流星セレナーデ:総理との会談

 クレイエール本社はポートアイランドにあるのですが、宇宙船の着陸日が迫るにつれてエライことになってます。それこそ世界中のジャーナリストが神戸に押し寄せて来てる感じです。ジャーナリストだけではなく宇宙船見物のために数えきれない人々が押し寄せて来ています。

 政府はポートアイランド全体を立ち入り禁止地域にしたかったみたいですが、住民もおり、企業活動、港湾活動の重要地域ですから断念し、空港島とその対岸地域のみ立ち入り禁止地域にしています。

 政府はポートピアホテルを借り上げて拠点としており、そこには政府首脳や有力国会議員のみならず。国連事務総長や有力国の外相クラスが代表として集まっています。集まった各国代表は国際会議場での会議を行ったり、個別会談を行ったりしているのが連日報道されています。

 ポートピア博覧会並というかそれ以上の賑わいになっており、昼食を取るのも大変になっています。クレイエールには社員食堂だけでなく、三十三階、三十二階にレストラン街もありますが、連日のように外から人が押し寄せてきて、常に満員状態です。ミサキは、

    「せめて社員食堂だけでも社員専用にすべきでは」

 こう提案したのですが、コトリ副社長は、

    「まあ一時のことやから我慢しとこ」
 つうか系列のレストランや飲食店に指示を下し、駐車場に屋台村まで作らせています。ここも大繁盛で、押すな押すな状態です。こんな時まで儲けるかと思ったぐらいです。そんな騒ぎの中で下山総理が会いたいとの打診がありました。ただ、ホテルに出向くにしても、クレイエールに来てもらうにしても大騒ぎになりそうだったので、例の料亭で密談ということになりました。

 下山総理は彗星騒ぎの時からの政権を担当しています。彗星騒ぎの時も失言問題で危ない時期があったのですが、あの時点で総選挙を行うのはさすがに非常識だと延命し、彗星衝突が大したことがなく終わり、その反動で景気が良くなったので支持率が持ち直し、今に至るってところです。

 ただ宇宙船団が地球周回軌道を回り始めてからの不況の責任問題をかなり追及されており、これを彗星騒ぎの時同様に、

    『非常事態だから総選挙は控える』
 これで保っているぐらいに見えます。でも同情はしています。彗星騒ぎにしろ、宇宙船団騒ぎにしろ、地震や台風以上の天災で、対策の取りようのないものだからです。結果としてこの二つの騒ぎで政権が延命しているとは言えますが、一方で対策の最高責任者としては御苦労様ってところでしょうか。

 料亭での会談は深夜も回ってからのものになっています。そうでもしないと、ホテルから総理が抜け出して来られないからのようです。クレイエールの出席者は社長と副社長とミサキの三人、総理は前にクレイエールに来た斎藤補佐官ともう一人です。SPもいますが室外に待機です。挨拶が交わされた後に総理から、

    「クレイエールの今回の協力に感謝する」

 話は宇宙船の代表者との会談形式の打ち合わせです。ユッキー社長は、

    「向こうは、どう言われているのですか」

 これについては斎藤補佐官が答え、

    「異星人は地球で呼吸が出来るとしており、外見も地球人とほぼ同じとしている。着陸後に空港ビル内で会談したいとの希望だ」
    「コミュニケーションはどうでしょうか」
    「うむ、地球を周回しているうちに我々の言語を収拾し、かなりのレベルで自動通訳化が可能になっているとしている」
    「会談の形式はどうなっていますか」
    「地球方式のテーブルを挟んだもので良いとしているので、それに合わせて準備を進めている」
    「会談の具体的内容は」

 ここで総理が口を挟み、

    「よくわからないのだ。とくにわからないのが、小山社長、立花副社長を名指しで指名してきた点だ。これは、ここだけの話にして欲しいのだが、異星人の要求は総理の私ではなく、小山社長と、立花副社長と話がしたいみたいなのだ」
    「それで、どうされました」
    「向こうの自動通訳機の精度がイマイチなのか、そういうコミュニケーションを取る文化なのかの判断が付かないが、どうにも話が通じにくいところがある。そこでやむなく、相手の要求を受け入れる決断を行った」

 斎藤補佐官が後を受ける形で、表向きはユッキー社長も、コトリ副社長も非公式で参加してもらうとしています。具体的には着陸日の前日に空港ビルに移動し待機し、総理一行は当日にホテルから移動して合流するとしています。

    「会談は報道陣に公開なのですか?」
    「それは検討の末、しない事にした。どんな不測の事態が発生するかわからないからだ。これについては各国の代表にも了承をもらっている」

 ここでユッキー社長は、

    「現段階でわかっていることをもう少し教えてもらえませんか。これではわたしが何を話したらよいか、何を話したら悪いのか見当も付きません」

 総理は少し考えてから、

    「小山社長が言いたいことはわかる。これほど重要な会談に予備知識なしで、それも民間人に出席してもらうのは無理がある」

 斎藤補佐官は、

    「これは絶対口外無用にして欲しい。先の彗星騒ぎだが、あれは彗星でなく宇宙船だった。今回の宇宙船団の着陸に際し、アメリカがやっと教えてくれたことだ」
    「その宇宙船に関してわかっていることがありますか」 「アメリカからの情報では、宇宙船であった以上は、ほとんでわからないに等しいとしている。どこから来たのか、何人乗っていたのか、どういうシステムで飛んでいたのか。アメリカも隠してる情報はあると思うが、墜落時点でバラバラだったのは間違いなく、アメリカとてさほどの情報を持っているとは思えないところがある」
    「それで」
    「我々にしても情けないと思うのだが、先の宇宙船墜落と関連している可能性があるぐらいしか事前情報がないのだ」
    「同じ星から来た宇宙船でしょうか?」
    「これもアメリカからの情報提供だが、同じ技術系統で作られている可能性はあるとはしていた」
    「これだけの情報で会談に臨めとの事ですね」

 下山総理が、

    「その点では申し訳ないと思っている。ただ会談がどんなものになろうとも責任は総理である私がすべて取る。だから君たちの参加は非公開で非公式にしている。後の細かい打ち合わせは斎藤補佐官が担当となる」

 こう言って下山総理はホテルに帰られました。斎藤補佐官は宇宙船着陸の前日の移動の手続きや、会談当日の動きを説明し、

    「・・・こういう段取りにはしてあるが、会談でなにが起るかは予測不可能だ。後はその時、その場の臨機応変にならざるを得ないと思ってくれたまえ。必要があれば、こちらから連絡する」

 斎藤補佐官もホテルに帰った後にミサキは、

    「エランなら自動通訳は容易そうな気がするのですが」
    「それはアラの言葉が正しかったって事じゃないかな。エランでの言語は統一されてたって言ってたじゃない」
    「そう言ってましたね」
    「言語が一つなら通訳の必要がなくなるから、技術が退化したんでしょ」

 言われてみれば、

    「それとユッキーと相談しとってんけど、ミサキちゃんにも来てもらうことにした」
    「えっ、ミサキもですか」
    「そう、女神の秘書は三座の女神のお仕事だからね」
 そりゃ、見てみたいけど、やっぱり怖い。連れ去られて宇宙旅行もイヤだ。ましてやエランの男とアレするのもやだ。