アカネ奮戦記:衝撃の夜

 夕方にオフィスに帰るとタケシは、

    「ちょっとお手洗に行ってきます。先に見といて下さい」

 メモリー・カードを渡されたけど、やっぱり一緒に見たいじゃない。とりあえずアカネのを見ておこう。どれどれ。だいたい思った通りに仕上がってる。そこにツバサ先生も顔を出して、

    「どうだったアカネ」
    「タケシもバッチリみたいでしたよ」

 ツバサ先生もタケシが戻って来てから見ようと言うことで、とりあえずアカネの分をチェック。

    「これでタケシがダメでも問題ないな」
    「いやタケシはやってくれてます。イイ顔してましたよ」
    「そうか、なら期待できるかも。写真見たらメシ食いに行こう」

 ところが待てど暮らせどタケシが帰って来ないんだよ。

    「トイレにしたら長すぎるぞ。アカネ、まさか弁当作ってタケシに食べさせたとか」
    「そんなことしてませんよ。ちゃんとタケシが作ったのを食べてます」
 ツバサ先生は同じものを食べてもアカネなら平気だが、タケシは耐えられなかったかもって言いだすんだよ。失礼にも程があるよ。アカネだって食中毒で一度入院してるんだぞ。もっとも、アカネだけ無事だった前科も三回ぐらいあるから言い返せなかった。

 そこはともかく、もし食あたりで、これだけトイレから出て来れないのだったら余程重症かもって話になって、男性スタッフと一緒にトイレに行ったんだよ。さすがに入りにくいし。そしたら、

    「中にはいません」

 どうなってるんだってことになって、他のスタッフに聞いて回ったら、タケシがオフィスを出て行くときに会ったって者がいたんだけど、

    「どこ行くんだって聞いたら、今日は甲陵の写真の編集で遅くなりそうだからコンビニ行ってなにか食べ物を買って来るって」
 そんな話は聞いてないんだよ。それならそれで、そう言うはずだし。なにか嫌な予感がして、ツバサ先生とタケシのデスクに行ったんだ。タケシはデスク周りをキチンと片付けるタイプだけど、机の上にあったのは甲陵の馬術大会のパンフレットだけ。

 いくらなんでも片付き過ぎだろうと引き出し開けてみたら、スッカラカン。なんにも入ってないんだよ。

    「こ、これはどういうことだ」
    「なんにも残ってないじゃない」

 そう綺麗サッパリ片付けられて、なにも残ってないのよ。

    「ツバサ先生、警察に」
    「待て。別に誘拐されたわけじゃない」
    「だけど・・・」

 慌てるアカネを宥めたツバサ先生は、

    「タケシの写真を見てみよう。そこにヒントがあるはずだ」

 そうだタケシはわざわざメモリー・カードだけ残して行ったんだ。そこに何かメッセージがあるはず。二人が急いでPCにアップすると、

    「こ、これは・・・」

 アカネはヘタヘタと座り込み、ツバサ先生は茫然としてしまいました。しばらくしてから、

    「ツバサ先生、これがタケシのメッセージ・・・」

 ツバサ先生も、

    「これがタケシの世界だ・・・」

 そこに写っているのはすべてアカネ。タケシは馬術大会でなくアカネを撮ってたんだよ。ツバサ先生はポツリと。

    「良く撮れてるな」

 写真から溢れだすのは愛の奔流、いや激流。なんの衒いもなく、それだけを主題に撮ったもの。なぜかアカネの目から止め処もなく涙が、

    「ツバサ先生、タケシは、タケシは・・・」
    「これは仕事じゃない。タケシの撮りたい世界を撮ったものだ。タケシはが悩み抜いた末に出した答えだろう」
    「だからと言って消えなくても」
    「プロとして責任を取ったんだろうな。仕事を台無しにした責任を」

 部屋から出て行こうとするアカネの腕をツバサ先生はつかまえて、

    「どこに行く」
    「タケシを探しに」

 ツバサ先生の目にも涙が、

    「追うのか」
    「もちろんです」
 ツバサ先生の手が離れた。商店街のコンビニ、居酒屋、串カツ屋、他にも立ち寄りそうなところを片っ端から聞いて回ったけど誰もタケシの姿を見た者がいないんだ。スマホで他の弟子にタケシの行方を聞いても朝に顔合わせただけで後は知らないって言うんだよ。

 もうアカネは心配で、心配でタケシの下宿にも行ったんだ。行ったら電気も付いてないし、ドアを叩いて呼んでみても反応なし。そしたら隣の人が顔を出してくれて、

    「青島さんなら引っ越しましたよ」

 もう何が起ってるかわからず混乱状態。あちこち走り回った末にフラフラになってオフィスに戻ると、ツバサ先生は待っててくれて、

    「行方は」
    「わかりません」

 もう目の前が真っ暗になり、そのままツバサ先生の胸の中に。しっかりと抱きしめてくれたツバサ先生は、

    「アカネ、終わったんじゃないぞ」
 アカネは見つけた、世界一大切なものを。