流星セレナーデ:戦略と戦術

 ユッキー社長が、

    「意見は一致したで良いかしら。フィルはどう」
    「同意する」

 ミサキはちょっと不安で、

    「ホントにイイの」
    「前に社長やコトリが四千六百年にわたってエレギオン人を統治した話を聞いた。その間に外寇こそあったが、内乱やクーデター騒ぎは殆どなかったと聞いた。しかし独裁政府はそうでなかった。常に反乱やクーデターが準備され、実際に起っていた。エラン人で独裁政府に好意を持つ人間は少ないよ」
    「でも今でも最大の政府でしょ」
    「どこにでも熱狂者はいるさ。それとね、あんな状態に母星がなっても、独裁政府以外のエラン人は決して合流しようとしないのだ」

 フィルもコチコチの反独裁政府主義者みたい。

    「さてやけど、ユッキーもそうすると思う」
    「戦術的にはそうよねぇ、地球の技術じゃ、そうされても手も足も出ないもの」

 船団は地球周回軌道にます進出して来ると見られてるようです。SFパニック映画によくあるパターンですが、それが常套戦術であるのはミサキも御意です。

    「次は言葉を覚えて勧告かな」
    「それともいきなりぶっ放すかも」

 地球周回軌道に進出してやりそうなことは、そこから国連なりに降伏勧告を送るパターン。各国政府かもしれない。そのためには言葉を覚える必要があるぐらい。それに伴ってやらかしそうなのが地球周回軌道からの攻撃。いわゆる威嚇攻撃だけど、

    「でもあるかな」
    「無かったら嬉しいけど」

 母星のテクノロジーは凄いけど、宇宙兵器の開発まで果たして行われたかがあるのよね。今の母星には新たな技術開発力は失われていると見て良いから、独裁政府が見つけたもう一つの宇宙船基地にあったかどうかがカギになりそう。

    「フィル、どう思う」
    「無い気がする。まずエネルギー波みたいな武器だけど、地球周回軌道からとなると、相当なエネルギーが必要で、それだけの戦闘用のエネルギーを、ここまで運んでくるのが大変すぎる」
    「なるほど、無から有は生じないか」
    「ミサイルの可能性もあるけど、これもまたかさばるし、重いしで、長距離宇宙旅行には邪魔過ぎる。そんなものより、指導者なりの肉体を優先すると考えたい」

 フィルの分析も冷静。SFアニメとかなら無限に近いほどエネルギー波を撃ちまくったり、どかどかミサイルを乱射するけど、実際に運ぶとなれば大変すぎる話になるものね。

    「フィル、地上兵器はどんな感じ」
    「侵略するつもりなら持ってくるだろうが、これも限定的過ぎる気がする。携帯兵器ならまだしも、戦車とかもそうだし、コイン機程度でも重すぎるし、かさばり過ぎる」
    「携帯兵器の質は」
    「質は地球の兵器より高いだろうが、それよりも初期戦力としての問題がある」
    「それはなに」
    「肉体が少ないんだよ。船団全部で千人もいないと思う。エラン人だって鉛玉に当たったら死ぬ」

 ユッキー社長とコトリ副社長は顔を見合わせた後に、

    「そうなると、あれしかないか」
    「だよねユッキー」

 船団の目的をいきなりの地球征服と見るから無理があるとの見方です。船団の目的は地球征服よりも、まず肉体の確保です。そのためには、国を一つ取るだけで十分です。友好を装い平和裏に着陸し、その国の首脳部の連中に意識を宿らせればやすやすと肉体は確保可能となります。

    「大国である必要もないよね」
    「小さすぎると困るけど、一千万人もいれば十分じゃない」

 狙われそうな国はやはり独裁国家じゃないかとしています。そういう国なら、独裁者とその周辺さえ取り込んでしまえば、国民はどうとでも出来ます。

    「そういう戦術と戦略で来るとなると」
    「弱点も見えてくるね」

 弱点はやはり意識を移し替える装置と見ているようです。地球の神は自らの能力と意志で宿主を変えられるというか、そう出来るものが生き残っていますが、母星の神は装置を使わないと無理なのはフィルの話からでもわかります。

    「ではその装置を破壊すれば良いのですね」
    「ミサキちゃん、弱点だけどそうは簡単には破壊できないよ」
    「そうよ、相手だって大事なものだからがっちりガードするはずよ」
    「でもお二人の力なら・・・」
    「そりゃ、目の前にあれば壊すことは出来ると思うけど、神戸空港に降りて来ても難しいの。周辺は政府がびっしり警備してるだろうから、近づくことも出来ないよ」

 言われてみればそうだ。さっき言ってた独裁国なんかに降りられたら、入国すらできないものね。

    「では、どうするのですか」
    「どうしようもないってこと」
    「そんなぁ」

 コトリ副社長が、

    「それでもね、ミサキちゃん、これだけでも活用できる事はあるのよ。たとえばね、まず日本には来ないってことでしょ」
    「今の見方ならそうなりますが」
    「時間が出来たじゃないの。ここですべての解決策が見つかればそれに越したことはないけど、それほど簡単な話じゃないのもわかったじゃない。いきなり、日本にこられてドンパチやられたら逃げるしかないけど、時間が出来て、新しい情報が手に入れば対応策もきっと見つかるよ」
    「そうだよミサキちゃん。今ここで考えた相手の出方だって、実際に来てみないとわからないの。わかっているのは、降りて来てからが勝負って事だけみたいなものなの。戦いはこれからってところ。それでもね・・・」

 ここからは船団上陸後に備えてのクレイエールの対策の話になりました。ここの主担当はシノブ専務と佐竹本部長になり、

    「・・・では、そうしていくから、シノブちゃん、佐竹君頼んだわよ」
    「お任せ下さい」