流星セレナーデ:氷の女神

 今日は例の料亭での密談です。行く前にコトリ副社長から、

    「ミサキちゃん、今日は覚悟しときや。いつもと違うものが見れるよ」

 今日呼ばれたのは四女神と佐竹本部長、さらにフィルも呼ばれています。話は冒頭から宇宙船団対策になりました。ここまでの展開は事前に予測した通りになっています。次の展開としては宇宙船団が地球側に何らかのコンタクトを取るだろうぐらいですが、

    「フィル、そろそろ話してくれても良いと思うんだけどな」
    「なんの話ですか」
    「本当の事だよ」

 えっ、なんの話。ユッキー社長はフィルがなにか隠し事をしていると考えているとか。コトリ副社長も、

    「コトリもそろそろ話してくれても良いと思ってる。自分から話してくれたら嬉しかったのだけど」
    「知っている事は、すべてお話しています」
    「あら、そう。やっぱりエランでも神は神か」

 ユッキー社長の顔が見る見る厳しいものになります。あれは厳しいを通り越して怖い顔です。それもこれ以上はないぐらい怖い顔としか言いようがありません。その顔を見てるだけでミサキの背中に冷汗が流れるぐらいです。

    「フィルよ、お前の扱いは執行猶予であることを思い出せ。いつでも処刑に切り替えることは可能だ。今すぐでも支障はない」

 どうなってるの。フィルを処刑するってどういうこと、

    「コトリもユッキーと同じ意見よ。それとも二人を相手にしても逃げきれる自信でもおあり。それとも勝つ気とか」

 うわぁ、コトリ副社長まで、

    「待ってください。お二人には私が見えるはずです。戦って勝つどころか、逃げる事すら不可能なのはわかっているはずです。私のどこに不審があるというのですか」

 フィルがそういうのはミサキでもわかる。社長と副社長があそこまで言うのはミサキでも理解できません。

    「フィルよ、騙せると思っていたのか。たしかにお前の力の使い方は巧妙だった。一目ではわたしですら見抜けなかった。だがな、首座の女神の眼は節穴ではない」
    「コトリの眼もね」

 お二人は何かを見抜いておられるんだ、でもそれはなに?

    「話したくないのなら、尋問はこれで終りだ。コトリ、始末して」
    「フィル、コトリも楽しかったけど、これでお別れね。でも死んでもらうのはフィルの中の神だけだから安心してね」

 この急展開はなんなのよ。するとフィルの態度が変わります、

    「わかった、私の負けだ。でもどうして気づいた」
    「お前の作り話は下手過ぎる。エランのテクノロジーは高度に発達しているようだが、人としての知能は並以下だ」

 そこまで言うかと思ったけど、

    「そこまで下手だったか」
    「あれだけ雑な話で気づかれないと思っている方がおめでたい」
    「まずどこだ」
    「お前が乗ってきた宇宙船だ」

 あの宇宙船はフィルのグループが作ったと言ってたけど、

    「エランには宇宙船製造技術も、長距離宇宙航海技術もある」
    「証拠は」
    「地球の上に飛んでいる。これだけの船団をお前の探索のために派遣するぐらい健在だってことだ」

 言われてみれば

    「間違いなく作った」
    「そうだ作った。お前は出来上がっていた宇宙船で逃げたに過ぎない」

 ミサキにもようやく話が見えてきた気がします。フィルの宇宙船建造話はリアリティがあるようにも感じましたが、よくよく考えるとご都合主義が散りばめられてる気がします。あれほどの研究工場がフィルの描写するエランの状態で無事だったのもそうですし、三世代も生き延びられるだけの物資やエネルギーが貯蔵されていたのも不自然です。

    「秘密研究所など存在しない。お前の政府が作らせたのだ。長距離宇宙航海技術はそれほど甘いものではない」
    「それは地球の常識でエランは違う」
    「甘くないからお前の宇宙船は故障を起こした」

 フィルの顔が蒼白になっているのがわかります。

    「フィル、隠したいのだろうが無駄だ。あれは緊急脱出用ですらない。逃げ場を失ったお前がやむなく使ったに過ぎない」
    「隠しても無駄か、その通りだ。私はエランでの居場所がなくなっていた」
    「逃げて来たのもお前一人だな」
    「そうだ、良く気付いたな」

 じゃあ、三隻で旅立ったとか、一隻に三千人の意識と共に来たってのも全部ウソだったんだ。

    「気づかれないと思う方がどうかしてる。お前にはかつての仲間を悼む気持ちがない。それだけでも十分すぎるぐらいだ」

 ちょっと待ってよ。じゃあ、フィルって誰なのよ。

    「私がクレイエールに来たのは偶然か」
    「偶然ではない、招き寄せた。お前の如き成績で、奨学金給付生になったのに疑問も抱かないのなら大間抜けだ」

 クレイエールでは文化事業の一環として世界の有名大学の学生に奨学金を給付しています。ただ予算の問題もあり広く薄くになっており、西オーストラリア大学では学年に一人しか選ばれていないはずです。

    「では、あの年に二人になったのは」
    「だからエランに居場所がなくなるのだ」

 シドニー支社の強化ってそういう目的だったんだ。そうだ、思い出した。シドニー支社の落成式には社長も副社長も出席されていたし、その後にオーストラリア視察旅行もやってたんだ。その中には奨学金を出している大学への表敬訪問も含まれていたはず。その時に社長も副社長もフィルを見つけていたんだ。

    「社長、フィルは誰なのですか」
    「三座の女神よ、お前の思っている通りだ」
    「まさか・・・」
    「そうだ独裁者だ」

 フィルは急に笑い出し。

    「私が独裁者のはずがないじゃないか。仮に独裁者としても、わざわざ地球までエランから探索隊を送り込むのは大げさ過ぎるだろう」
    「大げさ過ぎない。一万年以上の罪の累積があるからな。お前は存在するだけでエランの脅威なのだ。あの宇宙船団はお前の生死を確認するまで地球にいる」

フィルはお手上げって感じで、

    「しかしお前たちには関係ない話だろう」
    「関係する。わたしたちはお前が星流しにした流刑囚の生き残り。それだけで理由として十分だ」
    「お前たちには殺せない。死刑は禁止だ」
    「地球の神には関係のない話だ」
    「では殺すのか」

 ここでコトリ副社長が、

    「フィルの話は面白かったわ。お蔭でコトリも母星の話をいっぱい聞けたもの。それも残念ながらもうオシマイ。コトリが始末しても良いけど、もうすぐ来るよ。フィルが好きな方を選ばせてあげても良いけど、あの船団の人たちの話も聞きたいな」
    「お前たちだって無事では済まないぞ」
    「どうかしら。とりあえずやってみる? 逃げるなり、戦うなり、お好きな方をどうぞ」

 ガックリと肩を落としたフィルを冷ややかに見下ろしながらユッキー社長は、

    「首座の女神より告す。独裁者アラルガルは宇宙船団に引き渡すべし」

 それにしてもユッキー社長は怖かった。あれがエレギオン時代の首座の女神であり、氷の女神であるのは良くわかりました。エライもの見せられたと震えています。

    「ところでミサキちゃん、社長室のカーペットだけど」
    「ダメです」
 それとこれとは話が別。