遊びまくるコトリ部長とシノブ部長でしたが、ミサキはシラクサへの航空便の手配とホテルの確保もやっていました。そうやって迎えたヴェネツィア最後の夜ですが、
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「ワイン」
「イタ飯」
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「コトリ部長、マンチーニ枢機卿は信用できる人物なのですか」
「まるっきりの悪人じゃないけど、相当な狸よ」
「どういうことですか」
「ミサキちゃん聞いててわからなかった? ベネデッティ神父は天使を見つけて、秘儀を行い天使の記憶の封印を解いてるのよ」
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「なのに聖ルチアの行方はわかってないのよ」
「封印を解くのに失敗したとか」
「そこは微妙なんだけど、たとえ記憶の封印を解いても、その天使は聖ルチアの行く先を知らなかったの」
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「それとね、ミサキちゃん。聖ルチア女学院ではコトリも含めて三人の天使が見つかってるの。コトリ以外の二人の天使の記憶の封印も解かれたとなってるけど、二人とも聖ルチアの行く先は知らなかったのよ」
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「それとね、それとね、コトリの天使を認定する儀式で、マンチーニ枢機卿は、イン・ノビッシモ・アウテム・アンジェルって宣告したのよ」
「それって、ラテン語で最後の天使って意味じゃありませんか」
「そうなの、まだ三人目のはずなのに最後の天使ってどう思う」
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「考えられるのは一つで、いわゆるルチアの天使以外にもう一人見つけてるはずよ」
「そんな人いるのですか」
「いるよ、観音様」
「はあ?」
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「ベネデッティ神父が見つけた第一の天使は、恵みの教えの初代教祖の観音様だったのよ。でも、宗派も違う上に、とにかく熱狂的な信仰を集めてる教祖やし、生身の観音様だから秘儀を施して記憶の封印を解くことなど出来なかったってこと」
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「コトリ部長。どうして天使は聖ルチアの行き先を知らないのですか」
「それはね、聖ルチアが四人の天使に連れ出される時に、頭立つと思われる天使がこう言ったとされてるの、
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『ルチアは解放されり、何人も探すなかれ、探索の道も封じたなれば』
マンチーニ枢機卿はこの話しをミサキちゃんには伏せてたけどね」
「どういうことですか」
「四人の天使は聖ルチアを連れ出したのはわかるよね」
「はい」
「そして行き先は極東の日本だったのも事実からすれば間違いない。四人の天使は日本まで一緒に来たけど、最後まで聖ルチアと一緒だったのは一人だけだってことよ」
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「どこでそんな事を知られたのですか」
「ルチア・ベレ・エクレシアよ」
前に教えてもらえなかった天使の教会内でのミサの様子ですが、ルチアの天使であるコトリ部長は、特別な衣装と装飾品を身にまとい、祭壇の上にある椅子に座っていたそうです。天使の教会内のいつでも、どこでもルチアの天使は出入り可能で、教会内のあらゆる書物を読むのは自由だったそうです。
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「書物は日本語だったのですか」
「いいや、ラテン語がほとんど」
「じゃあ、どうやって読んだのですか」
「聖ルチア女学院の第二外国語はラテン語だったのよ。大学行ってる時は、なんちゅう役に立たん言葉を習わされると思ってたけど、天使が読めるようにするためだって言われたよ」
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「だからコトリは教会内では天使だったの。聞けば全部教えてくれるのよ」
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「コトリ部長も最後の秘儀を授けられたら天使の記憶の封印が解かれるのですか」
「そういうことになるけど、最後の秘儀を受けるかどうかは検討中」
「どうしてですか」
「シラクサでミサキちゃんが聞くとになると思うわ」
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『あははは、ちょっとした悪戯。天使が二人並ぶのを見たら、あの神父さん、なんて言うかと思って』