大橋と言いたいとこやってんけど、一二五CCは通られへん。高松からフェリーもあるみたいやけど、午後の四時半発やねんよ。

「コトリ、思ったのだけど二五〇CCで認めてもらったら」
「さすがに手続き面倒や」

 今乗ってるバイクは一二五CCで正式に買ってナンバー付けとるんよ。そやからあくまでもカスタムしてるだけ。これを中型にするのは手続きがチト面倒なんよ。そりゃ、カスタム言うても、オリジナルで残っとるんはミラーの鏡と、プラスチック・パーツの一部ぐらいやねん。

「面倒な物を作ったよね」
「しまなみ海道走れたから良かったやんか」

 おっ、乗船が始まったで。船に乗り込んで、こっちやな。ちゃんと固定もしてくれるんや。そこからエレベーターで四階か。

「うわぁ、立派だね」
「日本のフェリーもバカには出来んな」

 世界一周の時のクルーズ船に較べたら可哀想やけど、値段が全然ちゃうからな。こっちの方が満足感は高いかもしれん。フロントでカギもろて部屋は五階や。

「ちゃんとツインになってるよ」

 選んだのはスイート。ちょっと贅沢やが、二人部屋がロイヤルとスイートしかあらへんねん。部屋はシングル・ベッドが二つと、えらい長いソファやな。ここだけでも余裕で寝れそうや。テレビもデカい。洗面所も付いとるし、アメニティもホテル並みや。ロイヤルにしたらこれにバスとトイレも付いとるって書いてあった。

 このフェリーのエエとこは、全部個室やねん。フェリー言うたら雑魚寝部屋みたいな大部屋があったり、タコ部屋みたいな二段ベッドで四人部屋とかあったりするもんやがロイヤルとスウィート以外はシングルやねん。

 内装は観光客仕様にしてあるけんど、主力はトラックの運ちゃんやもんな。ドライバーが一人やからシングルの需要が多いってことやろ。それでも内装は豪華な方が喜ばれるよな。ざっと見てもコトリたちみたいな観光客は少なそうや。

 この辺はコトリでもわかるとこはある。神戸から松山に観光行くのにフェリーはまず思い浮かばん。クルマやったら山陽道からしまなみ海道考えるやろし、徒歩やったら大阪空港から飛行機やろ。電車はチト不便ぐらいや。

 それとダイヤもネックやろな。東予からも南港からも、二十二時出航で朝の六時に着くのやけど、これはトラックに便利なようになっとる。南港やったら大阪の中央市場に直行やろし、東予も似たようなものやと思うねん。

 これを観光に使おうと思たら、朝は早すぎるし、夜は子ども連れではチトきつい気がする。今日もあれこれ回って時間を潰したけど、観光は夕方の六時ぐらいでだいたい終わりや。そりゃ、そうで、日も暮れて来るし、宿に入る時刻になるからな。今日もそれで苦労した。

「でも使いようね」

 目的地にもよるけど、夜はゆっくり寝て、朝早くからスタートできるからな。バイクのツーリングとかやったら便利や。今回も行き帰りともフェリーにしたかったぐらいやねん。せんかったんは、しまなみ海道を往復せんとあかんねん。尾道とは言わんが、広島ぐらいからフェリーがあったら良かってんけど、さすがに商売にならへんよな。

 さて風呂入ったらメシや。今日は二十時の乗船時刻と共に乗り込んだやけど、かえってラッキーやった。レストランのラスト・オーダーが二十二時三十分やから、ギリギリに乗り込んどったら食いあぶれるところやった。

 食堂は、そやな、ファミレスと定食屋の中間みたいなもんかな。基本はカウンターに並んどるオカズをトレイに乗せて、最後にご飯と味噌汁を頼むぐらいや。他にも注文で作ってくれるもんもある。

「宇和島鯛めし、二つ」

 鯛めし言うたら、普通は鯛と米を一緒に炊き上げたものやけど、宇和島鯛めしは根本的に違うんよ。まずは小鉢のダシ汁に浮いてる生卵を混ぜるんや。そこに鯛の刺身をからませて、熱々のご飯の上にのせ、最後に溶き卵を入ったダシ汁をお好みで足すねん。

「これって超贅沢TKGね」

 そやな。元は日振島の海賊が考え出したってなっとるが、漁師メシの一つやろ。今はダシ汁になっとるけんど、漁師が船の上で食べとった頃は醤油やったんやろな。それやったらモロのTKGや。他もあれこれ食べてビールも飲んで、

「売店はないのね」
「その代わりに自販機は充実しとるな」

 ゲームセンターとかもあるけど、さすがに誰もやっとらんわ。ドライバーの連中は明日も仕事やからメシ食ったらトットと寝るみたいや。変なおっさんが酔っ払って騒がれるより静かでエエかもな。

「デッキに出てみようよ」

 船乗ったら出たいもんな。ちょうど出航か、

「おもしろかったね」
「こういう旅もエエな」

 港を離れたんを見て船室に戻ってビール飲んで寝たわ。朝飯食べて、南港からポーアイまで。阪神高速走られへんから一時間半ほどかかってもたけど、それでも八時までには帰宅出来た。

「お土産は定番のタルトとみかん蜂蜜。それと今治のタオルね」

 タオルは可愛いでサクラクレパス・タオルと、ミルキィのフェース・タオルや。それとやけど、

「じゃ~ん。宇和島鯛めしの素も買うといた」
「凄いじゃない。それってフェリーで食べたのと同じだよ。鯛の刺身まで全部セットになって売ってたんだ」

 お土産買うのも旅の楽しみや。