純情ラプソディ:第19話 去年の学祭

 港都大の学祭は秋にある。六甲台祭が正式だけど学生は台祭、つまり『だいさい』って呼んでるのよね。カルタ会も参加するはずだけど、

「雛野先輩、去年はどうしていたのですか?」
「そりゃカルタ会だからカルタだよ」

 それしかないか、

「初心者向けの教室とか模範試合ですか」
「それは無理。競技カルタなんて初心者に教えたって面白くないよ。模範試合をやるにも一時間ぐらいかかるから、そんなの付き合ってくれないよ」

 それもそうだ。だったら、

「いろはカルタをやったんだ。けっこう儲かったよ」

 儲かる? いろはカルタで?? どうやって???

「賭けカルタをやったんだ」

 それは犯罪じゃ、

「ちょっとグレーだけど、競技カルタは見ようによってはプロだから指導料と言えないこともない。参加料を取る代わりに景品だしてた」

 A級なら賞金が出る大会もあるからプロと強弁できない事もないか。まあ、そこまで無理に考えなくとも夜店の輪投げみたいなもので、ゲーム料をもらいながら景品を渡す感じに近いかも。でもいろはカルタなんかにそんなに人が集まるかな。

「なにを景品にしたのですか」
「子供向けにはお菓子にしたけど、大人向けにはプロジェクター付デジタル・フォトフレーム」

 あっ、それ欲しい。フォトフレームになるだけじゃなくて、壁に大きく映せるんだよ。でもあれは高いけど、

「子どもは百円にしたけど、大人は千円でやってもらった。でも、それじゃ、集まらないと思ってハンデを付ける事にした」

 ハンデはカルタ会一人に対して、団体で挑戦するスタイルにしたそう。団体と言ってもその場で組んでも良くて、三人から四人を相手にして試合したんだって。でもそれで負けたりしたら、景品は団体に一台じゃなくて、一人に一台にしたって言うから、

「よく儲かりましたね」
「子どもには負けてあげたけど、大人相手はガチでやったから」

 なんと全勝だって。

「でも、もし負けてたら」
「困ってた」

 景品の用意なんてしてなかったと言うからエエんかいな。でも競技カルタのA級なら、いろはカルタでも圧倒的に強そうな気がする。札の配置を覚えるのも、手を出す速度も桁違いだものね。

「でもちょっと苦戦したのもいた。だから儲かったけど」

 どうも話が見えにくいな。苦戦したのに儲かったってなんなのよ。

「来たのよ。あの連中がね」

 梅園先輩を置き去りにし、陰に日なたにカルタ会を潰そうとしてたボス女とその取り巻き連中だ。とにかく梅園先輩たちにあれだけ悔しい思いをさせた張本人。でも相手は競技カルタ経験者で、しかも複数。

「ムイムイを舐めちゃいけないよ。その程度で負けるものか」

 悔しがって三度、四度と挑んでくるを返り討ちにしたって。さすが梅園先輩、相手が相手だから気合も入ってたんだろうね。

「そしたらね。アイツら助っ人を連れてきやがったんだ」

 いろはカルタの助っ人?

「翌日にA級六段のオッサンを二人も連れて来たんだよ。それで、いろはカルタじゃなくて競技カルテで勝負を挑んで来たんだ。そしたらムイムイは、競技カルタは予定外だから、一勝負一万円だって吹っかけたのよね」

 A級六段なら梅園先輩でも勝てないじゃない。

「ヒナと二人で叩きのめしたら帰ってくれたよ」

 ひぇぇぇ、勝ったんだ。

「当たり前でしょ」

 そういうことか。将棋なら段位はそれまでの実績を反映して実力は順位戦になるけど、カルタでは死ぬまで一緒だよね。歳を取れば反射神経も瞬発力も落ちるから、よほど練習を積んでいないと実力は落ちるはず。

 さらにがあって、昇段は実績で昇段するのもあるけど、カルタへの貢献度を評価されてのものもある。ごくシンプルには、カルタ協会の役員とかを歴任すれば功労賞としてもらえる感じ。将棋や囲碁の名誉何段みたいなもの。

「そういうこと。実力で六段あったかどうかも疑問だね。ホントに六段でも何十年前の話だってこと。大会だって参加してるかどうかも怪しいよ。こっちはバリバリの現役だからあんなロートルに負けるわけないなじゃない」

 それでも試合が始まるまでは一抹の不安はあったそう。

「さすがにね。でも試合が始まったら鈍い、鈍い。戻し手も、渡し手もやり放題。最後は木っ端微塵にしてやった」

 それもわざと最初の二回は接戦模様にして次の勝負を誘い。参加料を、

 一万円 → 二万円 → 四万円

 こう吊り上げたっていうものね。その手って、いろはカルタの時も、

「当然じゃない。もうちょっとだったのにと思わせるのがコツ。どうせあの女から焚きつけられてるから、勝ちそうなら再戦を挑むと見たんだよ」

 あちゃ、カモにしたんだ。そうしておいて、最後の勝負は殆ど取らせないぐらいの圧勝劇にしたっていうのよね。その助っ人オッサン・コンビだけでも十四万円も巻き上げたから儲かったわけだ。

「全部で二十万円ぐらいもうけたかな。だから収支はバッチリよ」

 ようやるわ。

「今年も、いろはカルタですか」
「それもやるけど、今年は去年から温め続けたのをやる」

 なにするんだろう。また賭けカルタ、

「あれはさすがに拙いからもうしない。今年は全然違う、もっと楽しくてハッピーなものだよ」
「儲かるのですか?」
「商売? 学祭に商売を持ち込むのは不純だよ」

 良く言うよ。