純情ラプソディ:第20話 パフォーマンス

 梅園先輩がみんなの前で、

「今年の学祭はカルタ会の存在を全学に轟かせるのが目的」

 轟かせたって会員が増えるとは思えないけど。

「ヒナ、準備はイイ」
「もちろんよ」

 雛野先輩がスマホにスピーカーを接続するとミュージックが流れ出し、二人が突然踊り出した。いやぁ、上手いもんだ。息もピッタリだし。ダンスが終わると、

「これをやる」

 はぁ! うちはカルタ会だぞ。

「みんなにもこれから練習して学祭までに踊れるようになってもらう」

 みんなってヒロコも踊るの?

「みんなって言えばムイムイとヒナ以外の三人しかいないじゃないの」

 片岡君も早瀬君も文句を言ったけど、

「おだまりなさい。これは港都大カルタ会の決定です」

 つうか梅園先輩と雛野先輩が決めただけじゃない。とは言うもののあれでも先輩だし、代表と副代表。こっちは一年の新入会員。煙に巻かれるように説き伏せられちゃった。

「ところでステージで踊るのですか」

 学祭でパフォーマンス系の部活なりサークルが出演するのは講堂か特設野外ステージ。でもだよ、先輩二人のダンスは上手だけど、やっぱりダンス・サークルとかチア・リーディング部に比べたら素人芸だよ。

「そのとおり。だから講堂にもステージにも出ない」

 じゃあ、どこでこんなこっぱ恥しいものを、

「ゲリラ・パフォーマンスでやる」

 おもわず三人で、

「なんだって!」

 そこからカルタの練習はそっちのけでダンスのトレーニングの日々が、そりゃ、もう厳しいのなんのって。

「手の動きがぎごちない。もっと指先まで神経を集めて」
「ステップはそうじゃない。それとキレが悪い。もっとリズムに乗って」
「顔は笑顔よ」

 カルタでもこれほど練習していないんじゃないかと思うほどやらされた。でも、やってみたら案外楽しかった。あれだけ嫌がっていた片岡君や早瀬君もノリノリ気分になっていた。学祭が近づくとパフォーマンス予定場所に行って、

「当日はこういう状態になっているはずだから、まずムイムイがここから踊り始めて・・・」

 段々に踊り込む人数が増えるパターンにしようとしているのはわかるけど、たったの五人だよ。

「あのね、これは去年からヒナと練り上げていた企画なの。手抜かりはないの」

 ホントかな。予定場所は模擬店がずらりと並ぶ十字路。真ん中に噴水があるから、通称噴水広場。たしかに人通りが多そうなところだけど。

「ミュージックは」
「ちゃんと手配してある。映研にも協力をお願いしてる」

 映研? なんのために。

「晴れ姿を撮ってもらわないと意味がないじゃないの」

 嫌だビデオに撮られるなんて。さて当日。雨は残念ながら降ってくれず、見事な日本晴れ。ヒロコたちもスタンバイしてたんだけど。噴水広場に先輩たちの姿はなく、その代わりに一人の見知らぬ女がいた。やがてミュージックがイントロを奏でたのだけど、なんとその女がマイクを持って歌い始めたんだ。まさか生歌付きとは思わなかった。

 打ち合わせと違うじゃないと思ってたら、さらに男が二人躍り込んできた、そして歌ってる女が手招きすると、梅園先輩と雛野先輩が誘われるように現れ踊り始めたんだよ。

 そこからは打ち合わせ通りにヒロコたちも加わって行ったんだけど、途中でみんなで指さすポーズがあるのよね。振付通りにパッと指さしたら腰抜かしそうになった。ギャラリーと思ってた中からさらにドバっと踊り込んで来たんだもの。

 それだけでもどうなってるんだの世界だけど、その中の一人が連続バク転から宙返りもやったものだから、そりゃ拍手喝采だった。そしたら、そしたら、噴水広場にカーペットが敷かれてたんだよ。これも打ち合わせにないから、何が起こるんだと見ていたら、梅園先輩と雛野先輩がやってきて、

「ヒロコ、こっちに来て」

 えっ、どういうこと。こんなの聞いてないよ。カーペットの片方の端に立たされて、ダンサーたちはカーペットの左右に片膝立ちに。反対側の端にはなぜか早瀬君が立ってる。今日の早瀬君はジャンパー姿だったのだけど、それを脱ぐとカッターシャツにネクタイ。そこでジャケットが手渡された。あれは空色ってして良いのかな。ジャケットを着こんでヒロコの方に進んでくる。

 途中で花束を受け取って、ついにヒロコの前に立った頃に音楽は終わった。マイクを受け取った早瀬君の顔が緊張してる。これって、これって、

「倉科さん。驚かせてゴメン。ボクは県予選であなたと対戦してから好きでした。大学も一緒なのに飛び上がりました。好きです、愛してます。こんなボクで良かったら付き合ってください」

 なによこれ。そんなこといきなり言われても困るじゃない。早瀬君は嫌いじゃないけど、恋人になれっていわれてもすぐに返事できないよ。そしたら梅園先輩が耳元で、

「ヒロコ、パフォーマンスだから」

 それはわかるけど、それなら前もって打ち合わせをしてくれないと。それにだよ、こんな注目された状態でハイなんて言ったら・・・でも、ごめんなさいが拙いのもわかる。この場の空気はヒロコが求愛を受け入れるのを求めてる。そう、ここまでのパフォーマンスが台無しになっちゃうじゃない。

 みんなヒロコに注目してる。恨むぞ梅園先輩。テンパって、詰まりまくった挙句にヒロコが出した答えは、

「まずはお友達から始めましょう。それで良ければ」

 その瞬間に巻き起こる拍手喝采。おいおいまるでプロポーズに成功したみたいな騒ぎはやめてくれ。そしたら片岡君が来てこっそり、

「ゴメンな。でも早瀬は本気だ。それだけはわかってやってくれ」

 早瀬君・・・