国立感染症研究所に年齢/年齢群別の麻疹抗体保有状況、2015年があります。これは2015年度の麻疹抗体保有状況の調査で、現在公表されている最新のデータと見れます。非常に詳しいデータなんですがたとえば、
これを見てもイマイチ状況が把握しにくいところがあります。そこでもう一工夫したいところですが、そもそも麻疹抗体価はいくら必要かの知識が必要です。そこで小児感染免疫 Vol.23にある庵原俊昭氏の抗体検査:目的・結果・次にすることはから表を引用します。
国立感染症研究所はPA法で抗体価を測定してますから、感染予防レベルで256倍以上必要になります。この感染予防レベルの年齢別抗体価保有率をグラフにすると、
全体の平均で72.2%、グラフでも70〜85%の範囲に殆どの年齢層が含まれます。後は発症予防レベル、陽性レベル、それ以下とグラフを作ってみたのですが見にくいので思い切って2分します。
- 0〜32倍の陽性以下
- 64倍以上の発症予防レベル以上
64倍以上の全体の平均は90.8%になります。このグラフでは10歳未満の動きが見にくいのでそこのグラフを作ってみます。
わかりやすい動きで、1歳時の1期のMR接種により10.6%しかなかった抗体保有率が2歳には93.5%になり、小学校入学前の2期の接種により6歳では98.2%まで跳ね上がっています。0歳児から2歳児までの数値を表にすると、
月齢・年齢 | 麻疹抗体保有率(%) | |
64〜128倍 | 256倍以上 | |
0-5M | 25.0 | 10.7 |
6-11M | 4.5 | 3.0 |
1 | 68.4 | 55.2 |
2 | 93.5 | 84.1 |
- 0歳児、とくに外での活動(託児所、保育所も含む)が増えてくる6か月以降が最も危険
- 1歳児は接種後に抗体が上がれば(およそ1か月されています)、他の年齢層とリスクは変わらない、もしくはそれ以上
- 2期の接種の効果は長期免疫の観点から必要だが、1期の効果は十分に持続している
もちろん他の年齢層の抗体保有率を少しでも高めることは長期的戦略から必要ですが、それは平常時の努力であって、緊急時には持てる戦力をピンポイントで注ぎ込むのが戦術が効果的になります。全体をカバーするには程遠い数のワクチンしか現実的には存在しないわけですから、これを全年齢層に広く薄く使用しても効果は限定的になります。とは言うものの現状は深刻で、ワクチンは定期接種の維持さえ出来なくなっています。当院でも9月の新規予約は既に出来なくなっており、0歳児への接種の余裕などどこにもありません。
10月にワクチン供給状態が改善してくれないと、数少ないワクチンは1歳児の1期の定期予防接種に振り向けざるを得なくなります。そりゃ、0歳児に1本使用すれば、1歳児への使用が1人減ります。ワクチン投与前の1歳児は0歳児よりさらに危険な状態にあるのは説明の必要もないでしょう。来月はどうなっているのかなぁ。