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「その後はどうなの」
「それが・・・」
ただアカネのアシスタントの消耗ぶりが気になったのだ。誰もがゲッソリって感じだったのだよ。つかまえて聞いてみると、
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『またアカネがムチャして飛ばしたのか』
『いえ、そうじゃなくて・・・』
アカネの笑顔は仕事場だけでなく、オフィスからも消え、アカネの前では声一つ上げるのも躊躇われるぐらいになっていったのだよ。それでも仕事は続けるし、仕事の質も落ちない。ただしこれに付きあうスタッフの方が悲鳴をあげていた。
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『ツバサ先生、あれでは・・・』
わたしが声をかけても、あの快活なアカネはどこにもおらず、わたしでさえたじろぐ鋭い目で一瞥を投げかけて終りなのだ。
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「そこまで」
「ショックなのはわかるが、まさかあんな反応になるとは。やはりアカネは普通の反応はしないな」
そしたらコトリちゃんが、
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「ちゃうと思うで、アカネさんは物凄い芯の強い人なんや。タケシさんが懸けてたフォトグラファーの仕事を辞めたらあかんと思ってるだけやと思う」
かもしれない。とにかく頑固な奴だが、思い込んだらどんな障害が前に立ち塞がっても、これをぶち壊して驀進するのがアカネだ。誤解されやすいところもあるが、あれほど強い女はそうそういないかもしれない。
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「とにかくアカネがいるだけでオフィスが暗くて、重くて、困ってるのはあるのだ」
「そうだろうね。ちょっと前のシノブちゃんがそうだったもの」
こればっかりは時間がかかるのはわかってるにしろ、
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「アカネは失恋のショックに耐えてるんだろうな」
「ちゃうかもしれへんで、待ってるんちゃうやろか」
「タケシをか」
「そうや、もう一度戻ってきて、プロポーズされる日を」
タケシの行方も杳としてわからないのだ。シノブちゃんに頼んで大学時代の知り合い関係まで探してもらったたが、誰も接触したものはいないのだよ。実家にも問い合わせてくれたが、幾何かの荷物が宅配便で届いただけで連絡はなし。家族も心配されてたよ。まさかってことはないとは思っているが。
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「持って来てくれた?」
「ああ」
タケシが最後に撮った写真。
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「こ、これは、なんてストレートな」
「ここまで写真って撮れるものなの」
こればっかりはわたしも驚かされた。タケシは課題の馬術大会の写真では答えは出せなかったで良い。苦悩の果てにタケシが見出した答えは、
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『自分の撮りたい世界を撮る』
口で言うのは簡単だが、これを写真で表現するのは容易じゃない。わたしとて、ここまで撮れるかと言われれば正直なところ自信がないぐらいだ。ここまで来ればテクニックではない。魂を写真に乗り移させたと言うべきだと思うよ。
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「ここまで撮れればプロとして認められるんじゃない」
タケシのこの写真は職を懸けてのものじゃない、職を犠牲にして撮ったものだ。わたしはタケシに課題を与えるにあたって、思いつく限りの重圧を掛けたが、タケシはさらに強烈な重圧を自分にかけて撮ったものになる。
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「つまり次が見たい」
「当然だ。だから最後のステップに個展がある」
「でもいない」
相談さえしてくれたら許可するさ。こんな仕事一本より、弟子が成長する方が百倍大事じゃないか。なのに、なのに、どうしてなのだ。
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「やっぱり届かぬ愛と思ったのかしら」
「結果的にはそう見るしかないが・・・」
アカネのバカ野郎。どうして気づかなかったのだよ。お前がホンの少し振り向いてあげてたら、タケシは、タケシは・・・
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「シノブちゃん、その後になにか情報はあった」
「それがなんとも。エレギオンの調査部と言っても警察じゃないですからね」
「まあ、そうやねんけど」
シノブちゃんはああ言うが感謝してるのだ。たとえ警察に失踪届を出しても、事実上何もしてくれないし、興信所如きじゃなにもわからなかったに等しいよ。たしかに手がかりはゼロだけど、これだけ探してもゼロとわかったもの。
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「待つしかないね」
「そやな、こうなると女神も無力やわ」
今回ばっかりは女神の無力さを思い知らされた。あそこまでわかっていたのに、二人の恋を結ばせることが出来なかったのだよ。どうしてあの時にもっと強引に二人を結びつけなかったのだろう。チャンスはいくらでもあったのに。これはわたしのミスだ、それも重大過ぎる責任問題だ。
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「シオリちゃん、あんまり抱え込んだら良くないで。男女の仲なんて、結ばれるもんなら、どんな障害があっても結ばれるし、どんなに周囲がお膳立てしてもダメなものはダメやんか」
「そうだが」
「まだ終わった訳やない。次のラウンドは必ずあるって。アカネさんにもそう言ったんやろ」