流星セレナーデ:小惑星群接近

 彗星騒ぎの記憶も生々しいのに新たに飛び込んできたのが、

    『小惑星群が地球に接近する』

 地球から観測される小惑星はかなりの精度で観測されているはずですが、突如という感じで出現したと報じられています。それも出現位置も地球接近コースも前回の彗星と非常によく似ているとされます。さらにその数も複数で、同じような大きさの小惑星が十個ぐらいの集団になっている可能性があるとされています。

    「社長、これってもしかしてフィルが言っていた・・・」
    「ミサキちゃん、料亭の予約しておいて。それとフィルも呼んどいてね」

 ユッキー社長の顔に緊張感が見られます。これほど緊張した社長の顔を見るのは初めかもしれません。コトリ副社長に料亭での密談を伝えたのですが、

    「わかった」

 こう一言だけ仰られて難しい顔をされていました。いつものメンバーにフィルが加わって料亭で落ち合ったのですが、とにかくユッキー社長とコトリ副社長の表情が尋常じゃないので、部屋中に緊張が走ります。

    「フィル、これぐらいは送れる?」
    「独裁政府も大損害を受けて小さくはなっていますが、母星で政府として成立している唯一の集団です」
    「二十万人ぐらいって前の話ではなっていたけど」
    「これも実際のところ、良くわからない部分が多いのです。もっと少ないという説がある一方で、百万人ぐらいはいるという話もありました」

 フィルも聞いた話としていましたが、母星全体で生き残っているのは五百万から一千万人ぐらいじゃないかの推測はあったそうです。とにかく統括する国際機関がなく、互いのコミュニティの交流も汚染地域が阻んでいるので、他のグループの情報は非常に乏しいとしています。

    「これは秘密研究所の資料にあったとされる記録で、私の時にはその記録が記憶装置の故障により読めなくなっていたものです。その記録には、
    『より大規模な技術保存施設の建設の必要を認める』
    こう書かれていたとされます」
    「つまりもう一ヶ所あった可能性があるってことか?」
    「否定はできません」

 コトリ副社長は、

    「フィルのいた秘密研究所には出来上がった宇宙船はなかったのよね」
    「はい、作れるだけの生産基盤はありましたが、あったのは原料と生産設備だけです」
    「ひょっとすると、もう一ヶ所の施設の方は出来上がった宇宙船の保管施設であった可能性もあるわね」

 つづいてユッキー社長が、

    「フィルのグループは宇宙船の打ち上げテストはしたの」
    「していません。生産設備だけあって、宇宙船技術者がいたわけではありませんから。とにかく設計図に近いものを作るのが精いっぱいで、出来上がった頃には既に資材も尽きています。一発勝負で打ち上げています」

 コトリ副社長が、

    「独裁政府は他のグループに較べると技術の保持や、情報は多く持ってるって話だったよね」
    「はい、そういう話になっています」
    「気づいて、探して、発見した可能性はあるね」

 コトリ副社長の見方は、まず長距離宇宙航海技術が母星では失われた技術になっている点です。フィルの話を信じれば、一万年前の地球への流刑船が最後で、以後は封じられてしまったとなっています。フィルは宇宙航海時代があったこと自体を神話と話していましたから、独裁政府もそうであった可能性があるとしています。

    「でもコトリ副社長、独裁政府の指導者は記憶を継承するのでは」
    「いや、一万年前のユダの見た指導者は入れ替わっている。何度も指導者が入れ替わる権力闘争が行われたとなってるから、宇宙航海時代の記憶を持つ者がいなくなった可能性は否定できないよ」

 それでもフィルでも神話として知っており、フィルのグループが打ち上げを行ったので、現在でも宇宙航海が可能なことを独裁政府が気づいたんじゃないかとしています。

    「ところでフィル、どうして三隻だったの」
    「それだけしか作れなかったのと発射台が三隻分だったんだ」

 ユッキー社長が

    「前回のフィルの宇宙船は大きな尾を引いていた。これは故障によるものと考えて間違いない。それに比べると、今度のものは尾を引く様子がない」
    「社長、それって」
    「船団で地球に着陸し、集団で上陸してくると見て良いと思う」

 独裁政府にフィルのグループのように女性人口の減少による絶滅の危機が迫っていた証拠はありませんが、同じ星の上ですから同様の状態に陥っている可能性は高いと見るのが妥当です。むしろ、そうなっているので地球に宇宙船団を送り込んで来たと見る方が自然です。

    「目的は地球侵略?」
    「無いとは言えないが・・・フィルの意見が聞きたい」

 フィルは難しい顔をしながら、

    「戦乱を戦った国々はどこも軍事国家でした。そうでない国もあったようですが、真っ先に滅ぼされています。最後まで生き残った独裁政府はコチコチの軍事国家です」
    「そうなるだろうな」
    「独裁政府も最盛期には遠いかもしれませんが、母星では最高の技術力を持っています。軍事力もそうです。こういう国が地球人の憐れみにすがっての移住を願うとは考えられません」
    「これもそうなるのは同意。それに独裁政府の船団が平和目的であっても、あの中には何十万人もの肉体の無い意識が積んで来ているに違いない。平和移住と言っても、その人数分の地球人の肉体が必要になるわけで、そんなものの提供に応じる国はないだろう」

 そうだよなぁ、フィルの船だって三千人ぐらい、いたとなってるけど、平和裏に交渉しても誰も応じるとは思えないもの。フィルには悪いけど、フィル一人だったから大事にならなかったとも言えるものね。

    「フィルのグループはどうするつもりだったんだ」
    「言いにくいが、拡散しようだった」

 それぐらいしか方法はないし、

    「フィルには悪いけど、コトリもユッキーも五千年これやってるんだけど、正直なところ不毛だよ。神と神が結ばれて子どもを産んだこともあるようだけど、生まれてきたのは地球人の普通の子ども。神の能力を持つ子供は生まれないんだよ」
    「コトリ、そうなのか!」

 ありゃ、副社長のことを『コトリ』って、二人はそこまで。ま、そうなるか、

    「意識こそ自分の物だけど、体はしょせん借りものってこと。アクシデントや殺し合いで減ることはあっても増えることはないのだよ。独裁政府の連中が地球人に宿っても同じ運命をたどるだけ。意識をもって宿主を移り歩くって寄生虫みたいなもんってことよ」
    「コトリは放置する意見なの?」
    「うんにゃ、アイツらいらん」

 コトリ副社長の意見は、神の存在は人あってこそのもの。人に住まわしてもらってる感謝を基本としてる。その住まわしてもらってる人の社会を良くするのが神の役目だって。タマタマか必然かは不明だけど、そうしようと思った神だけが生き残ってると。

    「イスカリオテのユダは」
    「アイツだってヴァチカン守ってるやないか」

 カネを儲けるためにヴァチカンが必要だからって理由だけど、結果としてそうなってると言えるかも。

    「今度来る連中はそうではないから、いらない」
 ミサキも不要としか思えませんでした。話は戦術戦略論に続きます。