純情ラプソディ:第14話 A級五段の価値

 梅園先輩からは、

「とりあえずヒロコはB級に早くなってね」

 競技カルタには将棋や書道、珠算にもある級は無いのよね。他の競技とかなら初級とか十級ぐらいから始まって十階級ぐらい上に初段がある感じだけど、競技カルタなら初心者が無段で次がいきなり初段。

 無段から初段に上がるにはE級大会で三位以内に入賞したらOKだけど、これもかなり甘いところがある。これまた競技カルタ独特の気がするけど、級別の大会でも人数制限があって、

E級・・・十六人
D級・・・三十二人
C級・・・六十四人
B級・・・六十四人
A級・・・百二十八人

 じゃあ、E級に十六人以上の参加希望者がいればどうなるかだけど、二つの組に分けちゃうのよね。だから大きな大会になるとE1組、E2組、E3組・・・って感じになるけど、これは実力別じゃなく、トーナメントを分けてるだけ。

 なおかつそれぞれの組の優勝しか決めないんだ。だから大会規模によっては同じ級の優勝者が何人も出る事になる。どうしてかと言われても、そうなってるものは、そうなってるしか言いようがないものね。

 これもまた競技カルタ独特の気がするけど、優勝は一位、準優勝は二位なのは他と同じだけど、三位決定戦は行われないから、準決勝進出者は二人とも三位になる。ここはまだありがちだけど競技カルタの四位って、なんと準々決勝進出者を指すんだよね。つまり四位がトーナメントごとに四人出るってこと。


 さて初段の獲得条件だけど、E級大会で三位になること。と言っても十六人のトーナメントだから二回勝てば三位に入れちゃうのよ。組み分けが起こる時には同じカルタ会所属との対決を可能な限り避けるだけで、後はランダムがほとんど。

 E級って無段だけど、ここのレベルはかなりまちまち。カルタ会がしっかりしているところは、D級を狙えるぐらいの実力になってから出場させるところもあるけど、腕試しとか、場慣れとかで素人に毛の生えた程度の選手も混じってるんだよね。

 組み合わせはランダムだから、初心者同様の相手に一回戦、二回戦と当たることだってあるから、ひょいと参加していきなり初段になるのも容易にありうるぐらい。組み合わせの運不運はかなり大きいのよ。

 D級からC級もそうで、トーナメントは三十二人になるから三回勝てば二段に昇格だよ。E級よりは実力のムラは小さくなるけど、組み合わせの差はやはり大きくて、運が良ければアッサリ二段になれるんだ。ヒロコがそんな感じかな。競技カルタを知らない人なら、二段と言えばプロに近いぐらいのイメージみたいだけど、実態はそんなもの。

 ただC級からB級となると難度は上がる。さすがにフルイを二回かけてるから実力差が小さくなってるし、C級で三位になるには六十四人だから四回勝たないとならないもの。だから三段になったらかなりの実力者と見てよいと思う。初段から二段に比べて、二段から三段はかなり差がある気がする。


 B級からA級はさらに難度が上がり、

・B級優勝
・B級準優勝二回

 B級も六十四人のトーナメントだけど、C級以下のように三位じゃだめで、とにかく決勝まで上がらないといけないことになる。そのためには五回勝つ必要があり、優勝すれば昇級できるけど、準優勝なら二回必要。この難関を突破出来たら折り紙付きの実力者として良いと思う。

 A級とB級は段位で一つだけど、この差はカルタでは大きいのよね。各地のカルタ大会の本当の優勝者はA級だし、全国選手権や全国選抜大会に出場資格があるのはA級だけだし、頂点の名人戦やクイーン戦の予選に出場資格があるのもA級だけ。

 将棋で無理やり例えれば三段以下は奨励会で四段になってプロと名乗れるのと似てる気がする。囲碁ならプロ試験を合格して初段になるぐらいかな。それぐらいA級四段は価値はある地位なんだ。


 A級四段になるだけでも半端じゃないけど、これがA級五段となるとトンデモナイものになる。まずは昇段条件だけど、

 ・A級優勝1回
 ・A級三位入賞三回
 ・A級得点八点
 ・A級勝数二十勝

 A級とB級以下の最大の違いは、A級は四段以上がすべて参加する大会になる。大会によっては、それこそ名人とか準名人、クイーンとか準クイーンも参戦してくるんだよ。そんな強豪ぞろいの中で優勝するには七回も勝たないとならないのよ。三位だって五回だよ。

 ここでこれまた競技カルタ独特のシステムだけど、A級得点というのがある、これは別に五段昇格のためだけのものじゃなく、A級以上のランク付けのために使われるぐらいの理解で良いと思う。

 全国選手権や全国選抜選手権、さらに名人戦やクイーン戦がそうだけど、参加人数に限りがあって、一大会で百二十八人までなんだよね。他もそうだけど、これに参加するにはA級得点が多い方から頭跳ねで選ばれるということになる。このA級得点だけど、普通の公認大会で、

 ・優勝八点
 ・準優勝四点
 ・三位二点
 ・四位一点

 これが全日本選手権や全国選抜なら二倍になり、名人戦やクイーン戦ならさらにその二倍になる。A級で三位以上になろうとおもえば、名人位やクイーン位を狙うためにA級得点が欲しい連中に勝たないといけない事になるのよね。

 だからA級四段とA級五段の差はたった一段じゃない差があるのがわかってくれると思う。梅園先輩や片岡君がどれほどの実力者なのかもね。これもむりやりたとえればA級四段はカルタ好きの究極目標ぐらいで、五段となると神々の世界に入るぐらいでも大袈裟過ぎないと思うよ。

 ちなにみだけど六段となると準名人や準クイーンになり、七段は名人やクイーンで、八段は名人やクイーンの連覇になる。もうここまでくればカルタの神様みたいなクラスになるで良いと思う。


 競技カルタの段位は実力を現わす物差しだけど、段位が上がるほど難度が途轍もなく高くなるのがわかってもらえると思うんだ。同じA級でも一段上がるごとに全然違うってこと。

 とくに六段とか七段になると、他にも昇段条件があるにせよ、名人戦やクイーン戦に出場してやっともらえるんだもの。名人戦やクイーン戦はタイトル・マッチだし、挑戦者だって初出場と限らないから、年に一人誕生するかどうかぐらいの難関なんだよ。

 そんな中でヒロコのC級二段なんて、競技カルタがまともに出来ますぐらいのレベルってこと。A級どころか、B級の選手にも個人戦ではまず戦えないクラスなんだ。B級以上の選手と公式戦で戦えるチャンスは団体戦とクラスレスの非公認大会ぐらい。

 でも強くなろうと思えば、自分より強い相手との練習が絶対に必要。その点で港都大カルタ会は良いところなんだよ。たった五人しかいないけど、A級五段が二人、A級四段が一人、B級一人だもの。誰と戦ってもヒロコより上位の選手だから練習環境として申し分が無い気がしてる。梅園先輩なんか、

「ヒロコはとっくにB級越えてるよ」

 こう言ってくれるけど、たとえば雛野先輩は苦手。

「サウスポーはムイムイも苦手」

 片岡君も、

「ボクもだ」