目指せ! 写真甲子園:意外な審査結果

 ステージ向かって右側に写真部、左側に宗像君グループが着席し、真ん中に審査員席が作ってあるのだけど、気になるのは審査員。豆狸が大会委員長兼審査委員長だけど、まさか一人でやるとか。野川君に気になって聞いたのだけど、

 「それはないと思うよ。だって審査員席は三つだよ。もう二人は来るはず」

 そうしたら豆狸が、

 「皆様、御静粛に。審査員の先生方を紹介させて頂きます」

 やっぱり川中写真教室からかな。それだったら不利だけど、

 「御紹介の前に一つだけ。今回の写真甲子園校内予選会は、写真部の顧問に麻吹つばさ先生に就任して頂くと言う異例の事態になっております」

 たしかにそうだ、

 「宗像君のグループも西川流の大きな支援を受けております。この状態で通常の審査員をお願いするのは不可能です」

 どよめく会場。こんな審査は誰だってイヤなのはエミにもわかるけど、

 「そこでまず麻吹先生にお願いしました」

 それじゃあ、あまりにもエミたちに贔屓し過ぎじゃない。

 「もう一人はシンエー・スタジオの辰巳雄一郎先生です」

 隣で野川君が茫然としてる。エミも聞いたことあるもの。辰巳先生と言ったら、西川流の総帥のはず。

 「審査方式は、この場で公開にて行います」

 二人が入ってくると講堂は興奮の渦。野川君も、

 「代理戦争みたいなものだって言ってたけど、ここまでになるとは・・・」

 司会進行役でもある豆狸は、

 「審査の前にそれぞれのプレゼンを行って頂きます」

 藤堂君グループは運動部で来たか。こりゃ、上手いよ。去年と比べても格段の進歩じゃない。西川流が本気でテコ入れのトレーニングしてた噂はホントみたい。麻吹先生の特訓を受けてなかったら勝負にさえならなかったよ。

 「・・・以上です」

 次はエミか。宗像君はプレゼン原稿使ってたけどエミはいらない。話すのは八枚の奏でるロンドだもの。感じたままを口にすれば十分。

 「・・・以上が写真部のプレゼンテーションです」

 さて公開審査ってどうやって行われるのだろう。やっぱり麻吹先生が写真部の肩を持ち、辰巳先生が宗像君グループの肩を持っての大論争とか。そうなってしまえば審査は修羅場になっちゃうけど。口火を切ったのは麻吹先生だった。

 「辰巳先生、今日は神戸までわざわざ御苦労様です。ところで審査の必要を認めますか」
 「要りませんな」
 「わたしの口から申し上げましょうか」
 「いや、これは私の仕事です」

 なんだ、なんだ、なに言ってるんだ。これが審査か、

 「宗像君のグループは失格だ」

 なんだって、観客席からも、

 「えぇぇ、どういうこと」

 こんな感じの大きなどよめきが聞こえてくる。エミだってさっぱりわかんない。向かいに座っている宗像君の血相が変わっているのがよくわかる。あっ、立ち上がった。

 「納得いきません。説明をお願いします」
 「宗像君だったね。この場で聞きたいのかね」
 「もちろんです」

 辰巳先生は大きなため息を吐き、

 「宗像君、今回の課題を答えてみたまえ」
 「それは、『青春の躍動』のテーマで八枚の組み写真の作品を作る事です」
 「そうだ。それを三人一組のチームで作る事だ。この組み写真はすべて一人の撮影者の写真だ」

 えっ、なんだって。一人で撮ってたのか。言われてみれば、どの写真も撮り方が似てる気がする。

 「でも今回の規定では、一人の写真ですべて組んで悪いとはなっていません」
 「では君はこれを二時間のうちに一人で撮ったと言うのかね」
 「もちろんです」

 う~ん、無理あるな。あれだけの写真を撮ろうと思えば、移動距離も長くなるし、よほど撮影スポットを把握してないと無理のはず。でも宗像君グループは規定時間よりかなり早く戻って来てたものね。

 「これを私の口から言わせるのか。まあよい、これも総帥たるものの仕事の一つだ。これらの写真は今日撮られたものではない」

 やっぱりインチキやってたのか。またもやどよめく会場。

 「そんなことはしていません。ロー画像の日付と時刻を確認してもらえればわかるはずです」
 「君は誰に向かって物を言ってるつもりかね。日付と時刻の細工ぐらいで誤魔化されると思っていたら大きな間違いだ。私と麻吹先生の目は節穴ではない」

 辰巳先生は立ち上がり、スクリーンに映し出された写真を指し示しながら、

 「たとえばこの写真。これを午前中に撮影するのは不可能だ。日の光がまったく違う。レタッチしない限り、この色は出ない」

 宗像君の顔が真っ赤になってる。

 「間違いなく自分で撮ったものだ。そんなものは証拠にならない」
 「そこまで言うのか。では聞くが、これらの写真はすべて望遠で撮られている」
 「運動部の動きを追いかけるのに使って当然です」

 辰巳先生は嘆息するように、

 「三千ミリの望遠を使ってかね」

 三千ミリって化け物みたいな超望遠じゃない。そんなもの宗像君は持ってたっけ。

 「そんな望遠は使ってません」
 「圧縮効果だけでも説明は十分だが、このアングルは校外からでないと撮れない」
 「校内で撮ってます」

 辰巳先生は諭すように、

 「村井は白状してるぞ」

 宗像君の顔が蒼白になってる。辰巳先生は、

 「宗像君グループが失格のため写真部の勝利となるが、講評は私がさせて頂く。たとえ宗像君グループの失格がなくとも写真部の勝利は動かない。今回の課題は組み写真。組み合わせの妙を競うものである。その点で写真部は格段に優れている。初戦審査会での健闘を祈る」

 麻吹先生は、

 「小豆田先生、以上が審査結果になります」

 狐につままれた感じがしたけど、勝ったのは写真部だ。