セレネリアン・ミステリー:東京にて

 旅客機は成田に着いたのですが、いきなりあったのは記者会見。日本でもセレネリアン・ミステリーへの関心が高いのは良くわかりました。今回の最終目的地は神戸で、そこで月夜野社長と会う事ですが、そこまでに予備知識を一つでも仕入れたいところです。

 夜は東京のホテルに泊まったのですが、シンディ君の話を思い出していました。奇々怪々な話とはいえ、あれは実際に見聞きした人の実話と考えて良さそうです。まずわかるのは大昔に滅んだはずの古代エレギオンの言葉も文化も歴史も、クレイエールの小島元専務、エレギオンHDの立花元副社長、さらに小山前社長は十分すぎるほど知っていたとしか考えられません。

 さらに小山前社長も、立花元副社長も、月夜野社長もエラン語に堪能です。ここまで来ればわかりますが、夢前専務、霜鳥常務だけではなく。結崎前専務、香坂前常務もそうであったとして良いでしょう。そうそう、

 「港都大は第三次調査も成功してるけど、あの時にはエレギオンHDのトップは関与してないよね」
 「そう思うでしょう。でもあの時の支援はエレギオンHDよ」
 「でも小山前社長は参加していなかったはず」

 シンディ君は得意げに、

 「月夜野社長は港都大学院エレギオン学科で博士号を取られているの」
 「学生として参加していたとか」
 「そこは確認出来てないわ」

 これは理屈ではありませんが、

  小島元専務 → 立花元副社長 → 月夜野社長

 これは間違いなくつながっています。つながってると言っても赤の他人のはずですが、つながってるとしか言いようがありません。同じように、

  結崎前専務 → 夢前専務
  香坂前常務 → 霜鳥常務

 これもです。そして彼女らはすべて、古代エレギオン語もエラン語も読み書き出来るだけでなく会話も可能として良いでしょう。どうしてと言われると説明不能ですが、そうであるとしか言いようがありません。

 ここをさらに進めると、古代エレギオンとエランにはなんらかのつながりがあり、さらに現代のエレギオンHDともつながってるの考え方が出てきます。これはエラン船事件に大きく関与した小山前社長がエラン人の医療データを完全に伏せてしまった事とも連動するはずです。

 ただこれらは仮説。他人が聞いたら妄想と片付けられそうなぐらいに根拠がありません。そこでシンディ君とも相談したのですが、港都大のエレギオン発掘調査隊の参加者に話を聞いてみる方針にしました。

 シンディ君は優秀な物理学者ではありますが、秘書的な才能も豊富なようで、その手配に奔走してくれています。この辺は悔しいですが日本語がサッパリわからないので頼るしかありません。

 アメリカ大使館の協力も得て、二日後には何人かの元発掘隊員と話が出来るセッティングまで漕ぎ着けられています。シンディ君は、

 「レイの疑問のヒントの一つがこれよ」

 シンディ君が積み上げたのは三十冊にもなるコミックス。

 「マンガじゃないか」
 「そうだよ。これを手に入れるために日本に来たようなもの。アメリカじゃ無理なのよ」

 シンディ君が日本語を覚えた動機の一つのようで、

 「ホームステイした時に、このコミックスが原作のアニメが再放送されててね。かじりついて見てのだけど、日本語じゃない。どうしてもわからないところが多くて・・・」

 原作となるコミックスもあるのも聞いたそうですが、全部買うには予算が足りなかったそうですが、

 「アンダーウッドの一族のお嬢様だろ」
 「カネ持ちはケチなのよ」

 泣く泣く買うのをあきらめたそうです。

 「レイにも買って来たよ。よくあったと思ったわ」

 そのアニメには原作コミックスもあるのですが、さらなる原作があるそうで、

 「この話の大元は古代エレギオンに残されていた大叙事詩。それを長年の研究の末に解明したのが港都大の柴川前教授。英訳本もあるって話だったから探してみたらなんとか手に入ったわ」
 「柴川前教授は生きておられるのか」
 「そう言うと思ってたからアポも取っておいたよ。相川名誉教授も御健在だったからセットで話を聞けるかもよ」

 これは手回しがよいこと。

 「どう、連れてきて良かったでしょ」
 「痛感してる」
 「喜んでもらえて幸いです」

 翌日は東京在住の元発掘隊員の話を聞いたのですが、第一次調査隊となると六十六年前で、第二次調査でも五十六年前です。残念ながら小島元専務時代の話は聞けませんでしたが、まずわかったのが立花元副社長への敬意が尋常なものでない事です。口をそろえて、

 「あれこそ真のエレギオンの女神」

 第三次は十九年前でしたが、まず月夜野社長が大学院生として参加していたのは確認出来ました。

 「月夜野君の参加を知った時に、我らエレギオン学徒は歓呼の叫びを上げたものです」
 「でも月夜野社長の参加は事前にわかっていたはずですが」
 「わかりにくいですよね。あの月夜野君がそうだと知って、この調査は大成功を収めると確信したってことです」

 東京での取材を終えて神戸にリニア新幹線で移動となりましたが、

 「ベル、エレギオン学は通常の学問とは違う気がする」
 「レイもそう思うでしょ」

 エレギオン学の神髄とは何かと聞いたのですが、

 『永遠の女神を信じること』

 これが考古学の研究者の言葉とは思えません。

 「永遠の女神って柴川前教授の本に書いてあった五人の女神のことだよな」
 「他に居ないと思うわ」
 「あとがきに女神は二千年の時を越えて今も生きるとあったけど」
 「そう考えれば、説明が付く部分が多いと思わない」

 エレギオンの女神は魂として存在し人に宿るとなっています。宿った人間には寿命がありますが、女神の魂は次の人に移って行き永遠の生命と記憶を受け継ぐとなっているのです。

 「もしそうだったらエレギオンHDのトップ人事の説明は可能だけど、そんなものどうやって信じろというのだよ」
 「信じる者は救われるよ。それとだよ、物理学だって先に現象があって、これを説明するために理論が構築されるじゃない」

 物理学と一緒にするのはどうかと思いましたが、

 「不可解な事実をつなぎ合わせようとした時に、従来の手法では無理があれば、新しい手法を見つけるのが科学でしょ。そこで従来の手法では説明できないから『あり得ない』としたら進歩はないのよ」
 「それはボクだってよく知っているが、いくらなんでも」
 「いくらなんでもで立ち止まってたら真実は見えないわ」

 マリーCEOはシンディ君にこうも言ったらしい、

 『エレギオンHDに勤められる人材はまさに精鋭部隊。あれこそエリート中のエリートだよ。そんなエリートに君臨するのが四女神。そんなエリートたちを余裕で顎で使いこなせるぐらいの超人だよ』

 さらに、

 『内部はね、謎に満ち溢れている。知りたいのなら覚悟してお行きなさい。私はあの中で過ごせた時間が青春だよ』

 やはり何かがある。エレギオン、エラン、さらにはセレネリアン。ボクの抱えている謎の答えがきっとある。