ツーリング日和(第5話)マウントおじさん

 ツーリングやってる連中に気の良いやつが多いのはホンマや。道ですれ違っただけでも手上げて挨拶するぐらいや。淡路でも何遍か声かけられた。福良の昼飯の時もホントはちょっとだけ並んだんよ。

 コトリたちの前が六人組やってんけど、そんなもん格好見ただけでバイク乗りってわかるやんか。待ってる間に話しとってんけど、すぐに順番が来たんや。空いたんが四人がけのテーブルが二つやってんけど、

『相席で良ければ・・・』

 一緒に食べたんよ。コトリとユッキーがテンコモリ食べてたのに目を丸くしてたけどな。そん時やねんけど、福良言うたら淡路三年とらふぐが有名やんか。その話になったしコトリもお土産にする予定やってん。その連中は淡路によく来るみたいで、

「それやったら」
「せっかくやし」

 どっかに電話かけてくれてん。御飯が済んでから、連れて行かれたのが普通の民家やってんけど、その連中の親戚で三年とらふぐの養殖やってる人やってん。どひゃっとぐらいのフグと、

『この自家製のポン酢醤油が絶対にお勧め』

 ほかにも浅葱やら、白菜やら、菊菜やら、葛切りやら、椎茸とかを全部一式にしてくれたんを売ってくれたんや。

「あのヒレ、立派だったね」

 あんなゴッツイのをコトリは初めて見たわ。そこまでデラックス版やったのに、お値段はウソのように安かってん。そこまでしてくれて、

『じゃあ』

 そうやねん、その連中は反時計回りで淡路島回っとってんよ。気持ちのエエやつやったし、てっちりは最高やったで。

「変なのもいたけどね」
「そやったな」

 バイク乗りに声かけるキッカケに、相手のバイクの事を聞くのはポピュラーやねん。どのバイク乗りも、自分のバイクに愛着があるから、聞かれて悪い気はせえへんねん。多かれ、少なかれカスタムしてるやつが多いからな。良くあるのは、

『そのマフラーって、ひょっとしてヨシムラ』
『変えてみたら、音も気に入ってますし・・・』

 てな感じ。そこからバイク談義とか、ツーリングの経験談とかに広がっていく感じや。あれは道の駅うずしおやった。ユッキーと都志への道の確認をしとってん。ナビ積んでないからな。そしたらおっさんが声かけて来たんよ。

 コトリたちのバイクの話から始まったんやけど、なんか違和感があるんよ。バイク乗りが相手のバイクを話す時は、お互いのバイクをリスペクトするのがマナーみたいなもんやねん。それが、言葉の端々に見下してるとこがあったんよ。そしたら、

『どうして大型に乗らないの』

 ユッキー見たらわかるやろ。

『バイクは大型に乗ってこそだよ』

 適当に流しとったら、

『その体格じゃ無理か。死ぬまでバイクの本当の楽しさ知らずに終わりそうだね』

 大きなお世話やと思たわ。そしたらユッキーが、

『大型って何が良いのですか?』

 ちょっとオモロかったで。そんな質問が出るとは思わんかったんやろ。ちょっと詰まってから、長距離走っても疲れへんとか、一日五百キロぐらいは余裕やなんて言い始めたんよ。ユッキーは、

『毎日五百キロも走られるのですか?』

 おっさんはまたも詰まって年に一回か二回って答えよった。それでも負けたらアカンと思たのか、馬力自慢を始めよった。ユッキーは冷ややかに、

『それだけの馬力はどこで使われるのですか?』

 そういうこっちゃ、スポーツカーも似たようなとこがあるけど、いくら速くても、日本の道で使えるところはないんよね。使たらスピード違反で捕まるだけ。高性能車の限界なんかやって捕まったら、下手すりゃ逮捕で免許は確実に飛んでくで。

『サーキットで走る趣味はありません』

 そりゃ、大型は速いし、長距離走行はラクや。そやけどラクしたいんやったら、飛行機の方が速くてラクやんか。リニアでもそうや。大型が全速力で走っても勝たれへん。バイク乗りは、バイクに乗って走るのが楽しいと思う人の趣味やねん。

 速く走りたいのも趣味やし、長距離走りたいのも趣味や。それと同じようにゆっくり走るのも趣味や。バイクを走らせるのは趣味として共通してても、どう走らせるかは勝手やねん。自分が楽しいと思う走らせ方をすれば良いだけで、走らせ方を強制される筋合いはないんよ。

 バイクはな、小型なら小型の楽しさがあり、大型なら大型の楽しさがある。もちろんやけど、小型にも欠点はあるし、大型にも欠点はある。それも含めて楽しむもんで、大型が最高の地位にいるわけやないとユッキーは冷ややかに話しとったわ。

 ユッキーもわざわざそこまで言うかと思たけど、あれはたぶんやけど、淡路島バーガーを食べ損ねたから機嫌が良くなかったからやと思てる。それで一応終わったんやけど、幸せのパンケーキを出る時に出くわしてもたんよ。

 おっさんは自慢するだけあって、ドッカティのスーパースポーツ・モデルやった。一〇〇〇CCで二百馬力ぐらい出るし、お値段は五百万円するんよね。道の駅うずしおで言い負かされた腹いせやと思うけど、

『そんなちっちゃい、どノーマルでバイクの楽しさがわかるか!』

 捨てセリフ吐きやがってん。

「ドカのおじさんはしつこかったけど、増えてるらしいね」

 その手の連中に絡まれても、バイク乗りは、たいがいは受け流すだけやねん。行きずりやし、論破や喧嘩するのもアホらしいぐらいや。そいでも、マウントされた後はムカムカするんよ。

 そやねん、たかが大型バイク乗っとるだけで、なんであんなにエラそうにされなあかんねんってことや。その上やで、マウント取った方は気持ち良くなりやがってや。そんな気持ちになったらツーリングの楽しい気分はぶち壊しやし、そんな気分で走らせとったら事故するで。

「そうよね。実用性だけだったら、ドゥカティより原付スクーターの方が遥かに上だものね」

 それがバイクの本質や。そやそや、誤解せんとってや、大型に乗ってる人を見下してるわけやないで。いつかは大型に乗ってみたいと思てるバイク乗りも多いからな。それはそれで、全然かまへんねん。

 それとやけど優越感を内心で思うのと、マウント取るのはちょっと違う。そんなとこまで人間は聖人でおられるかいな。

「あれ、逆に格好良かったね」
「あれもマウンティングやろけど」

 百年ぐらい前やけど高速でポルシェ911のオープン走らせてるのを見たことあるんよ。それが走行車線をノンビリ走らせてるんよね。そやからバンバン抜かされるんやけど、気にもせえへんねん。あれは、

『国産の雑魚なんか相手にしない』

 そんな感じで見下してるように見えたわ。そうやねん誰にも迷惑かかっとらんってこと。抜いたやつはポルシェに勝ったぐらいで嬉しがってるかもしれんけど、抜かされた方かって、ちょっとアクセル踏んだら勝つと思うぐらいで満足してるって事や。

「どうして口に出すのかしらね」
「大昔から変わらん、人のサガってやつやろ」