流星セレナーデ:推理は巡る

    「最後の反乱の真相は」
    「アラの言葉を信じれば人類破滅兵器が使用されたことが周知されてしまったことかな」
    「コトリもそう思う。エランでも変な宗教団体はおったんやと思う」

 ミサキの頭の中には地下鉄サリン事件が思い出されています。

    「たぶんやけど、これもアラが打ち出したんやと思ってる。エラン人類の滅亡を防ぐには、エランを脱出する以外にないって」
    「だから長距離宇宙旅行技術の復活を」
    「地球でならエラン人は普通に生きられるからな」
    「ではなぜ最後の反乱が」
    「ユッキー、コトリの分もお願い。それとなにかおつまみも」
    「ミサキちゃんもお代わりいる」
 ユッキー社長がキッチンから戻ってきて、
    「アラの乗ってきた宇宙船は一号機で良いと思う。これに引き続いて二号機以下が作られていたのを革命政府が引き継いだのでしょ。それがあの十隻」
    「じゃあ、もっと量産すれば」
    「アラの言葉が正しいとすれば、あれで目一杯の可能性があるわ」

 そういえば十隻分の資材があったとアラはしていたわ。

    「それでは何度も往復すれば」
    「そこまで機体が耐えられるかの問題と、これもアラの話になるが燃料問題が出てくるわ」
    「だからシリコンで意識分離を」
    「そう、それなら次に来た時にエランからの移住は完了するし、その時には再離陸用の燃料も不要になるってところかな」

 そこまで移住用の宇宙船の数が少なければ、

    「乗れる人が限られるなら、奪い合いになる」
    「それが最後の反乱の引き金になった」
    「だいたいそんな感じじゃない」

 ここでコトリ社長がグイッとビールを飲み干し、

    「この辺もわからないところが残ってるけど、アラの計画はエランの技術を地球に移し、地球から宇宙船を迎えに寄越すだった気がしてる」
    「ではアラの目的は地球侵略」
    「とは限らないと思う。地球の兵器は遅れてるかもしれないけど、地上戦となれば核兵器は使われるじゃない。そうなると産業の復旧に時間がかかり、エランに送れる宇宙船の建造がいつになるかわからないようになっちゃうからね」

 地球だって異星人の侵略となれば核兵器を持ちだしてもおかしくないものね。

    「そこで誰かが着目したのが意識分離技術と意識移動技術。かつての星流しの手法ね」
    「それを使えば大量移動が可能になります」
    「でもその技術をアラは渡すことを拒否した。エラン中が反アラになり、地球に亡命するしかなかったぐらい」

 そうなると、

    「今回の宇宙船団の目的は?」
    「大人数の意識分離を可能にするシリコンで良いんじゃない。意識分離をやらないと今度は革命政府が潰されるよ」

 それだったら、

    「ではエラン代表が社長や副社長に会ったのは」
    「地球の神を確認したかったからじゃない」
    「それって」
    「エラン人も知っていたとする方が良いわ。神は神にしか殺せない。逆に言えば神は神に殺されるって」
    「ではなぜヴァチカンのユダではなく神戸を選んだのですか」
    「複数の神が共存してたからじゃない」
 宇宙船団があれだけ地球調査に時間をかけていたのは、やはりアラを探していたんだ。アラが地球で生き残っていたら、今度はエランからの新たな神が脅威にさらされるからと考えたで良さそう。アラは自分を追放したエラン人に報復すると見るのが自然だものね。それだけじゃない、エランの探査装置はアラを見つけていた可能性がある。

 その調査の過程で見つかったのが地球の強力な神の存在。アラが見つかるのなら、ミサキやシノブ専務も当然わかるはずです。そうか、あれだけの調査期間をかけたのは、神がこれだけ近接して存在すれば殺し合いになるはずだと予想したからかもしれないわ。

 それがいつまで経っても変わらず存在するので、これを実際に見て確認する必要があると判断したんだ。たとえばアラが神戸の強力な神を従えて、エランへの復讐を狙ってるとも考えられるものね。逆に地球の神は平穏でアラもそこに馴染んでいるも考えたかもしれない。とにかく地球周回軌道上から情報収集では、これ以上の判断は付かなかったんだ。

    「だから社長は最初の会見の時」
    「そうよ、地球では神が神を殺すのはごく普通の事って釘刺しといたの」
    「コトリ、あっちはどう思う」
    「今はそうなってるで良いやろ。アラも来たし、アラからの間隔を考えてもそうしか考えられへん」
    「そうよね」

 これは時空トンネルの位置問題、つまりはエランとの往復時間になります。たしか片道二年としてたから、次に来るとしたら早くて五年ぐらいかも。

    「どうなるのですか」
    「どうにもならへんやんか」
    「たとえばシリコンの引き渡しを拒否するとか」
    「砂漠の砂やで、勝手に持って帰るやろ」

 そりゃ、そうだ。広大な砂漠に地上軍を展開して妨害するのは非現実的だものね。

    「ではせめて放射性廃棄物の引き渡しを拒否するとか」
    「それでもエランに帰って、もう一回片道で地球に来るぐらいの燃料はあるやろ」

 そうよね、地球からの燃料補給をアテにしての片道航海はしないだろうし。

    「とにかく、わたしたちでは今の段階ではどうしようもないってこと」
 そんなぁ。エランの神を食い止める方法はないの?