将棋の話

 先に断りしておきますが将棋はヘボも良いところで、ルールを知っているプラスアルファぐらいでしかありません。そんなドが付きそうな素人の感想です。

 少し遡りますが将棋界に黒船が襲来します。皆様よくご存じのAIです。ついにトッププロでも刃が立たなくなってしまったのです。この後の将棋界は人の最強を決める方向にシフトしたと見てよいでしょう。将棋の前にチェスも囲碁もAIの軍門に下っていましたから、これは上手く対応できたと思っています。

 ですがやはりAIは黒船だったと思っています。棋士たちにある目標を与えてしまったと考えています。トッププロでも勝てないのなら、そのAIの将棋を覚えれば天下を取れるぐらいです。

 AIの強みは膨大な棋譜を覚えている点ですが、棋譜を覚えただけでは将棋を指せません。局面に応じたアルゴリズムが必要になります。これを教師モデルというそうですが、AIの能力は教師を越えません。越えている様に見えるのは、参照に出来るデータ量が膨大なのと計算が早い点のはずです。

 AI将棋の特徴は何十手であっても詰みが見えれば絶対に間違わない点と、従来の将棋常識を考慮しない点で良いかと思います。つまり従来の将棋では非常識、その手はないとされていたのを次々と発掘した点と考えています。

 おそらく棋士たちは、そういう手が考え出されるAIのアルゴリズムの研究に没頭したのではないかと見ています。同じ思考過程をたどれば、そういう手に至るぐらいです。

 言うのは簡単ですが、これを実現するためには莫大な研究時間、桁外れの記憶量が必要です。ですがそれを乗り越えてAIに近付けた者が覇を競う時代に入った気がしています。ROM専に過ぎませんが、AIが指す手に近い棋士の方が勝率が高くなっていると見えます。

 どうしても藤井三冠に触れざるを得ないのですが、やはりAIの申し子的な面はあると感じます。ですがAI技術を身に付けた棋士は他にもいます。これも誤解を恐れずに言えば、AI的思考能力を身に着けた者が現在のトッププロとして君臨しているはずです。

 藤井三冠がそれでも驚異的な成績を収めているのは、AIの将棋を踏まえた上でさらなる思考を加えている点の気がします。相手がAI的な手を指すのはわかっていますから、それを超える手を繰り出せるぐらいでしょうか。

 藤井三冠の将棋はYoutubeでもあれこれ分析され、AI越えだとか、神の一手と取り上げられていますが、個人的にはピントが外れている気がしてなりません。藤井三冠の凄味はそういう手が指せる状況に持っていける戦略と戦術が本質の気がしてならないのです。

 藤井三冠が語られる時に藤井曲線が上げられますが、あれは中盤から終盤にかけてのAI的最善手の応酬の中で、相手をほんの少しづつ上回る手の積み重ねに見えるのです。一手の評価は互角であっても、じわじわと相手を巨大な嵌め手に落とし込んでいるぐらいです。そこにこそ本当の強さがある気がします。

 渡辺名人が棋聖戦で敗れた後に、解説をされた動画があります。

 謙遜もあるとは思いますが、飛車切りに出た渡辺名人は既に負けていたの解説は驚かされました。さすがの藤井三冠もそこまで読み切れなかったようです。

 さらに局面が進んだ時点で、今度は渡辺名人に勝機があったとなっています。今度は渡辺名人が読み切れずに見逃しています。トッププロの将棋とはそこまでと感嘆したのですが、渡辺名人に言わせると、飛車を切った時点でかなりの優勢だったはずなのに、勝機はいくら調べても、それぐらいしかなかったとされています。

 持ち時間が切迫する中で唯一の勝機を見出せるかと言われたら難しすぎるとしています。勝負の機微と言えばそれまでですが、渡辺名人は違う感想を述べています。これは棋聖戦第1局、第2局も踏まえてのものですが、勝機を見出すのが難しすぎるぐらいで良いかと思います。

 どんな将棋であっても勝負の岐路があるはずですが、藤井三冠と戦った感想として、あそこでとか、あの時に的なものを探し出すのが難しく、それこそ構想をガラッとかえて指し直すぐらいでないと勝つのは容易ではないとしておられます。

 これってAIが台頭した時にプロ棋士が勝てなくなった将棋と似ている気がします。そんなに悪い手を指していないはずなのに、気が付くとどう足掻いても挽回が不可能な状態に追い込まれているぐらいです。

 渡辺名人や豊島竜王は名実ともに棋界のトップを争う棋士で、AI研究も深いはずです。ひょっとしたら、かつてトッププロを蹴散らした時のAIより強いぐらいかもしれません。それぐらいAIに近い将棋を指せる実力者でも藤井三冠に分が悪くなっています。

 そうなると藤井三冠はAIレベルを踏まえた上で、さらに上の領域に足を踏み入れてる可能性があります。そうなるとどうなるかですが、将棋のトッププロもそこまで追いかける必要がありますし、当然のように追いかけます。

 そのたどり着いた果てはなんだろうです。大昔の将棋漫画に完全定跡を追求する話がありました。そう先手が必ず勝つ定跡です。それに対し、あれこれ戦術をもって棋士たちが挑みますが、ついに誰も勝てないことがわかります。

 漫画の説明としては、相手がどう指しても、必ず必勝形に持ち込んでしまう壮大な嵌め手みたいな説明をしていましたが、未来の将棋はそこに収束してしまうのかもしれません。

 こんな予想が外れるかどうかまで、辛うじて生きているかどうかの年代に入っているのがチト寂しいです。