綾瀬社長からも教皇の接待の話がありました。予定は新神戸駅に九時半頃に到着し、そこからクレイエール本社まで来られ、十一時半の新幹線で広島に向かわれるとの事です。
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「そうなると我が社に来るのは十時ぐらいで。十一時までには新神戸駅に向かわれるぐらいの計算でよろしいでしょうか」
「だいたい、そんなところだ。教皇の希望はローマで会った小島君、結崎君、そして君との旧交を温めたいとの御意向で、出来るだけ四人だけで話せる時間を長く取って欲しいとなっている」
「では、出迎えも少人数の方がよろしそうですね。本社滞在時間は一時間弱程度ですから、出迎えの挨拶も簡潔にして、応接室にすぐに御案内するプランで如何でしょうか」
「そういう意向みたいだからセッテイング宜しく頼む」
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「応接室のソファはだいぶくたびれているから、社長室のを運び込んでくれないか。あれは新調したばっかりだから」
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「パパが来られるのなら是非」
十時過ぎに白バイ先導で教皇が到着。簡素と言いながら黒塗りのリムジン三台を連ねてのものです。教皇は白の盛装を翻してクルマから下りられました。玄関に歩み寄ると社長と副社長の挨拶を受け、コトリ専務の案内で応接室に向かいました。ここで教皇側の通訳も同席しようとしましたが、教皇は、
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「この御三方は十分なイタリア語を話せるから不要だ。それは私が一番よく知っている。どうか席を外してくれたまえ」
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「時間も無いので本題に入りたいと思うが、その前に一つ」
「なんでございましょう、教皇聖下」
「そちらの香坂さんも天使なのか」
「聖下にはそう見えますか」
「玄関で見た時に目を疑った。ルチアの三人目の天使なのか」
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「聖下は見えられるのですか」
「うむ、私には見える」
「では、そうなのでは」
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「では聞きたいことがある」
「教皇聖下の御意のままで」
「聖ルチアはどこにおられる」
「存じません」
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「ルチアの天使なら知っておるはずだ」
「教皇聖下におかれましては、クレイエール社員ではなくルチアの天使に御質問の御意でございましょうか」
「もちろんだ」
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「それでは礼が変わります」
「どういうことだ」
「人たるものが天使に物を尋ねる態度と思えません」
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「う、うむ。君たちが天使であれば教皇と言えども人であり、使途に過ぎないからそうなのだが・・・」
「聖下におかれましてはベネデッティ神父の研究を読まれましたか」
「あの事件の後始末は私の担当であったから読んだ」
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「君たちはルチアの天使なのか、それともエレギオンの女神なのか」
「さあ、私たちは仏教徒であり、キリスト教世界の話はわかりかねますが」
「私は知りたい。エレギオンの女神が聖ルチアなのか」
「そんな昔のことを私が知っている訳がないでしょう」
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「マンチーニからも聞いた。君はすべてを知っておると」
「聖下は何をお知りになりたいと」
「だから・・・」
「それはお聞きしましたし、返事もさせて頂きました。聖下におかれましては、まだお望みになられておられるのですか」
「そうだ。ただし、これは富への欲望ではない。純粋な学術的興味だ」
「であるならば、聖ルチアは関係無いかと」
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「聖下、マルコ・タンブロニ・アルマロリ・コウサカ氏は知っておられません」
「えっ、そうなのか・・・」
「デイオタルスを遣わされたのは聖下ですね」
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「そのような者は知らぬ」
「私を甘く見ない方がよろしいかと。まさか、私がデイオタルスから聞いていないとでもお思いですか」
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「君がタダ者ではないのは、わかっていたが、ここまでとはな」
「お褒めの言葉と受け取らせて頂きます」
「では改めて聞こう。どこにあるのだ」
「存じません」
「ここで素直に話して欲しい。そうすれば君たちも平和だ」
「聖下。返事は既に済んでおります」
「そうか。ただヴァチカンの力を侮らない方が良いぞ」
「謹んで承ります」
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「聖下。最後に一つだけ」
「なんじゃ」
「エレギオンの女神の最後はご存知ですか」
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「あれは申し訳ないことをしたと思っておる」
「なのにどうしてまだあるとお考えですか」
「見つからなかったからだ」
「熱かったですよ。あの痛みは忘れられないものになっております」