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『甲陵倶楽部附属馬術会長杯障害馬術大会』
長ったらしい名前だな。
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「ここですねアカネ先生」
「そうだよ」
ここも久しぶり。最後に来たのはツバサ先生の乗馬を見に来た時だっけ。タケシを馬場に案内しながら、
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「アカネ先生、噂には聞いていましたが立派ですね」
「まあね、古いから」
タケシの写真は迷走したままだった。あれこれと方向性を探る努力をしていたのはわかるけど、ついにつかんでない気がする。あれは方向性じゃないんだけど、迷いだしたら、ああなるんだよね。
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「タケシ、ここからは別行動でね。それと最後のアドバイスをしとくね。自分の撮りたいものを撮るんだよ。それがカギなの」
タケシも馬場の周囲を熱心に見て回ってる。今のタケシには何が見えてるんだろう。なにを頭に描いてるんだろう。とにかく一発勝負、頑張って。大会会長の挨拶があったんだけど、コースが変更だって。この大会もツバサ先生と見に来たことがあるけど、馬場と森の周回路のミックスで行われるはずだけど、
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「・・・今回は外部からの招待選手がおられ、より公平を期すために馬場での障害馬術のみに変更します」
観客は会員と招待選手の関係者だけだけど、さすがセレブの会で、みんな着込んで来てるよ。日本の大会と言うよりイギリスの大会みたいな雰囲気だな。飲んでるものだって、紙コップにビールじゃなくて、グラスにシャンパンだもの。そのぶん、クライアントとしてはウルサ型だけど。
まずは予選みたいなタイムトライアル。しっかし、よくこんなところにシノブさんたちは勝てたもんだよ、
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『神崎愛梨選手、甲陵倶楽部所属、馬はメイウインド』
甲陵倶楽部が終わると次は外部招待選手だけど、馬の差だけでも歴然だよな。あれじゃ、勝負にならないよ。なんのために招待したのかわからないぐらいだもんな。
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『結崎忍選手、北六甲クラブ所属、馬はテンペート』
ここで昼休憩。タケシと一緒にお弁当。アカネは会員だからクラブハウスのレストランも使えるんだけど、あそこはドレスコードとかにうるさいからお弁当にした。
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「どうですかアカネ先生」
「さすがはタケシね、すっごく美味しいよ」
へへへ、お弁当はタケシに作ってもらった。これもアカネが作るって言ったら、
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『アカネ、撮影は午後もある』
『トーナメント制の二回戦から決勝までですね』
『だからアカネが作るな。食った奴が七転八倒する』
そこまで信用してないかと思ったけど、
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『文句があるなら、前科を並べようか』
結構です。だからタケシに作ってもらった。
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「どうタケシ、思い通りに撮れてる」
「はい、バッチリです」
あれっ、タケシの顔が吹っ切れてる気がする。これはもしかして、最後の最後に何かつかんだのかもしれない。そうよタケシはアカネが見込んだ弟子だもの、きっとやってくれる。
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「それにしてもシノブさん凄いですね」
「あれぐらいはやると思ってた」
だってだよシノブさんは四座の女神なんだよ。アングマール戦では軍事教練担当もやってたはずなんだよ。その中に騎馬隊の養成が入ってるはずだもの。
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「これは決勝が見ものですね」
「見とれてないで、しっかり撮ってね」
そうそうこの大会の特徴はトーナメント戦重視なんだけど、甲陵倶楽部ではデュエロと呼んでるんだ。一対一のタイマンって意味だけど、出走前には同席するし、選手同士も話もするんだよね。
ツバサ先生に聞いたんだけど、その時にお互いが賭けることもあるんだって。名誉とか、なにか大事なものを。最近ではそこまでないらしいけど、かつては名誉のために家屋敷まで賭けてたらしい。
決勝の先攻は神崎愛梨とメイウインド。目を剥いたよ。準決勝までの走りとは別物。ワールド・クラスの走りってあれほどのものかと感嘆させられた。あれこそ人馬一体そのものとしか見えなかった。
後攻のシノブさんも凄かった。神崎愛梨を華麗とすれば、シノブさんは豪快そのもの。アカネも仕事だけど、ファインダー越しだけど見とれそうになったもの。やっぱりシノブさんに勝って欲しいし。勝ったのはどっち。
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『三五・六六秒』
えっ、まさかの同タイム。審判長が出てきて、
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『同点、同タイムにより十分後にジャンプ・オフを行う』
延長戦になっちゃったよ。なにやら二人が話してる。そうしたら神崎愛梨が審判長のところに行ってなにか告げてる。
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『ジャンプ・オフは対戦者がこれをデュエロとしており、両者の合意により森のコースを含むものに変更します』
なんちゅう速さ。あれって全速力に近いんじゃない。あっと言う間に見えなくなっちゃった。あれが障害馬術の走りなの。森の周回コースはあきらめた。あんなもの追いかけられるものじゃないし。
シノブさんの様子は会場の大型ビジョンでわかるけど、もうすぐ帰ってくる。あれ? 神崎愛梨が馬に乗って出てきた。シノブさんがゴールラインを駆け抜けると神崎愛梨は降りちゃった。あれはどういうこと。
どうも神崎愛梨は走らないみたい。ということはシノブさんの勝利。やったぁ、すごいすごい。表彰式にはドデカイ金杯が出てきた。あれを授与されるんだな・・・
これは興奮ものだったよ。こんなに面白いものだとは思わなかったもの。ただ仕事は仕事。帰ってチェックをやらなきゃ。
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「タケシ、撮れたか」
「はい、自信作です」
「言ったな」