ツーリング日和31(第28話)ちくさ高原

 走っているのは県道二十三号なんだけど、この辺で東西を横断してる、これまた唯一のルートなんだって。それだったら昔からの道だろうと思ったけど、

「それがなんとも・・・」

 播磨は南部が姫路平野だけど、北になると山地になってくる。その山地を南北に貫くのが東から加古川、市川、夢前川、林田川、揖保川、千種川って感じになるらしい。つまりは川が作った谷間を乗り越えて行かないと東西には動きにくいぐらいかな。

「南北は川の両側の平地がありますし、河川交通も発達していたはずです」

 つまりは南北には交通があっても東西の交通は乏しかったのじゃないかって。加えて言うなら川があるだけで交通の難所になったのか。橋なんてそうはないはずよね。この辺は西からなら加西、福崎、夢前、安富、山崎って連なるのは連なるけど、

「江戸時代とか、もっとそれ以前でも、東西の往来が盛んだったとかと言われれば疑問です」

 これにもさらにがあって、例えば西から加西まで来たところで、そこからどこに向かうかだってさ。加西からさらに西となったら東条湖が思いつくけど、東条湖なんて昭和になってからのものだよ。

「加西からなら法華山一乗寺とか、播州清水寺があるのはありますが」

 その寺がどうかしたのかと聞いたら、西国三十三か所の札所だって。物見遊山になるけど、それだけでどうなんだろ。

「あくまでも想像ですけど・・・」

 県道二十三号って中国道の横を通ってる感じなのよね。でさぁ、高速道路を作る時には側道も作られることが良くあるから、その側道代わりに県道二十三号が整備されたかもしれないって。位置的にはあり得そう。

 肝心の交通量だけど福崎からは空いてる。これは時刻もあるとは思うけど、休日の昼間もあんまり混雑してるイメージは無いんだって。だから混みそうな加西とか福崎の迂回路を研究したみたいで良さそうだ。

 でもってこの県道二十三号だけど安富で終っちゃうのよね。安富からは国道二十九号に乗り換えるのだけど、この乗り換えが実に素直じゃない。初見だったら余裕で迷う自信が鈴音にはある。哲也さんが案内してくれて助かった。

 安富からは割と大きな峠を越えて山崎だ。山崎なんか初めて来たけど、これは立派な街じゃない。山崎市街地を抜けたら一気に田舎道に変わった。

「ここからが本当のお楽しみです」

 わかる、バイク乗りなら自然と微笑んでしまいそうな道だよ。見晴らしは良いし、クルマも信号も少ないもの。こういうところをゆったり流して楽しむのが、

「小型バイクの本領のトコトコ派です」

 つうかトコトコ派しか出来ないんだけどね。そこからまた山に向かい出したのだけど、今日の目的地は高原なんだよ。高原に行くには苦難の山道が待っている。

「最後に少し登りますが、そこまでの道じゃありません」

 ホントかな。千種川に沿って北上しているはずだけど、千種川もここまで来ればこんなものなんだ。源流ってやつに近いのかも。この道も良いよ、山の中へのアドベンチャー気分だ。にしても、どこまで行っても田んぼがあるものだ。

 ずんずん進んで行くと千種の街があり、それを過ぎると登りになって来た。モンキーの心臓のビートが高鳴ってる。だいぶ急な坂になって来たから最後の難所みたい。道の両側の木が段々と低くなってきて高原に入ったみたいだぞ。

 へぇ、キャンプしている人が多いな。どこから来たのかな。でもって見えて来たのはリフトだよね。ここって冬にはスキー場になるところで、あの鉄筋の建物は食堂とか、貸しスキーの拠点みたいなもののはず。

「ゲレンデには人工降雪機もありそうです」

 暖冬だもんね。でも開いてないな。当たり前か。バイクを停めて一休みだ。景色は・・・イマイチか。高原なら三百六十度パノラマみたいなものを期待していたけどリフトで上がったらあるのかも。動いてないからしょうがないけど。

 でもこれがちくさ高原なんだ。ついでだからともう少し奥まで走らせたら、ちょっと待ってよ、岡山県ってなってるじゃないの。そんなとこなんだ。だったら、だったら、鈴音も岡山県に轍を刻んだことになるじゃないの。どうだ参ったか。

 でもさぁ、でもさぁ、あれだけキャンパーがいるのならレストランぐらい営業しても良さそうじゃない。

「誰も来ませんよ」

 あっ、そっか。キャンプをしに来てるのだから食材は持ち込みだよね。それをするためにキャンプしてるようなものだもの。そうなるとバイク乗りが困るな。弁当抱えてツーリングするのは少ないはずだもの。要するに腹減った。

 こうやってツーリングやってると田舎に行くほどお店屋さんが少なくなるのは身に沁みて良くわかる。コンビニだって山崎からは一軒しか見かけなかったもの。あれだってこんなところによくあったって思ったぐらい。食べ物屋さんなんて、

「千種の街ぐらいならあるはずですが・・・」

 これは個人差があり過ぎるのだけど、鈴音は地元密着過ぎるところはなんとなく入り辛いのよね。そういうところが好きだとか、そういうところにあえてチャレンジするユーチューバーもいるけど、どうしても敷居が高い気がする。

「気持ちはわかります。なんて言うか、ふらっと立ち寄りにくいところがあります」

 たぶんだけど入ったら入ったで妙な扱いなんてされないと思うのだけど、勝手にアウェイ感を持ってしまうぐらいかな。観光客用の店が良いって訳じゃないけど難しいところだ。となると、

「引き返します」

 これもまた驚いたのだけど道の駅があるのよ。それこそ、こんなところまであるんだと感心したぐらい。あれってどういう基準で作られてるのだろ。あそこを外すと山崎まで無さそうだものね。

 道の駅もレストランが無いところもあるから、そこは心配してたけどちゃんとあった。さて何を食べようかだけど、出来たら名物とかが良いな。この辺の名物ってなんだろう。店の前で考えてたら目に着いたのが、

『恋する豚』

 なんだそれって感じがしたけど、そそられるからカツ丼にしてみた。待ってる間にネットで調べてみると、いわゆるブランド豚じゃないみたい。ブランドはブランドだけど、薩摩の黒豚みたいな品種じゃなく、

「飼育法みたいですね」

 豚に恋するほど愛情をこめて飼育しているから美味しくなってるとか、なんとか。カツ丼は素直に美味しかったのだけど、

「なんか微妙ですね」

 そうなのよ。恋する豚を出荷してるのは千葉の養豚場みたいなんだ。別に千葉で育ててるから悪いって訳じゃなくて、どうして千葉の豚を奥播磨で食ってるかの違和感だ。やっぱりさ、こういうところは地元の食材をアピールして欲しいじゃない。

「ここでイベリコ豚を食べるようなものです」

 レストランの人もあれこれ知恵を絞ったのだろうけど、なんか迷走してる気がした。美味しければ文句は無いと言うものの、どうなんだろこれ。

「王道は美山で食べた蕎麦と玉子丼です」

 あそこは美山産の蕎麦と美山産の卵だったもの。なんかそれだけで美味しい気になれたし、あそこで食べた価値が上がった気もしたものね。もっとも、そうそう都合よく名物とか特産品がある訳じゃないだろうけど。

「それでも、ここまで来てはどうしてもがあるのが人情です」

 どうしてもね。