目指せ! 写真甲子園:祝勝会

 部室でささやかだけど祝勝会になったんだけど、

 「麻吹先生、なにがあったのですか」
 「あれか、辰巳に貸しを作ってやっただけ」

 麻吹先生は去年の宗像君の作品を見ただけで、校内予選会の当日に撮られたものじゃないのはわかったらしい。

 「でも、どうやって事前にテーマを知ることが出来たのですか?」

 去年も審査委員長は豆狸だったけど、審査員を川中写真教室に頼んでるのよね。この辺だったら一番の写真教室だし写真館でもあるから他に選びようがないかも。テーマを審査員と選んだけど宗像君には筒抜けだったってこと。

 「今年は?」
 「筒抜けまでは同じだった」

 去年と違うのは写真部にオフィス加納が肩入れしている点。とくに麻吹先生が顧問になったのに危機感を募らせていたっていうのよね。そうなっても不思議ないけど、

 「写真部に対抗して東京のシンエー・スタジオに修業に行ったり、助っ人を呼んでトレーニングしてたはずですが」
 「それは少し違う。シンエー・スタジオは関与していない。宗像が行ったのはシンエー・スタジオ出身のスタジオ村井だ。それなりに勉強はしたようだが、負けたくなかったんだろうな。宗像の親っさんが、村井に依頼したんだよ」

 なんだって! あの写真はプロが撮ったものだったんだ。そっか、そっか、部外者だから校内に入れないから、校外から超望遠で撮ったってことか。噂にあった東京からの応援って、宗像君のトレーニングじゃなくて校内予選会の写真を村井プロが撮ってたとは。

 「麻吹先生はいつから知っていたのですか」
 「ああ、宗像が東京に行った時だ。村井が相手となると、写真部をさらにレベル・アップさせないと話にならないから顧問になったのだ」

 突然の顧問就任に驚かされたけど、そういう理由だったのか。それと二学期に行われたトレーニングは厳しいなんてもんじゃなかったけど、あれは宗像君に勝つためじゃなくて、村井プロに勝つためのものだったんだ。そりゃ、あれだけ厳しいのは当たり前じゃない。


 準備を整え証拠をそろえた麻吹先生は辰巳先生に宗像君の去年の不正、さらに今年にやろうとしている事を告げたで良さそう。

 「辰巳も慌てたみたいで、村井を呼びつけて白状させたよ。あいつも義理堅いところがあるから、不始末は自分で処理すると言いだして神戸まで乗り込んで来たってわけだ」

 辰巳先生が神戸に来たのは校内予選会の前日で、その日のうちに川中写真教室に乗り込んで審査員を降ろさせ、豆狸に連絡を取って自分が審査員になると談じ込んだで良さそう。

 「あは。わたしも強引に引っ張り出されたけどね」

 だから開会式の時に審査員の発表がなかったのか。

 「でも麻吹先生。そんな情報をどこから」
 「プロの写真界も広いようで狭いから、その気になればわかるものさ」

 川中写真館の川中先生の兄弟子にあたるのが村井プロで良さそう。

 「村井もカネに困っていたからね」

 麻吹先生の口にかかれば殆どのプロが『ヘタクソ』になっちゃうんだけど、村井プロはあまり売れてなかったで良さそう。かなりの借金もあったみたいで、宗像君のお父さんの依頼に飛びついたぐらいの感じかな。

 それでもプロのはず。校内予選会の写真は良く撮れてたと思うけど、エミたちと較べてもぶっちぎりに見えなかったもの。

 「そりゃ、そうだ。村井ぐらいだからなんとかなると思っただけだ」

 しっかし、そこまで知っていたら、エミたちのレベル・アップにあれだけの手間ひまかけなくても、宗像君の不正を暴けば校内予選は楽勝だったはず。

 「あん。お前ら写真は嫌いか」
 「そんなことはありません」
 「良い機会になったろう。宗像と言う幻影があったから、お前らも頑張れたのだ。こういうものは現実的なモチベーションがあった方が良いのだよ。それをトコトン活かすのがオフォス加納流だ」

 これはアカネさんやタケシさんに聞いたことがある。

 『オフィスの修業は実戦現場にいきなり放り込まれるの。いきなりだから足を引っ張る存在にしかならないし、とにかく実戦だから足を引っ張った分だけ売り上げにも直結するのよね』
 『そうなんですよ。最初のアシスタントなんて、もう針の筵』
 『もっとかもね。地獄の針の山巡りぐらいだよ』

 それに近い状態に写真部が追い込まれたのをチャンスと見るなんて。でも力は確実に付いたのは間違いない。そうよ、写真部の目的は校内予選会に勝つことじゃなく、写真甲子園の初戦審査会をクリアすること。それだって最低目標で、ブロック予選も突破して夢は北海道だ。

 「気になって写真甲子園の決勝大会のレベルも見てみたのだが、思ったよりかなり高そうだ。夏休みの強化合宿の時には、あのレベルで十分と思っていたが、また足りないとわかった」
 「だから」
 「そうだ。わたしが手を懸けているのに負けたら恥だからな。お前らに優勝旗を握らせてやる」

 これも余談みたいなものらしいけど、麻吹先生も高校は写真部だったみたいだけど、

 「部の方は初戦審査会をなんとかクリアしたが、わたしは選手にも入れなかったよ。なんとなくあの頃を思い出してね。あははは、あの頃はお前らよりヘタクソだった。北海道は遥かなる夢だったものさ」

 麻吹先生でも高校時代はそれぐらいだったのに驚いた。

 「そりゃ、タダで北海道に旅行できて、好きな写真を思う存分に撮れるなんて、写真好きには夢の世界だよ。わたしも行きたかったけど、あの頃は手の届かない世界だった。選手で行けないのは仕方がないけど、顧問で行けるだけでもワクワクするよ」

 麻吹先生も昔の夢を楽しんでいらっしゃるから、ここまでの肩入れを、

 「わたしだけじゃない、アカネも、マドカも、サトルも、タケシも行っていないのさ。だから一緒に行こう」

 うん、行ってみせる。