純情ラプソディ:第45話 夢は広がる

 梅園先輩がサークル室に踊り込んで来たのだけど、

「来たよ、来たよ」

 雛野先輩が手を取り合って、

「良かったね、ムイムイ」
「ホント、つい盛り上がってさ、だから心配だったのよ」

 へぇ、そりゃ良かった。妊娠の心配してたんだ。

「あの夜は夢中になっちゃって、途中からもう」
「その気持ち、わかるわかる」
「でも止まらないじゃない」

 どんだけやってるんだよ。好きにしろって言いたいけど、はて、先輩たちに彼氏なんかいたっけ。つうか初体験すらまだのはず。もしやろうものなら、二時間はしゃべりまくるはずだもの。そういう人だって、よ~く知ってる。つまりはまだバージンだ。

 もし男がいるとならばポチだけだけど、まさかホントにそこまでの関係になったとか。だってだよ今は部屋まで連れ込んで、炊事や掃除、洗濯までさせてるって話じゃない。

「そうだよ。愛の本質は相手に尽くすこと」
「純愛とは無償の愛よ」

 良く言うよ。メシマズの片付け嫌い、掃除嫌いなだけでしょうが。柳瀬君も言ってたもの、

『部屋に入らせてもらったのは感動の極みでしたが、ドアを開けた瞬間に靴箱の上から荷物の土砂崩れに襲われまして・・・』

 そこからリビングに行くまでが川口探検隊状態で、床が見えるまで三日かかったって言うものね。ちなみに藤原君もほぼ同じ。そこまで片付けさせておいて、今はポチの二人は夕食のメニューを考えて買い物して炊事もぜんぶやってるのよね。

 でもそこまで行けば同棲状態みたいなものだよ。とくに自分の服、とくに下着を洗わせるとこまではなかなか行かないよ。干してるのを見られるのだって嫌だもの。でもだよ、そこまでの特別の関係になっても、

「なに言ってるよヒロコ。ポチとは清らかな関係よ」
「この清純な愛が見えないの」

 やるどころかキスさえまだってこと。あれは態の良い家政婦扱いにしか見えないところがある。つまりは男として見ていない。なんていうか、あの二人は口とは裏腹にダイヤモンドの様に固いのよね。

「そりゃヒロコのところとは違うわよ」
「そうそう、バカスカやりまくるビッチじゃない」
「ヒロコはやってませんしビッチでもありません」

 なにがバカスカよ。やってるわけないじゃない。じゃあ、じゃあ、誰と生やって妊娠まで心配したんだよ。

「ヒロコは自分の経験を考え過ぎよ」
「誰もが同じじゃないからね」

 だって妊娠の心配したから生理が来て喜んだって話でしょうが。

「誰がそんなこと言ったのよ。焼き鳥食べに行って、どうしてもレバ刺し食べたくなっただけ。そしたら鳥刺しも食べたくなって」
「ムイムイは鳥刺しが大好物だものね。でも前に食あたりを起こして我慢してたのよね」
「そうなのよ。だから心配だったけど、今朝も快便で大丈夫だっただけ」

 またやられた。ヒロコだって大学に入ったころは純情可憐、清純無垢だったのよ。それがこんな先輩がいたばっかりに・・・朱に交われば赤くなるとはまさにこの事。やっぱり友だちは選ばないと。すると片岡君まで、

「はい漫才はおしまい。倉科さんも純情ゴッコもそれぐらいで、本題に入ってください」

 ギャフン。

「そうだね。前置きはこれぐらいにして、札幌杯の正式の招待状が届いたよ」

 どんな前置きなんだよ。素直に本題に入ってよね。さて競技は、へえ、二日制なのか。一日目は総当たりのリーグ戦をやって、その一位と二位が二日目に五回戦制の王者決定戦か。こりゃ、なかなのスケジュール。フルでやれば二日で十二試合か。

「でも五泊になってますね」
「なんと御褒美タイムまであるんだよ」

 一泊目は行くだけで夜は開会式兼懇親会。二日目がリーグ戦で三日目が王者決定戦。四日目が御褒美タイムだけど、

「この撮影への協力って?」
「書いてあるそのまま」

 メインは映画撮影だものね。映画の主演は桐原萌絵と浦田俊なんなんだ。今が売れっ子の青春スターだよ。行けば会えるのかな。

「もちろんだよ。映画でも決勝大会はメイン・シーンになるはずだもの」

 サインもらおうっと。でも映画に出るなら空色のTシャツにジャージは嬉しくないな。どうみても、その他大勢の雑魚キャラじゃない。

「それも心配ない。なんと、なんと、出場選手には衣装が出るんだって」

 なるほど、なるほど。映画撮影ならそうなるよね。

「それに関連してだけどレギュラーを変更する」

 やはり達也は控えに回すのか。これも仕方ないか。カスミンは二試合しか出ていないけど強烈過ぎた。だってだよA級相手に一枚も取られていないんだよ。今日はカスミンも来てるけど、

「協力のお約束は、あくまでも急場の控えです」
「それは忘れていないけど、鳥山監督からの要請なんだ」

 なんだって。大学選手権の時に見に来ていたみたい。

「だから如月さんが断ったら招待は取り消しにされるかも」

 それは困る、絶対困る。北海道は絶対だ。嫌がるカスミンを全員で説き伏せようと思ったら、

「北海道のためなら仕方ありません」

 そんなノリで良いのか。

「梅園先輩、カスミンが出場するのに何か意味があるのですか」
「そんなもの決まってるじゃない。きっと鳥山監督は大学選手権でオーディションをやったのよ。そこでうちが選ばれたに違いない。港都大の四大美女を見逃すはずがないじゃない」

 四大・・・美女ね。カスミンはまず入るのは認める。うちの学生に聞いてもみんな認めると思う。でも残りの三人は無理あるよね。そりゃ黙っていれば梅園先輩は知的美女だし、雛野先輩はコケティッシュ美少女ではあるけど。とにかく黙っていないのがあの二人。下ネタでも、男の前で平気でやらかすんだもの。

「カルタは男女混合で出来る競技だけど、絵になるのは美女同士の対戦だよ」

 それはわからないでもない。野郎同士の対戦も迫力あるけど、青春映画なら美女同士の対決にしたいかも。男の対戦にするなら、優男同士だろうな。悪いけどジャイアント斎藤とか、坂田兄弟みたいな対決はジャンル違いの格闘技映画になりそう。

「でも美人なら城ケ崎クイーンがいるのでは」
「玲香のチームは、玲香以外のレベルが低すぎる評価だったと思ってる」

 ホンマかいな。でも、もしそうなら、

「そういうこと。ムイムイの映画デビューになる」
「ヒナのスター伝説の始まりよ」

 せいぜいチョイ役にしか思えないけど。まあ、チョイ役でも映画に出演したら一生の思い出になるよね。

「だからムイムイは三日目のスケジュールは空けてある」
「ヒナはサインの練習始めたよ」

 でもさあ、よく考えなくとも二日目だって予選リーグで二位までに入れなかったら用事はないじゃない。

「なに言ってるのよ、ビールを忘れたの」
「なにがなんでも絶対に持って帰る」

 そっちも忘れてないか。でも聞いてると普通の大会とはだいぶ様相が違いそう。頑張って新星学園に勝っといてよかった。