カズ坊の野郎、だいぶ弱ってるな。時期からして仕方がないんやけど、アイツは天涯孤独みたいなもんやから、こういう時に優しく力づけてくれる奴がおらへん。最初はこのユッキー様がその役したろかと思たけど。あははは、ウチじゃ無理、役が違うわ。それにしても入院してから見舞いに来たのは仕事関係ばっかりやん。親戚はおらんからしょうがないとしてもや。友達ぐらいおらへんのか。たくホントにあいつは愚図でノロマの大馬鹿野郎だ。やっぱりあのまま地獄に叩き落としとけば良かった。そしたらこの世に無駄飯食いが一人減っていたのに、ついつい助けてもた。ホンマ後悔するわ。
カズ坊に最初に出会ったのは入学式の時やった。あの野郎は忘れちまいやがったが、このユッキー様にぶつかりやがったんだよ。転んで痛かった。たくよそ見なんかするなよ馬鹿野郎。まあホンマはよそ見しててぶつかったはウチやねんけどな。そしたら手をさしのべやがるんだ。転んだから起そうとしたんだろうが、このユッキー様の手を握ろうとは何様のつもりやねんと思ったよ。でも温かい手だった。
悪いかよ、そんだけでカズ坊に惚れちまったんだよ。笑うなら勝手にしろ、たったそれだけで、このユッキー様が惚れちゃったの。あのダッサクて、ブッサイクなカズ坊にね。ホンマ一体全体、あんな野郎のどこが良かったか今でもわからんし、永遠の謎やろな。
だから二年で一緒になって舞い上がったよ。このユッキー様が嬉しくて眠れなかったぐらい。それなのにカズ坊の野郎、まったく覚えてないんだよ。あんときゃ真剣に殺意が湧いたよ。お前の記憶力はゾウリムシじゃないかってね。あん時に見捨てといたら良かった。よっぽど良い人生をおくれたろうに。
カズ坊のクソ野郎が不思議がってた席替えやけど、最初の二回は偶然やった。でも後はちゃうで、委員長のユッキー様が仕組んだことやねん。あんだけ続いたんやから気づけよ馬鹿野郎。お前みたいな奴と近づくためにずっと委員長やってたんだぞ。
医者になったんもそう。カズ坊が医学部目指すななんて言い出すから、ウチも目指したんだぞ。気づけよ、この無関心男。ウチが医学部目指すっていうたら、
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「ユッキーみたいなのが医者になったら、怖くて誰も患者が近寄らんわ」
はあはあはあ、あの野郎のことでエエ思い出なんて一つもあらへんわ。せっかく忘れてたのに、なんで選りによってうちの病院なんかに担ぎ込まれるんや。来たら医者やから憎くても治さなしゃ〜ないやないか。この歳になってもユッキー様に迷惑かけるんかいな。エエ加減にして欲しいわ。はずみでつい助けてもたやないか。
・・・でも、でも一回ぐらい女として見て欲しかった。ウチは女やないんか、恋人に出来へんのか。こんなにエエ女やぞ、世界一のユッキー様だぞ、お前だって言うてたやん、
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「なんだかんだと言ってもユッキーは世界一」
知ってたよ。アイツの心も目も、みいちゃんしか見てなかった。それ以外は全然見てなかった。隣に居ても単なる便利な友達としか見てなかった。どんなに頑張っても、時間をかけてもダメだった。悔しかった、悲しかった、寂しかった。どれだけ眠れぬ夜を過ごした事か。
でも妙なところに気配りだけはするんだ。毎日憎まれ口を叩きあっていたんやけど、その会話からウチの一番欲しいものを探り当てて、誕生日やクリスマスにはプレゼントしてくれたんだ。そりゃ嬉しかったよ。あん時だけは、
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「ユッキーにはいつもお世話になってます」
あん時もそうだった。虫垂炎になって入院し手術したんだけど、カズ坊は血相を変えてお見舞いに来てくれた。手術後だったんだけど、
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「私、キズモノになってもた」
「どこかキズモノやねん。そんなこと言う奴はボクがぶっ飛ばしたる」
あの便所虫の、豚野郎の、ゾウリムシの、マラリヤ原虫のエイズ野郎め。テメェのお蔭で純情可憐だったユッキー様の心がひねてもたんだぞ。責任取りやがれ、今からでも一生かけても責任取りやがれ、今からだって許してあげるから・・・お願い。