ミサトの不思議な冒険:予備予選

 夏休みに入ってすぐに行われたけど、結果は予想以上に露骨。宗像の野郎、いきなりやりやがった。予備予選の結果発表前に、

 「未公認サークルからの出場は公認写真サークルの代表を上回った者のみを認める。それが審査基準だ」

 加茂先輩たちは突然の決定に抗議してたけど、

 「予備予選の主催は公認写真サークルだ。どのような審査基準を設けるかの権限は主催者にある」

 規則をタテに傲然と突っぱねたのよね。つまりは宗像の写真に勝たない限り出場させないってこと。結果として未公認サークル側の合格者はゼロだもの。ナオミと結果展示を見に行ったけど、

 「これは尾崎さん、お久しぶり」
 「あら、校内予選の時以来ですよね」

 宗像の顔がみるみるどす黒くなったのがわかったよ。それぐらいトラウマ抱えやがれ、

 「尾崎さんが出場しないとは逃げましたか」
 「あれまぁ、御冗談の上手いこと」

 トゲトゲしい雰囲気の挨拶を交わした後に宗像の写真を見たんだ。

 「ミサト、さすがに主席の写真ね」

 良く撮れてる。いや宗像にしたら撮れすぎてる。これは、

 「ナオミ、お茶しに行こう」

 二人で喫茶北斗星に、

 「尾崎、あれはやりすぎだろう」
 「少しぐらいはバランスを取ると思ってたけど」

 ミサトが出場しない時点で宗像は怖れるものなどなかったはず。それでもここまでの徹底排除は、なんらかの意図があったはず。

 「加茂先輩もそう思いませんか」
 「尾崎さんもそう見たか」

 あれは予備予選方式の拡大の意図があるはず。そして宗像の作品はミサトへのアピールだよ。

 「それでも宗像の写真は良かったな」
 「性格と写真は比例しないのかしら」

 宗像の写真はミサトも知ってる。上手いのは上手いが、あくまでも西川流の上手さの写真。でもあれは違う。今年の新入部員募集会場にあった宗像の写真ともまったく違う。宗像ではあの写真が撮れるはずがない。

 「やっぱりやったのか」
 「おそらくそうです。あれは間違いなくプロの写真です」

 あの写真であれば審査はやや微妙になる。負けるとは思わないけど、差が詰まると審査がインチキと言いだしにくくなる。そこまで保険を掛けてたってことなのはわかる。

 「ツバサ杯本番でもやる気か」
 「それは無理かと」

 ツバサ杯の審査委員長は麻吹先生。麻吹先生なら見抜く。たとえ代理で他のオフィスのプロが来ても同じ。

 「かもしれんな」
 「あの降格条件ではやらんだろう」

 今年に限って言えば、これで宗像さえ入賞すれば降格問題は回避できるのよね。ここでケイコ先輩が、

 「でもこっちの作戦も今年が勝負になりそうね」

 加茂先輩も、

 「今年はドタバタだったから、あんな穴が残ったけど、来年までには埋められてしまうのは間違いないだろ。それ以前に今年しか使えないが」
 「手続きの確認は?」
 「もう終わってる」
 「いよいよ勝負ね」

 居酒屋タイガー堂で立てられた作戦は、宗像が規則の拡大解釈でゴリ押しするなら、こちらは規則の穴に宗像を放り込もうだったのよね。

 「まあね、サークルなんて部活と違って規制なんてザルみたいなものなのよ。公認サークルはまだしも、届出だけの未公認サークルなんてザルどころか底が無いバケツみたいなもの」
 「統制主義の宗像主席様じゃ想像できない部分があると思うよ」

 後はミサトがギャフンと言わせれば良いだけか。

 「そこは責任ばかりを負わせて悪いと思ってるけど」
 「いいえ、あのインチキ野郎はもう一度痛い目に遭うべきです」

 宗像、写真を舐めるなよ。写真はウソをつかない、実力の評価がすべてなんだ、小細工をしたって、そんなものはいつかはバレるだけ。あれこれ策を巡らして悦に入ってるかもしれないけど、そういう写真は不純だよ。

 噂では宗像がB1級も師範資格も取れないのは、あの校内予選での不正を総帥の辰巳先生が自ら暴き、その不興を買ったとほざいてるようだけど、それは宗像の勘違い。辰巳先生はそんなに小さい人物じゃない。

 あれだけの不正をやった宗像を破門にもせずに置いてるのがなによりの証拠。まだ高校生の宗像の将来を閉ざすのを避けられたんだ。辰巳先生もまた西川流を背負い、トップ・エリートを集めたシンエー・スタジオの主宰者なんだ。麻吹先生とはタイプが違うけど、日本の将来の写真界を担う人材の育成に心血を注がれてるんだよ。

 宗像、お前がB2級止まりの理由は唯一つ、お前が写真の成長をやめたからだけ。いつまでも、いつまでも親っさんに頼って安易な道しか歩もうとしないお前じゃ合格なんて到底無理。本当に写真をやりたいのなら、ミサトに勝ってから言いやがれ。