ツーリング日和8(第8話)バーベキュー

 晩飯前にマスターが相談に来よった。

「今夜のバーベキューですが・・・」

 そうするって予約の時に聞いとるから牛肉とビールを差し入れに持ち込んだんやけど、足らんかったか。

「十分すぎるほどです」

 天気も悪ないで。

「そうなんですが、ちょっと予定が狂いまして・・・」

 男の二人連れなんやそうやけど、キャンセルがあって入れ替わったそうなんや。それがコトリらと同様に初めての客らしい。つまりはマスターも知らん連中ってことや。別に誰とでも構わへんようなもんやけど、

「こういう時には・・・」

 こだわりと言うか親切心の気づかいやな。男と女が組み合わされる時は、とくに男は常連さんの気心のしれてるのにしてるのか。男と女やからなにかトラブルが起こって欲しくないぐらいみたいや。

 そう言いながら、ここで出会って結ばれたカップルもおるそうやから、男女交際禁止みたいな固いものやないのやけど、どうも電話で予約を受けた時の印象が良くないぐらいの話みたいやねん。

 せっかくのバイク乗り同士の出会いやし、マスターの信条として一期一会の思い出深いものにしたいぐらいやろかな。別にコトリらはヤーさん相手でも気にもならんけど、問題は結衣やな。

「かまいません」

 なんかあったらコトリらが守ったるわ。時刻が来て行ったのは一階のオープンデッキ。さすがに夜風は冷たいけど、その代わりに炭火焼きとは嬉しいわ。メンバーがそろったところで、

「カンパ~イ」

 そこから自己紹介になってんけど男は学生や。服もエエもん着とるからボンボンやな。

「鈴木で~す」
「清水で~す」

 なるほどノリはエエけどチャラいな。学生やからとしてもエエけど、なんか薄っぺらい感じがするわ。金髪にピアスぐらい今どきの事やから目くじらたてるようなもんやあらへんけど、なんか軽さを強調しとるようにしか見えんわ。

 とにかく初対面やから、話の切り出しはお互いのバイクの話になった。バイク乗りやから相手のバイクが気になるのはサガみたいなもんや。こういう時のマナーもある。当たり前やけど相手のバイクをリスペクトすることや。

 そりゃ、多かれ少なかれ自分のバイクに誇りを持っとる。そこを踏まえた上で話をするのがマナーってことや。男二人組のバイクは見とらへんけど大型みたいや。それはエエねんけど、

「停まってたやっちゃろ。根性やな」
「あんな小型でツーリングってアホみたい」

 神戸から小豆島やからカブでも余裕やろが。

「へぇ、寒霞渓が登れたって冗談やろ」
「小型やったらロープーウェイに乗れるとか」

 原付スクーターでも登れるわい。小型なんを話のタネにするのはかまわへんけど、そこまで言うたら冗談になってへんぞ。大型小型論争をやったろかと思うたけど、それ以上はイジりに来んかったから目を瞑ってやった。

 そこから趣味みたいな話になったんやが、サークルの話に持ち込みよった。学生やからそうなるのはしょうがあらへんけど、ほほぅ、ダーツサークルか。ダーツもちょっとしたブームやもんな。

 あれも漫画が原作で実写化された映画やったけど、ヒットしたんよ。ジャンルとしては青春映画になると思うけど、人間ドラマも巧みに織り込まれた秀作やった。なにせ第三部まで作られたからな。

「ちはやふるの感じかな」

 かもしれん。ハスラーとか、ハスラー2の感じにも似とる。そやからダーツバーとかも増えたもんな。聞いてる限りそこそこの腕のようやが、話半分ぐらいに思うとこ。酔いもそろそろ回ってきた感じやけど、男二人組は結衣に目を付けたみたいや。なんでコトリやないんよ。

「年上は女に見えん」
「おばさんは用済み」

 ここから瀬戸内海に放り込んで海水浴させたろか。結衣かって二十代の後半やぞ。コトリのホンマの年齢は棚の上に置いとくが、こいつら女を見る目があらへんのか。結衣が若そうに見えるのは童顔なだけやないか。そやのにコトリをおばさん扱いとは、

「コトリは本当にそうだもの」

 ユッキーもそうされてるんやぞ。

「趣味じゃないから気にならない」

 趣味やないのはコトリもそうやけど、結衣も嫌がってるやんか。あの手のチャラ男は好きやないんやろな。それに年下のガキみたいなもんやろう。あちゃ、結衣の両側に座りよった。口説きたいのはわかるけど、あそこまでやったらセクハラやぞ。

「コトリにもそう見える?」

 モロ見えじゃ。マスターも困ってるやんか。マスターがやりたいのはバイク乗り同士の親睦で合コンやないはずやねん。

「合コンもピンキリだからね」

 なにがピンで、なにがキリかは置いとくけど、基本は彼氏彼女が欲しい会や。それが目的で集まってくる。

「というか、そういう目的を承知でお互いに参加するのがキモじゃない」

 上手いこと言うな。男女の出会いは色んなケースはあるけど、その時に気に入った相手に恋愛の意思があるかどうかは不明や。彼氏彼女持ちどころか、既婚者だっておる。初対面の相手に気乗りしないのも当然ある。

 もっと単純には恋愛をする気分などないってことや。そやけど、そんなもん外から見てもわからんやん。そやけど合コンは参加目的がはっきりしとるから、相手を気に入れば恋愛にもちこんでもらってOK状態が前提や。

「お見合いとか、婚活パーティに近いとこがあるよね」

 そうかもな。口説き口説かれる行為自体を容認と言うか、認めてのものやからな。そやけど合コンも集められるメンバーによって性格はかなり変わる。

「言い切ってしまえば結婚まで考えるかどうかね」

 古臭いと言われるかもしれんがそうや。結婚の言葉が重すぎるなら、真剣な恋愛相手を探してると言い換えても良いと思う。お見合いみたいに即結婚はないにしても、順調に発展すれば結婚もありうるぐらいの相手を求めるかどうかや。

 年齢層が上がるほど真剣さは上がるかな。上がったところに婚活パーティがあるぐらいかもしれん。結婚するのが人生の目的でもあらへんけど、そこに夢を持つのが普通やろ。

「コトリはとくにね」

 ほっとけ。そやけどそんな合コンばかりやない。もっと軽いノリで彼氏彼女を求めるのはある。そこから結婚まで行くのもあるやろうけど、もっと軽い気持ちで恋愛を楽しみたいぐらいや。

「ぶっちゃけセフレが欲しいとか」

 それも含めてや。もっと言えば合コンで口説いてその夜に一発やりたいのもおる。そういう合コンでモテる男のタイプの条件は見た目や場を盛り上げる才覚もあるけど、

「遊ぶカネをもってること」

 恋愛もやりようやが、そういうところに集まって来る女は遊びたいやねん。エエもん食べに行くとか、高価なプレゼントが欲しいとか、リッチなデートとか旅行をやりたいとかや。これも否定はせんけど、

「あの連中は勝ち組かもね」

 そんな気がするわ。遊び相手にするのにちょうど良さそうなノリの軽いキャラ持っとるし、ゼニ持ってそうやもんな。ボンボンみたいやからカネ離れも良さそうに見える。

「でも経験は浅そうね」

 成功体験しかあらへんからやろな。自分らが勝ち組でいられたのは、そういうメンバー限定の話や言うのがわかってへん。今かってそうや。結衣が嫌がってるのがわからへんのかいな。

「嫌よ嫌よも好きのうちって言うじゃない」

 そうは見えんで。そろそろ助け船を出した方がエエんちゃうか。

「もうちょっと見とこうよ」

 本気か。

「結衣とは会ったばかりだよ。これで結衣の本性がわかるかも」

 こういうとこでユッキーはドライやな。もし結衣が口説かれてあいつらと一緒になったら、

「それもまた人生。そういう生き方もあるからね」

 その程度の女やから道連れにするのに値しないってことか。

「結衣は靡かないと見ているけど、どうやってあしらうかを見たいかな。結衣は自分でなんとか出来るタイプと期待してる」