ランチに行こうとしたらシノブ常務と出くわして一緒になり、社員食堂でさらにコトリ専務とユッキーさんが合流してきました。ここのところ、しばしばあるのですが四女神そろい踏みです。ユッキーさんはずっと秘書をされてまして相変わらず、
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『相性悪い』
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『ちょっとタイプじゃないの』
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『ユッキーには悪かったと思ってるけど、そないに上手いことおらへんし』
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「コトリ、あれでイイみたいね」
「間違いないね、ユッキー。時刻も一致するし」
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「どういうことですか」
「クソエロ魔王の最後だよ」
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「いくら飛んでも無駄。今やロープじゃなくて鎖で結ばれてるからね」
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「やらずに済んだら、それこそ上策」
夜は再び四女神がそろっての祝勝会です。話はどうしたって魔王の話になるのですが、
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「魔王戦の勝因はなんでしょうか?」
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「やっぱりそうだったってことかな」
「わたしもそう思う」
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「最初のエレギオン包囲戦でクソエロ魔王が見せつけた力はそりゃ強大だったのよ。わたしとコトリはもちろんだけど、四人の女神が力を合わせて辛うじて凌いだぐらいかな」
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「でもね、クソエロ魔王がそこまでの力を見せつけたのはあの時限りだったの」
「そうなのよ、エレギオン包囲戦は三回あったけど、後になるほど期間は短くなり、感じるパワーも弱くなってた」
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「神は蓄えられたエネルギーを使ってパワーを発揮するけど、エネルギーを短期間にいっぱい使いすぎるとガス欠起しちゃうの」
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「でもね、たとえガス欠状態になっても時間さえかければ再びチャージされるの」
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「このエネルギーのチャージだけど、どんなに時間をかけてチャージしても上限があるのよ。これはガソリンタンクの大きさと見ても良いし、バッテリー容量と見ても良いわ。どっちかというとバッテリーのイメージに近いかな。このバッテリーが大きい神ほど強大ってこと」
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「バッテリーで説明する方がわかりやすいと思うから、そうするけど、クソエロ魔王のバッテリーは特殊だったと考えてる」
「特殊とは」
「容量の上限がほぼ無限大だったかもしれない。無限大は言いすぎかもしれないけど、途轍もなく大きかったぐらいで良いと思う」
「それだったら無敵では」
「無敵じゃないからクソエロ魔王は敗れて死んだのよ。ここを説明するのが難しんだけど、クソエロ魔王のバッテリーは二段構造ぐらいに考えてる」
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「その小さなバッテリーがクソエロ魔王の本来の力だったと考えてる。これが一段目ね。ところがクソエロ魔王は、それ以外に予備みたいなバッテリーが二段目に持ってる感じかな。予備と言うには巨大すぎるけど、もしかしたら女神から取り込んだのかもしれない」
「そこはどうやって充電するのですか」
「プラグからよ」
「プラグ?」
「そう、女神や女から」
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「おそらくだけど、アングマールに現れてエレギオンに攻め寄せる頃のクソエロ魔王はフルチャージ状態だった気がする。だからあれだけ強大な力を揮ったのだと思うわ」
「そこで予備のバッテリーのエネルギーをかなり使い果たしてしまった」
「クソエロ魔王はエレギオンの五女神を知っていたから、持てるエネルギーのすべてを投入しても、その充電は五女神を使えばお釣りがくるぐらいの計算だった気がしてる」
「でもエレギオンは落ちなかった」
「クソエロ魔王の戦略が狂ったってところかな」
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「これも今から思えばだけど、クソエロ魔王が和平交渉に形の上でも乗って来たのはチャージ時間を稼ぎたかったのもあると思ってる」
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「神は宿主の人からある種のオルタネーターを通してエネルギー補給をするの。まあ、寄生虫みたいなものだけど、オルタネーター自体は優秀で、これを通せば人のエネルギーはむしろ増幅して取り込まれる感じかな。だけどクソエロ魔王のプラグからの充電は無理やりのところが多かったぐらいに見てる」
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「もう一つの弱点はクソエロ魔王のプラグ充電のやりかた。あれも効率が悪すぎるのよ」
「やり方って、あのレイプして、絶望の中で無理やりエクスタシーに達せさせるってやつですか」
「そうよ、女がエクスタシーに達しないと取り込めないのよ。だから時間がかかる。とくに人相手の場合は最後の物凄いのが来ないと十分に吸い取れなかったと見て良いと考えてる。必然的に時間がかかるの。どうだろ、一日に十人も吸い取れば目一杯じゃないかな」
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「でもどうしてあそこまで、女に屈辱を与えてから抱こうとしたのでしょうか。別に黙って抱いても変わらない気がするのですが」
「それは魔王の趣味の問題もあるだろうけど、より大きなエクスタシーを得る手段だと思うよ。ミサキちゃんも女だからわかると思うけど、我慢した方がエクスタシーは大きくなりやすいの。あれだけの屈辱と事実上の死刑宣言を受ければ、それこそ命懸けで我慢するやんか。それが耐え切れなくってのエクスタシーは大きいのよ。そうやって体に火をつけられてしまうと女はオシマイよ」
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「それとね、女の心理としてエクスタシーに達したらダメだと思うと、逆にそっちに集中してまうことが多いの。コトリは仕事でやってたからわかるんだけど、、好きでもない憎たらしい男に抱かれたって感じないことが多いのだけど、感じるものかと集中しちゃうと逆に感じちゃうぐらいかな」
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「アングマール戦の終盤で奪還した都市に入ると、ほぼ皆殺し状態だったけど。とくに若い女は根こそぎって感じだったかな。これはアングマールの最終決戦で入城した時も同じだった。クソエロ魔王は最後は自国の女まで食い尽くしていたってことね」
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「クソエロ魔王はアングマールの最終決戦で辛うじて逃げてるけど、そこからの再充電は半端じゃない時間がかかったと見ている。一番充電効率が良い女神なんてまず残っていないから人相手になるけど、アングマール王時代みたいに国民根こそぎなんて出来なかっただろうからね」
「では、ラ・ボーテの時は」
「かなりチャージできてたけど、心理攻撃をまたやったでしょ、あれでかなりエネルギーを使った時点でコトリと舞子で決闘になったんだよ」
「コトリ専務はそこまで計算してあのとき」
「いや、あの時は誤算やった。クソエロ魔王の方が一枚上手だったと認めざるを得なかった。あの野郎、きっちりコトリよりエネルギーを残していやがったんだ。それを見抜けなかったコトリの失策。わざわざ決闘に誘った時点で気づくべきだった」
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「クソエロ魔王はクレイエール心理戦で消耗したエネルギーをコトリからチャージする予定だったんだよ」
「つまりはレイプする予定だったと」
「そういうこと」
コトリ専務はクレイエール心理戦で魔王のエネルギーがかなり消耗していると計算しており、計算通り魔王のエネルギーが小さくなっていたから勝てると騙されたんだ。コトリ専務のミスは魔王もコトリ専務を見ることが出来るのに、それでも決闘を挑発した点を見逃した点になりそう。神同士は出会えば不利でも戦う方に安易に理由付けしてしまったぐらいでイイと思う。
決闘の様相は変質者がコトリ専務を襲う描写をコトリ専務はされていたけど、あれは正しかったんだ。魔王は戦うタイプの女神からチャージする場合、女神が抵抗できない程度に半殺しにする必要があるとしていた。ただ半殺しにすると、それだけ吸い取れるエネルギー量も減るとしていた。
魔王がエロ攻撃をしたのは、それによってコトリ専務の抵抗力を計算していたで良いと思う。コトリ専務は魔王が何をしたいか熟知しているので、エロ攻撃に満足な抵抗が出来なくなれば半殺し状態は完成ぐらい。つまりってほどじゃないけど、神としての攻撃力の有無を確認していたぐらいだろう。魔王がマウント攻撃に移行したのは、コトリ専務のエネルギーの消耗を見切ったからで良さそう。魔王も一撃の威力とエネルギーの極度の消耗は知っていた口ぶりだった。最初の一撃が外れた時点で勝利を確信していたはず。
一方のコトリ専務は、最初の一撃が外れるのを予想して捨て身の二発目を戦術として思いついたに違いない。ただ計算外になったのは、どうしても魔王のマウント攻撃から逃げられなかったこと。マウント攻撃から逃げられないことを知ったコトリ専務は、密着状態からやむなく二発目を放ったぐらいの展開だったということか。
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「舞子でまたエネルギーを放電してしまったクソエロ魔王は、チャージに励んでたと思うよ。でもね、十二年かけてあの程度だってこと。焦ったんだろうね、ミサキちゃんに手を出しちゃったんだ」
「でも危なかったです」
「いや、ミサキちゃんに手を出した時点でクソエロ魔王の命運は決まっていたようなものよ」
「どういう意味ですか」
「たとえミサキちゃんからチャージできたとして結果は変わらないのよ。力の差は歴然過ぎたってこと。それを相手に知られた時点でオシマイよ」
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「たとえばですが、ミサキの神のエネルギーを吸い取って、ミサキがチャージしてからまた吸い取ればどうなんでしょう」
「分けて吸い取るのは無理だったはず。それが出来るなら、アングマール時代ぐらいなら充電用の女神の二人や三人抱えている方が自然よ」
それにしても、これが戦場で指揮を執られてた時のコトリ専務だとよくわかった気がします。戦場では確認しようのない情報を基に即座の判断が常に求められます。攻める時には果敢に攻める、無理な時には何を言われようが素早く引く、待つ必要がある時にはじっと待つ。
孫子の風林火山みたいなものですが、これを実戦で身に付けられたしか言いようがありません。身に付けられたからこそ、アングマール戦に勝ちぬき、ここまで生き残って来られたんだと思います。コトリ専務がミサキを可愛がってくれているのに疑いの余地はありませんが、そんなミサキがたとえ犠牲になっても決して情に流されず、これさえも判断材料にして、最後の勝利を確実に握る作戦を立案し実行して行くぐらいでしょうか。
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「ミサキちゃんはコトリの分身だから、ミサキちゃんがどれほどのエネルギーがあるかはよく知ってるの。コトリ一人だって楽勝よ。一撃なんてリスクも不要なの。それとクソエロ魔王には援軍はないからね。時間はかけ放題なの」
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「それでもクソエロ魔王はピョンピョン飛び跳ねる点だけが厄介だった。だから飛び跳ねるのを計算しながらの戦略が必要だったの」
「具体的には」
「とりあえず人からのチャージを阻止すること。そうすればクソエロ魔王本体は話にならないほど弱いのよ」
「その次は」
「本体も弱らせること。神は宿主である人からエネルギーをオルタネーターを介して得るけど、宿主の人が弱れば得られるエネルギーも減るってこと」
「だから災厄の呪いを」
「そうよ、クソエロ魔王の本体の力だけじゃ、コトリの災厄の呪いの呪縛は解けないのよ。どれだけジャンプしても同じ。ジャンプするのにさほどのエネルギーはいらないけど、宿主である人がジャンプする相手を見つけられないぐらい弱らせるのと、ジャンプするエネルギーさえ失くしてしまうように追い込んで行ったの」
第二段階・第三段階の戦略の基本は時間の見極めだった気がします。選んだ戦術は消耗戦ですが、これも女神は可能な限り安全なところから絶対有利な戦術を駆使しています。ただ時間がかかると実際の戦場では援軍とかが現れることがあります。魔王であればユダになりますが、ユダは来ないと見切れば時間はかけ放題になります。
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「もし第一段階で魔王がトットと高飛びしていたらどうなっていたのですか」
「逃げられないよ。クソエロ魔王はユッキーに見られてるんだよ。あの時にユッキーは一撃も放ったけど『改心すべし』の糸もそっとかけてたの」
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「あれは神なら切れるけど、神でも気が付きにくいのよ。かかってるだけで痛くも痒くもないからね」
「だからユッキーさんがモグラ叩きできたんだ」
「そういうこと。コトリが災厄の呪いの糸を張り巡らしたのも、その糸を手繰れたから出来たのよ」
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「あ、それ。どっちも極刑だけど、第三段階の『永遠に苦しむべし』は体が激痛に常に襲われるのよ、それも死なない程度に。人ならそのうちあきらめて自殺するぐらいかな。クソエロ魔王は頑張ったみたいだけど、最後は身動き出来なかったと思うよ。ご飯どころか水飲むのも大変な状態になるからね」
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「兵は動かさないのが上策なのよ。実際の戦闘は、あらゆる事前工作がすべて終了した後に行われるものなの。事前工作の段階で相手が自滅してくれたら、最高の作戦ってこと。戦場に出てから、相手の兵力を見て、戦術を考えるなんてのは愚将のやること。勝ち抜き、生き残るためには、どれだけ戦闘に入る前に働いているかがすべてなの」
圧勝を目指すには、事前に相手の戦力を可能な限り弱らせ、分断させて小さくし、弱り切ったところを可能な限りの戦力をかき集めて一挙に叩き潰す戦略が必要になります。そのための努力を少しでも怠れば、悲惨な結末が待ち受けます。この戦略を忠実に行ったのが今回の魔王戦で良さそうな気がします。ここまで冷たい戦略を立てて揺るぎなく断行した結果が今の様です。
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「それでもさ、ユッキー」
「なに、コトリ」
「体験したかった気がしない」
「まあね、後のセットがなければね」
「そうだけど、凄かったみたいだし」
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「お二人とも冗談にしても口が過ぎます」
「ゴメンゴメン。でも死ぬ時にエクスタシーに溺れながらってのもイイかと思って」
「ごめんね、ミサキちゃん。コトリも生き続けるのに倦んじゃってるけど、わたしも実際のところ似たようなものなの。コトリと何度も、もし死ぬならって話を数えきれないぐらいしたけど、そういうのもアリかなって」
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「でもクソエロ魔王は生理的にどうしても受け付けなかったのよ。やっぱり好みって大事じゃない」
「そうそう。でも相手がクソエロ魔王じゃなかったら考えても良かったかもしれない」
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「死ぬなんて仰らないで下さい。やっと、やっと、魔王の脅威がなくなって平和になったんじゃありませんか。どうしてミサキやシノブ常務を置き去りにするようなことを言うのですか」
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「あははは、冗談冗談」