ツーリング日和8(第9話)ダーツ勝負

 相変わらず男二人組に絡まれとる結衣やがマスターに、

「ここのダーツは本格的ですね」

 リビングと言うか談話室にダーツボードがある。

「ちゃんとスローイングラインもありますね」

 ダーツも世界大会まであるしプロもおるから、ルールもちゃんとあるねん。投げるとこを決めてるのがスローイングラインや。ダーツボードを部屋のインテリアにするのはあるけど、スローイングラインまであるのは珍しい気がする。マスターも好きなんかもしれん。

「それにハードなのが素晴らしい」

 ダーツもソフトとハードがある。ソフトはプラスチック製でボードに小さな穴がビッシリ空いてるねん。そこにダーツが刺さるというより嵌ったらOKや。ダーツバーやったらソフトを置いてるとこが多いわ。

 これはソフトのボードは機械化されてるのはある。穴に刺さったのが感知すると自動的に得点計算をしてくれるし、刺さった時の電飾のイルミネーションや音響も凝ってるのが多い。言うたら悪いけどパチスロのノリや。そやけどソフトも舐めたらあかん。ソフト用の大会もちゃんとあるねん。

「ハードより安全性が高いし、やっていて楽しそうだものね」

 そやけど本格派はハードや。麻で出来たボードにダーツが突き刺さる昔からのやり方や。ホンマのプロの大会になるとハードになるからな。ソフトとハードは微妙にルールが異なるとこがある。単純にはハードの方が的が小さくて、その代わりに距離が少し短い。差し引きしたら的が小さいハードの方が難度が高いそうや。

「鈴木さん、清水さん、勝負しませんか」

 ほぉ、ダーツサークルの連中と勝負するんか。ダーツの競技方法はいくつかあるけど、

「501でダブルイン、ダブルアウト。ただし1レッグでどうですか」

 なんやて! ガチの公式ルールやんか。501は持ち点の五百一点を減らしていくゲームやねん。三本ずつ投げ合って、刺さったところの合計が得点になって、その分が持ち点から引かれていく。

 このゲームで難しいのはちょうどゼロにせなあかんとこや。たとえば残りが十五点やったとする。三本投げてるうちのどこかの時点でゼロになったらエエんやが、越えたらバストいうて、その回の得点は無効になるねん。

「ダブルアウトは厳しいよ」

 ダーツの得点は刺さったところで変わる。まず真ん中がダブルブルで五十点、真ん中の回りの赤いところがブルで二十五点やねん。後はその周りになるんやけど、四分割になってる。

 広いところがシングルリングで、真ん中の細いとこがトリプルリング、外側の細いとこがダブルリングや。得点はリングの上に書いてるもんやが、ダブルリングなら二倍、トリプルリングなら三倍や。

 ダブルアウトとはフィニッシュの時の得点がダブルリングに刺さらんとバストになってまうねん。そやからフィニッシュ直前の持ち点は偶数やないと上がれんことになる。そうなるように得点を調整するアレンジの技術も必要になってくるねんよ。

「そもそもダブルリングを狙える技術も必要なのよ」

 つうか欲しい点のところに投げられる技術や。だからガチの公式ルールやねんけど、そこまでの技術があらへんかったら、

「ダブルインを延々とやることになる」

 ダブルインとはまずダブルリングに刺さらないと得点を勘定されへんルールやねん。他のとこに刺さっても延々と足踏みさせられるってことや。かなりの上級者用のルールってことや。ちなみに1レッグて結衣がしたのは公式競技やったら、3レッグで勝負するからや。三回戦制で先に二勝した方が勝ちってことや。

「まさか受けずに尻尾を巻いて逃げたりはしないでしょうね」

 だいぶダーツの自慢話やってたもんな。ここまで言われたら逃げられへんやろ。

「単に勝ち負けを競ってもおもしろくありません。賭け勝負にしましょう」

 賭博は法で禁止されとるけど、まあこれぐらいは座興やろ。問題は何を賭けるかや。ゴルフとかやったら、夕食代とか、ビールやワイン代がようあるが、この場やったらなんやろ。

「わたしが負けたら、この体を好き放題にしてもらって結構です」

 なんやて。それってエッチもOKどころか、

「好きなだけ楽しんでもらって、売り飛ばされても従います」

 おいおい、いくらなんでも無茶苦茶や。男連中の鼻の下が伸びまくってるやないか。

「その代わり、わたしが勝てばバイクを頂きます」

 ひやぁ、なんちゅう勝負やねん。マスターも焦りまくってるで。

「宜しいですね」

 そう言うて結衣はつかつかとダーツの方に行ってもた。男連中は固まってるわ。こんな勝負ホンマにやるんか。結衣は追い打ちをかけるように、

「さあ、始めましょう」

 マスターも慌てまくってとりなしてるわ。こんな勝負をこんなとこでやらすわけには行かんもんな。どうなるんかと思うとったら、男連中は自分の部屋に逃げ込みよった。勝負を受けんとなったら、この場にはおれんもんな。結衣も戻って来たんやが、

「こんな美味しい肉を食べないなんて変わってますね。小食なんでしょうか」

 こういうユーモアは好きや。まあ、バーベキューより結衣を食べようと必死やったもんな。でもこの肉も小豆島での発見やった。高松でも食べられそうなもんやけど初めてやった。

「オリーブ牛って言うのよね」

 まあ黒毛和牛で讃岐牛やねんけど、餌が変わっとるねん。

「オリーブの実の搾りかすを食べさせてるそうですね」

 結衣もよう知っとるな、

「松阪牛のビールみたいなものですか」

 だいぶちゃう。松坂牛のビールは有名やが、別にビールをいつも飲ませてるわけやないし、ビールを飲ませてへん松坂牛もある。あれは牛の食欲が落ちた時の胃薬みたいな位置づけやねん。

 そやからビールが松坂牛の肉の質を上げとるとは言えん。そりゃ、そうやろ。牛にビールを飲ませたら松坂牛になるんやったっら、日本中どころか、世界中がやっとるわ。そういう意味でオリーブ牛はちょっと違う。

 もともとはオリーブオイルの搾りかすの処理問題やったらしい。そりゃ、仰山出るやろうからな。これまでは肥料にでもしとってやろうけど、オリーブの実かって食い物やから牛に食べさせてみたぐらいと思うねん。

 ビールを飲ませるのと較べたら安全やんか。牛も喜んでかどうかはわからんけど食べてくれたみたいや。

「オリーブオイルの成分が肉の質を良くしたのですね」

 これも相関関係だけで因果関係はわからん。そやけど大事なのは結果や。オリーブの効果もあるかもしれへんし、小豆島の気候風土がそうさせたんかもしれん。

「でも小豆島でしかオリーブ牛は育てられないね」

 ユッキーもエエとこ見てる。牛の餌に使えるほどオリーブが取れるんは日本やったら小豆島だけやろ。それにしても美味いな。

「タレもよく合ってるよ」

 自家製タレって言うとったけど、肉と相性はピッタリや。なんぼでも食えそうや。そんでもってバーベキューならビールや。

「さすがはコトリね」

 小豆島にも地ビールがあるねん。まめまめビールって言うねんけど、醤の郷に行った時に寄り道してん。さすがにビール抱えてのツーリングは無理あるやん。シェークされすぎて泡吹くし、温いビールはコトリは好かん。

「マスター悪いけど、レンタルクラウラー返しといてね」

 貸し出しのビールサーバーも含めて配達を頼み込んだら了承してくれた。このまめまめビールやけど四種類も作ってるんよね。

 あか・・・レッドエール
 しろ・・・ハーブ・スパイスビール
 くろ・・・インペリアルスタウト
 きん・・・ライトエール

 レンタルクラウラーは二台あったから、あかとくろにしといた。結衣も飲める口やな。

「レッドエールは軽くて飲みやすいです。スタウトは甘いですね」

 スタウトもちょっと変わっとって、醤油のもろみが入ってるそうやねん。こんなスタウトもここでしか飲めへんと思うで。あいつらも結衣を口説くのに血道を挙げるんやのうて、素直にバーベキューを楽しんどいたら良かったのにな。