宇宙をかけた恋:穏やかな日々

 ミサキもシノブ専務も翌春に復学。なんとも珍妙な状態で、エレギオンHDは休職で大学生です。そのために二十歳の大学生がエレギオンHDの常務であり、前地球全権副代表ですから、やりにくいったらありゃしないです。

 それでもユッキー社長やコトリ副社長の予想通り、人の関心が移るのは早く、一年もすれば普通の女子大生ライフを楽しめるようになりました。もちろん目標にしていたフランス語はバッチリです。フランス語学留学の時にはルナのところにお世話になりました。ルナも引退されて悠々自適の生活でしたが、フランス語には厳しかったなぁ。

 シオリさんご夫妻のところにもお子様が生まれました。お祝いにも行ったのですが、とってもお幸せそうでした。加納先生時代は子どもが出来なかったのを大変悔やんでおられたので、二代分の愛情を注ぐんだと張り切っておられます。

 マドカさんも御結婚されました。こちらもお子様が出来たのですが、ユッキー社長やコトリ副社長は本当にホッとした顔をされていました。シオリさんもです。そりゃ、あれだけ複雑な生い立ちですから、このまま幸せになって頂きたいと思っています。

 アカネさんは、まだ独身。でも仕事は順調で、今や押しも押されぬ大巨匠として良いでしょう。世界のどこに行かれても、

    『渋茶のアカネ』

 これだけでVIP待遇です。もっとも渋茶と呼ばれるのは今でも好きでないようで、

    「どうして、どうして、どうして、アカネの『渋茶』は取れてくれないの」

 それだけでなく、

    「どうして、どうして、どうして、アカネにはまともな男が寄って来ないのよ」
 あれだけ仕事が忙しくては男を作るヒマもなさそうですが、それよりアカネさんに合う男を探すのが大変そうです。イイ人なのですが、普通に話すだけで、どこに話が暴走するか予想不明のビックリ・キャラです。コトリ副社長でさえ上回りそう。

 ミサキもシノブ専務も一年遅れで大学卒業。院での勉強も勧められましたが、エレギオンHDに復職しています。そう、また四人で三十階暮らしです。外からは四姉妹の共同生活にも見えそうですが、実態はちょっと違います。

 そうですね、ユッキー社長とコトリ副社長が両親でミサキとシノブ専務が娘みたいな感じ、アット・ホームそのものに感じています。

 別人となってしまいしたが、サラとケイの様子もこっそり見てきました。サラにもケイにも孫が出来ていまして、可愛いったらありゃしない。名乗り出そうになるのを押さえるのが大変でした。でも今は香坂岬ではなく霜鳥梢。これだけは寂しい思いをしています。シノブ専務も同じようなことを言ってました。

    「コトリ、シオリちゃんのところの二人目のお祝いどうする」
    「そやな、前は・・・」

 シオリさんはミサキが復職した年にお二人目ができています。どこもお幸せそうで、エランの宇宙船騒動があったことがウソのようです。ところが、

    「ユッキー社長、もう来ることないでしょうね」
    「順調ならばね」
    「でも宇宙船はもう」
    「無いとは限らないよ。少なく二隻は残ってる可能性があるじゃない」

 そうだけど。

    「でもまたリスクを冒してわざわざ地球に来る目的なんてあるでしょうか」
    「そりゃ、ミサキちゃんを迎えに来るんじゃない」
    「それだったら、社長の方が」

 そっちだったら話は平和なのですが、

    「ジュシュルはあえて伏せてたけど、地球との往復で五年ぐらい留守にしてるじゃない。帰ってみたらどうなってるかだよ」
    「まさか、また内乱」
    「あっても不思議ないよ」

 ジュシュルは自分のことを総統としてたけど、独裁者的な政治構造なら、独裁者が不在であれば崩れる可能性は確かにあります。

    「あれは、ちょっと不思議だったのですが、ジュシュルが本当に総統だったら、どうして本人が来たのでしょう」
    「それはジュシュルが来なければならない理由があったとしか、言いようがないわ。平凡だけど、それほど地球への航海のリスクが高かったで良いと考えてる。ジュシュルが先頭切って乗り込まないと誰も行きたがらなかったぐらいかな」

 そう考えるのか。そうなると、三十九年前の帰路での遭難事故の信憑性は高くなる。

    「宇宙船の耐久性は」
    「あれもほぼ正しいとして良いよ。アラも荒業って言ってたし」
    「じゃあ、もうエランに宇宙船はないのでは」
    「修理ぐらい出来るだろうし、不完全でも必要となれば使うでしょ」

 そこまでのリスクを負っての地球行きを決行しなければならない状況となれば、

    「近いうち、そうだね、これから三年以内に来るような事があれば、エランでは大変な事態が起ったと見て良いわ。早いほど事態は良くないわ」
    「その時も女神の仕事が」

 ユッキー社長は悲しげな表情を浮かべて、

    「ジュシュルは本物だよ。あれは神になって能力が上がったのではなく、人としての能力が非常に優れていたで良いと思う。あれほどのリーダーを得ながらも建て直せなかったら、エランの命運も尽きたとしか言いようがないよ。そうなった時に、せめて地球への航海が無事であることを祈ってる」
    「来たらどうします」
    「決まってるじゃない、ジュシュルは首座の女神の男だよ。これを守るためなら世界中を相手にしても戦うわ。ミサキちゃんもディスカルが来たらそうするでしょ」
 ディスカルが来たのなら言うまでもありません。ミサキが必ず守り抜いてみせます。ディスカルは三座の女神が認めた男。指一本たりとも触れさせたりするものですか。