目指せ! 写真甲子園:イブの対決

 朝九時にエミたちは会場となる講堂に集合。大会委員長は去年に引き続いて豆狸こと小豆田先生。

 「写真甲子園に我が校を代表して出場できるのは一組のみ。写真部も宗像君のグループも是非にとの希望で校内予選会を執り行うものとする。高校生らしいフェアな戦いを望む」

 選手紹介があって野川君と宗像君が握手をしたけど、

 「野川、性懲りもなく出て来たな」
 「宗像君、君が知っているボクとは違うよ」

 もうバチバチ状態が始まってた。ルールは、

 ・九時半にテーマ発表、作戦タイム
 ・十時に撮影開始
 ・十二時、撮影終了。編集開始
 ・十四時、編集終了。引き続いてプレゼン。審査
 ・十五時、結果発表

 作戦タイムはテーマに従ってなにを撮るかの打ち合わせ。三十分でストーリーと八枚の写真の構成を考えなきゃいけないことになる。撮影場所は校内限定になってる。撮影が終わると編集タイムになり、これも二時間。

 編集はトリミングこそ許されるものの、レタッチは厳禁。明度や彩度の調製すら禁止となってる。ここで八枚の組み写真を作り上げ、さらにプレゼンテーションも考えることになってるの。

 写真甲子園決勝では顧問の先生もアドバイス役に付くけど今日は無し。宗像君グループに顧問の先生がいない事と、こちらに麻吹先生が出て来るのを警戒したんだと思ってる。

 「宗像君たちだけど、去年のブロック審査会の監督はどうしてたの」
 「小豆田先生がやってたよ」

 審査は午後になるため審査員はその時に発表されるらしい。

 「去年はどうだったの」
 「最初からいたけど・・・」

 会場はまだ誰も観客は入っていない。テーマが発表されたら十四時まで選手はいなくなるから、十三時会場となってるみたい。テーマ発表まで時間があったから、

 「撮影中の監視は」
 「今年も小豆田先生が見て回るらしいけど」

 事実上、野放しか。

 「編集は」
 「うちは部室を使うし、宗像君たちは小会議室があてがわれている」

 その気になれば事前に撮った写真との入れ替えも可能か。麻吹先生に昨日も相談したけど、

 『あん、いくら時間があっても腕前以上の物は撮れないよ。予選の日に撮ったもので圧倒すれば良いだけのお話』

 そりゃ、そうなんだけど、

 『余計なことを考えずに写真に集中しな。カメラマンに取って写真がすべてだ。写真にはインチキは通用しないよ』

 インチキがあろうとなかろうと、もう勝負は始まってるんだ。そうだよ、この日のためにあれほどトレーニングを積んだんだ。どんな小汚い手段を採ってこようが勝ってやる。豆狸が登場して。

 「テーマを発表します」

 何で来るか、

 「テーマは『青春の躍動』です。では今から競技開始とします」

 躍動だから誰でも思いつくのは運動部の練習シーン。もちろんそれも必要だけど、それだけじゃ単調すぎる。狭く考えちゃいけない。日常風景のなかにも躍動はあると考えるべき。そうよ、動の中にしか躍動がないなんて考えたらダメ。静の中にも躍動はあるはず。

 だから動だけで躍動を表現するより、動と静の躍動を対比させる構成にした方が効果的なはず。そうなると八枚の構成は・・・校内に何があって、どこに行けば何が撮れるかはわかってるのよ。ここまでどれだけ撮りまくったことか。ここら辺まで考えて野川君と尾崎さんにストーリーを説明。ここで野川君が、

 「わかった。カット割りは」
 「ロンドで」
 「複合三部作か」

 野川君も意図がわかってくれたみたいで、

 「Aをボクが撮る。Bは尾崎さん、CとDを小林さんで」

 後は撮影場所の相談をしたぐらいで豆狸が、

 「では撮影開始。十二時までにこのメモリー・カードでRAW画像を提出して下さい」

 撮影開始時に新品のメモリー・カードを渡されて、編集の時はコピーが渡される仕組み。見ると宗像君のチームも動き出したけど余裕が見える。あれは余裕だろうか、エミにはもう撮影が終わっている余裕に見えて仕方がないけど。

 「小林君、余計な事は考えない事にしよう。今までの努力の成果をぶつければ結果は付いてくる」

 二時間は夢中だった。このチームで組み写真を作り上げる練習を何百回やったことか。エミの構想を聞いただけで、野川君も、尾崎さんも撮るべきものは多くを語らなくともわかってくれてる。そうなるようにトレーニングを積み重ねてきたもの。それと時間は目一杯使う。これも麻吹先生に教えられた。

 『こういうシチュエーションでは思わぬショットがいつ拾えるかわからない。とにかく時間の許す限りシャッターを押し続けろ。偶然の一枚は努力からしか生まれない』

 最後の最後まで粘りに粘って、最後はダッシュで会場の講堂へ。見ると宗像君のチームはだいぶ前に撮り終えていた感じがする。メモリー・カードはコピーされてから渡されて、豆狸が、

 「これより編集に入ってもらう。十四時にここに提出のこと」

 そこから部室にダッシュ。ここもトレーニングを重ねてるから、それぞれが各パートに合う候補写真をまず選別。撮っている時に目星をつけているから、すぐにプリント・アウト。そこからは感性の作業。どの組み合わせがベストなのかをひたすら模索。ここも麻吹先生から、

 『組み写真は一枚ものと考え方が異なるところがある。単にベストショットの羅列では逆効果の時さえあるぐらいだ。あくまでも八枚を一枚と見るのを忘れるな』

 これもなぜかエミの担当になっちゃってる。麻吹先生はこうも言ってた。

 『組み写真には流れがある。とくにチームで撮る時には、各パートのハーモニーが大切だ。写真の音を聞け、単体でいくら良く見えても全体では不協和音になるものは不要だ』

 だいぶイイ感じだけど、尾崎さんのパートが弱い気がする。

 「尾崎さん、他のも見せて」

 急いで見て、

 「これと、これと、これ。それとトリミングもしないと」

 見つけたぞ。これならマッチするはず。でもこれを入れると野川君のパートに不協和音が、

 「野川君のも見せて」

 よし。これでイイんじゃない。時間がギリギリ。三人で講堂へダッシュ。講堂に入ると、

 「うぉぉぉ」
 「来たぞ」
 「写真部が来たぞ」

 いつまにやら満員の観客。壇上に駆け上がり豆狸に、

 「写真部の作品を提出します」

 やるだけのことはやったと思う。