ツーリング日和25(第14話)出会い

 道後麦酒館は立地的には観光客向けだと思うけど、居酒屋スタイルでもあるからお高く止まった店じゃないのよね。そこが気楽で良いのだけど、あれ良くないよ。

「どこでもおるんやな」

 カウンターで若い女の子が一人で飲んでるのだけど、そこに絡みだしてる男の三人組。ナンパなんだろうけど、嫌がられてるし、断られてるじゃない。ナンパはタブーまで言う気はないけど、断られたら潔く引き下がるのがマナーだよ。店員さんも気が付いて対応してるけど、聞いてるだけで頭の悪そうな連中だ。

「これはフライドシップや」

 それはフレンドシップでしょうが、

「そうや、おてもやんやろが」

 おてもやんってなんだと考えこんじゃったけど、おもてなしって言いたかったで良さそうだ。

「なんかブンクあるんか」

 ブンクってもしかして文句なんだろうか。いやはや、その程度の連中なのはわかるけど、見た目が、

「あんなヤンキーっておるねんな」

 ヤンキーの定義なんて知らないけど、高校生までの不良の総称みたいなもんだろ。高校を卒業してもヤンキーぶってるのはチンピラだよ。

「そうやと思うで、ああいう連中は高校で普通は卒業するもんな。せんやつは昔はヤクザ、今やったら半グレぐらいやろうけど、ありゃ、チンピラや」

 だけど態度はデカイし、粗暴なんだよ。ありゃ、ありゃ、店員さんも引っ込まされそうになってるよ。たぶんバイトだろうから、

「喧嘩になったらかなわんもんな」

 でも見過ごすのも後味が良くないよ。

「千草、なにする気や」

 カウンターのところに歩み寄ってその女の子に声をかけたんだ。そうだな、久しぶりに会った友だち風を装って一緒に飲もうって感じ。上手く話を合わせてくれるように祈ってたら、

「こんなところで出会うなんて、何年振りでしょうか」

 よっしゃ。そのまま千草たちの小上がりの座敷に引っ張り込んでやった。これで一件落着になって欲しかったけど、

「なんやお前ら」

 しつこいぞ、お前ら。悪いコータロー、後は任せた。

「オレらの友だちや。一緒に飲むのになんか文句あるんか」

 ダメだ、火に油だ。そしたらコータローは、

「お前らこれが見えるか」

 コータローが取り出したのは十円玉だけど、それを親指と人差し指で、グイッって折り曲げちゃったのよ。

「怪我したいなら相手になるで」

 とんでもない怪力を見せられたチンピラ連中は引き下がってくれた。コータローってこんなに強かったんだ。

「おうそうや。惚れ直してくれたか」

 そう言いながら折り曲げた十円玉を渡してくれたのだけど、これってなんだよ。千草でも真っすぐに出来るじゃないの。

「飲み屋の座興に使うとってん」

 そんなものを良く持ち歩いてたものだ。あの連中は引き下がってくれたけど、まだ店内にいるから、ここは親しげな様子を見せとかないといけないよね。とりあえずはビールを追加して、

「再会を祝して、カンパ~イ」

 あの連中がナンパした気持ちだけはわかるよね。見るからに上品そうだし、綺麗だもの。ところで名前は、

「ツムギと呼んでください」

 二十五歳ぐらいかな。聞くと同じジャンボフェリーに乗って来たみたいだけど、

「お二人はフェリーで見かけていました」

 あちゃ、寝てるところを見られてしまったみたいだ。それでも辛うじてぐらいの顔見知りだから話を合わせてくれたみたいだな。それとそのウェアからすると、

「ツーリングです」

 へぇ、ハンターカブに乗ってるのか。あれもホンダのカブエンジンシリーズの一つだけど、

「あれはスーパーカブに近いで。クロスカブよりよりアウトドア風味ぐらいや」

 スーパーカブに近いのはそうよね。自動遠心クラッチだし、ギアだってシーソーペダルだ。乗る時だってバックボーンフレームだから、シートの前から跨げるものね。

「タイヤかって十七インチで大きいし」

 モンキーは十二インチなんだよね。スーパーカブっぽいところは他にもあってタンデム用のシートがキャリアなんだよ。

「あれはキャリア言うより荷台やろ」

 そうそう、そんな感じ。サイズ的にはモンキーより少し長くて、重いぐらいかな。だったらキャンプもやってるとか。

「考えはしましたが、やはり荷物が多くて」

 バイクでもキャンプを楽しむのは多いのよね。だけどキャンプとなるとバイクの弱点が出て来る。だって、だって、テントとか、シュラフとか、焚火台とか、

「食料かって持って行かなあかんもんな」

 クルマなら軽自動車でも積み込めるだろうけど、バイクとなるとそれこそ大荷物のテンコモリ状態になるのよね。そんなバイクを見たことがあるけど、あれは余程好きじゃないと出来ないと思ったもの。

「一度で懲りたら後始末が大変です」

 そういうキャンプ用品は家に置いとくのも大変だものね。千草だってどこかでやりたい気持ちだけはあるけど、モロモロを考えると、

「モンキーでもやっとるのはおるけど、あそこまでの根性があらへんわ」

 そうそう高松からだけど千草たちは国道三十二号で琴平経由で来たけど、ツムギちゃんは国道十一号で走って来たのか。ルートとしたら二択みたいなもんだよね。UFOラインは寄ったの?

「UFOラインに行かれたとは羨ましいです。その代わりではありませんが石鎚神社にお参りしました」

 口の宮の本社に参ってからロープーウェイで中宮の成就社に行ったのか。そこまで行ったなら頂上社まですぐかと思ったのだけど、

「往復で四時間以上かかるらしくてあきらめました」

 そんなにかかるのならパスだ。お参りも大事だけどやってるのは巡礼じゃなくてツーリングだもの。松山城もロープーウェイで行ったのか。うん、あれは登るのはラクじゃなかったぞコータロー。

「二の丸の公園も良かったやろうが」

 まあね。あれは見ておくべき価値はあったのは認めてやろう。道後温泉本館に入りに来たのはわかるけど、こんなところでどうして夕食なんだ。だってだよ、道後温泉の宿は大型でデラックスなところが多いじゃない。普通だったら夕食もそこで御馳走になるはずじゃない。

「最後に宇和島鯛飯を食べませんか?」

 今から鯛飯は重いかな。でもコータローも〆に食べたいと言い出したから頼んだのだけど・・・これが鯛飯だと言うのかよ。鯛飯って、お釜で鯛を一緒に炊き込んだもののはず。なのに、これってご飯に鯛の刺身が乗ってるじゃないの。

「卵も乗ってるやろ。これに出し汁をかけてやな・・・」

 美味しい! 豪華版のTKGだ。うん、〆にピッタリだ。これこそライダー飯だ。

「ライダーやのうても名物や」