ミサトの不思議な冒険:ツバサ杯エントリー

 「宗像主席、大変です」
 「どうした」
 「尾崎美里がツバサ杯にエントリーしています」
 「なんだって!」

 宗像はフォト・サークル・北斗星の加茂代表を探し出し連れて来るように命じます。

 「バカなことを。尾崎の出場資格などあるわけない」

 かなり時間が経ってから加茂代表が現れましたが、

 「尾崎美里の出場は認められない」
 「ツバサ杯は個人の資格でのエントリーは可能です」

 その点は宗像も対策していて、

 『未公認写真サークルの会員は、予備予選に出場していない時点でツバサ杯の出場権を失う』

 これを振りかざした宗像に、

 「それはボクも知っているが、尾崎さんは北斗星の会員ではないよ」
 「ウソをつくな」

 混乱する宗像に、

 「宗像君、君は未公認サークル会員のみに限定して予備予選を行ったのじゃないのか」
 「そうだ」
 「未公認サークルの会員の登録はどうなっているか知っているだろう」

 宗像には嫌な予感が走ります。

 「未公認サークルが継続して活動するには、毎年会員名簿を提出する。それが学生課に会員として登録される」
 「そうだが」
 「そこに登録されているのが会員だ」

 これも慣例として年末までになっています、

 「尾崎さんは北斗星の活動に興味をもってくれているが、まだ未登録の見学者だ。従って会員ではなく単なる個人だ」

 宗像は予備予選のエントリーで、一人も新一年生が参加していない事を思い出します。

 「我々は君の作ったルールに従い予備予選を戦った。だから尾崎君はそのルールを守って予備予選に出場せず、ツバサ杯に個人として出場する。これに文句を言われるのは心外だよ。御心配なく、我々は出ないよ」
 「そんな詭弁を」

 ここで加茂代表は怒気を含みながら、

 「宗像君、言葉に気を付けたまえ。先ほどボクに嘘つき呼ばわりをし、今度は詭弁とは聞き捨てならない。文句があるのなら、どういう規則で尾崎君が北斗星の会員であるかの説明をするのが筋だろう。まさか慣例とか持ちだすつもりか」

 やりこめられた宗像が押し黙ると、

 「それでも不満があるのならツバサ杯の事務局に問いただしたまえ。北斗星代表のボクからの説明は以上だ」

 加茂代表が部屋を出て行くと、宗像はツバサ杯事務局に向かい談じ込みますが、

 『ツバサ杯はサークル間の問題に関与しません。参加資格は明示してある通り、学生である事のみです』

 ニベも無く追い返されて終わります。父親に頼ろうにも、

 『ツバサ杯は手が出せない。あそこで問題を起すとエレギオン・グループを敵に回すことになりかねない』

 部室に戻ると宗像は誰も部屋に入れさせず、

 「やりやがったな」

 宗像は公認写真サークルを部活と同程度の地位に引き上げた上で、部活が未公認サークルの支配権を持つ点を最大限に主張しています。規則、規則の解釈・厳格化と自分で予備予選の実施のために主張して押し付けまくったぐらいです。

 その過程で、これまでの慣例であるとか、実態を持ち出してくる未公認サークルの主張を悉く退けています。そんなものは一文の価値もないとして、すべからく規則に基づかない主張は無意味としてきたのです。さらにその解釈を通すために父親を通して学生課の根回しもしています。

 サークルへの入会は、本人が希望し、サークルが認めれば成立します。手続き的には住所と名前を名簿に書くぐらいのものです。つまりサークルが所有する会員名簿に名前があればサークル会員になります。

 「クソ、そのためにわざわざ新一年生の出場を申し合わせてしなかったのか」

 未公認サークル側が持ちだしたのはサークル会員資格の厳密な解釈です。慣例的にはサークルの会員名簿に名前があれば会員ですが、正式には学生課に名簿を提出して登録される必要があります。

 これも形式的なもので、実態としては学生課に登録前でもサークル会員として活躍できますし、その成績もサークルの実績として認められます。しかし厳密に解釈されると反論は難しくなります。これを慣例として認めると、予備予選実施のために握りつぶしてきた多くの慣例を認めざるを得なくなるからです。

 「これで尾崎が出るのを防ぐ手段がなくなった。それが目的なのは明らかだが・・・」

 ツバサ杯のエントリー・リストには他大学の有力選手が目に付きます。麻吹つばさが主宰しているような賞ですし、副賞のハワイ旅行も魅力なのでしょう。このメンバーと競って入賞する事さえハードルが高いところがあります。

 宗像が思い描く最悪のシミュレーションは自分が選外になり、尾崎が入賞する事です。たとえ自分が入賞しても尾崎が上に来ると降格は必至になります。宗像の作戦は尾崎美里がツバサ杯に出場する事で崩壊寸前です。

 「それでも予備予選にあれだけ積極的に参加しているのにも何か意味があるのか」

 じっと考え込んで宗像でしたが、思いあぐねた末に、

 「次を計算してか!」

 尾崎美里が出場すれば宗像は必ず敗れると考えると、次に起るのは平公認への降格ですが、それに連動するのはフラッシュの公認昇格問題。公認昇格の条件は様々にありますが、学内でのトラブルへの関与も良くないとされています。要するに、

 「こんな問題でケチを付けられないためか」

 今年限りのお付き合いをしたぐらいに思えます。宗像の想像はさらに広がります。

 「まさか浜口教授が・・・」

 宗像もツバサ杯のオープン化に備えて戦力強化は進めていました。そのために写真甲子園の四国代表で優秀賞を取り、個人でも表彰を受けた寺西勇人をどうしても欲しかったのです。

 ところが何を考えたのかプロレス研究会に入ってしまったのです。宗像は強引に引き抜かせたのですが、このプロレス研究会の顧問が浜口教授。浜口教授は会員にコスチュームを着せた上で公認写真サークルの部室に乱入。宗像は本人の意思をタテに引き渡しを拒んだのですが、

 『それなら、これからプロレス研がお前のところから何人引き抜こうと文句はないな』

 さすがに写真サークルからプロレス研に変わるとする物好きはいませんでしたが、とにかく派手なパフォーマンスで意趣返しを繰り返されたので宗像も閉口させられています。

 「今年の降格回避条件設定の時にも動いていたらしいと聞くし」

 宗像の頭の中に妄想が渦巻きだします。宗像はこれまでそういう手段を使いまくっていたので、自分が追い込まれると相手が急に大きく見えだします。

 「いかん、いかん、そんな妄想に振り回されてどうする。とにかくツバサ杯をなんとかしないと」

 しかしツバサ杯をまともにやられると勝算が立ちません。常套手段の審査員の買収やプロに撮らせた作品へのすり替えも、

 「あの麻吹つばさが出てくると通用しない。残る手段となると・・・まだ手は残っている。尾崎がツバサ杯に出場して勝ったつもりでいるだろうが、オレを舐めるなよ。麻吹つばさごと潰してやる」