風疹の疫学みたいなもの

昨日は今日のエントリーを書くのにエライ手間がかかってしまい、ズルズルと時間切れになり遺憾ながら自然休載になってしまいました。ついでに気力も消耗してしまったので明日も休載にさせて頂きます。ではでは国立感染症研究所

これからチョット面白いデータがあったので紹介しておきます。


今年の流行の凄さ

まず今年の週別の患者数です。

去年と較べて目を剥くような数になっているが判って頂けるかと思います。累積数も当然凄い事になっているわけで、
上のグラフではかえって判り難いのですが、昨年の患者発生数も多くて、
今年とはスケールが違うのですが、それまでに較べて患者発生数が急カーブに増えている事が確認できるかと思います。当然ですがこのデータも参考にして厚労省は風疹対策を考えた事になります。近年では2000年代の初め頃に流行があったはずですが、この時は統計が十分でなかったようで、IASRの2000〜2005年の風疹および先天性風疹症候群の発生動向とその関連性に、

2000年第1週〜2005年第52週までに全国約3,000の小児科定点から感染症発生動向調査に報告された風疹症例について、報告内容に加え、自治体からの任意の提供情報、学会発表、論文等で公表されている情報も併せて解析した。2000〜2003年までは年間2,590〜3,120例の報告(2000年3,120例、2001年2,590例、2002年2,984例、2003年2,794例)であったが、2004年には4,247例と約1.5倍に急増した。ただし、第30週以降はむしろ2000〜2003年より2割強減少した。2005年は、年間889例(暫定値)の報告に留まった

推測値ですが、2004年が多かったようで4247例としています。ザッとの比較ですが、昨年が2000〜2005年の流行期と同じぐらい、今年はさらに爆発と言う感じでしょうか。あくまでもIASRの推測ですが、2000〜2005年までの患者数は16604例です。これに対し昨年と今年の23週(6/12)までで12494例となっており、このままでいくと2000〜2005年までの6年間の患者数を2年で軽く上回る勢いになっています。


有効抗体価と発症年齢

風疹の有効抗体価はHI検査で32倍以上とされています。有効抗体価保有率が高いほど流行を防げる事になるのですが、今年の年齢別の患者数と有効抗体価保有率をグラフにして見ます。まずは男性です。

グラフは有効抗体価保有率が2012年、患者数が2013年なので年齢と患者数が1年ずれるのは適宜脳内置換してください。年齢によって有効抗体価保有率のアップダウンが激しいのですが、最も低いのが22歳で48.1%になっています。続いて低いのが35歳の57.8%です。そういう目で見ると、有効抗体価の低い年齢層が全体の流行を引っ張っているように見えなくもありません。ただなんですが男性の20〜40歳部分を拡大すると、
有効抗体価保有率が高い年齢の方が「やや」患者発生数が少ないようにも見えなくはありませんが、言うほどの差もなさそうな気もしないでもありません。これが女性になるとさらに微妙になり、
どうなんだろうと言うところです。ここで興味深いのは都道府県別の今年の累積患者数です。
埼玉、千葉、東京、神奈川と大阪、兵庫の5都府県で10102例中7880例を占めています。もちろんこの5都府県を合わせた人口も多いのですが、いわゆる大都市圏であり、人口密集地帯ぐらいの表現は可能です。平たく言うと人口密度が高い比較的狭い地域に患者発生が偏っているんじゃなかろうかです。有効抗体価保有者は流行をブロックする壁になるはずなのですが、ある一定数以上に患者が増えると、流行阻止の有効な壁になっていないのではないかです。

例えば有効抗体価保有率が90%と言っても10人に1人は感染するわけです。ある仕事場なりに20人いて、そこで1人風疹が発生すると1人には感染する可能性が出てくるです。さらに言えば、仕事場よりさらに物凄い密集が生じる通勤電車なんかでは、ラッシュ時には1両あたり300人以上が乗車していると聞きますから、そこに1人の風疹患者がいれば1両300人として、

有効抗体価保有 感染可能な人数
95% 15人
90% 30人
85% 45人
80% 60人
75% 75人


これに駅のホームまで加えると、有効抗体価保有者の感染ブロックの壁をすり抜けられてしまうんじゃなかろうかと思っています。そうやって電車とかホームで感染した者は仕事場でさらに感染を広め、これがまた電車に乗って広げて行く感じです。そのためかどうかは確証がありませんが、風疹患者が増えるのは10代の後半からの傾向があるように見えます。

小中学生が電車通学する割合は比較的低いと思いますが、これが高校生になると割合が増え、さらに高校を卒業し大学なり社会人になれば通勤電車の利用率が上昇し、これに連動して患者数が増えているみたいな見方です。逆に大都市圏以外では通勤がクルマであったり、通勤電車自体のラッシュがさほどでなかったりしますから、大都市圏に較べると患者発生数は少なめで、なおかつ流行の拡がりもそれなりなんじゃなかろうかです。もちろんこの推測は今日のデータを見ただけの感想に近いものです。ただなんですが、もしこの推測がある程度正しければ流行を抑えるには、

  1. 有効抗体価非保有者に根こそぎワクチンを接種する
  2. 蔓延した風疹が自然に抗体保有者を増やす
1.をするにも風疹対策用のワクチンは250万本ほどですから、正直なところ焼け石に水程度かもしれません。なんちゅうか、「Stop the 風疹! みんなワクチンを打ちましょう(数は全然足りまへんけど)」ってな感じです。


そうそう小児科開業医としては違った面の心配をしています。風疹流行阻止のために成人への接種が増えるのは良いとしても、真剣にやれば250万本では全く足りません。そうなると小児の定期接種用の200万本に手をつけないだろうかです。手を付けなくても既に安定供給に問題を起こしそうな状況になりつつあります。そうなれば小児の定期接種がスムーズに回り難くなります。小児の定期接種を優先してくれたら嬉しいですが、たぶんワクチン配給となれば成人の任意接種も小児の定期接種もあんまり差をつけずに行われそうな気がします。そう言う事は、予防接種をやっていると

    よくあること!
小児の場合、病気としては風疹は成人より軽症の事が多いのですが、麻疹はかなり怖いというところです。それと有効抗体価保有率を見ていると学校や保育所、幼稚園レベルの流行がいつ起こっても不思議なさそうにも思えます。まさにどうなる事やらです。末端の開業医が出来る事は実態をありのままに受け入れるしかありませんから、心配してもどうしようもないというところです。それにしてもワクチンは毎年、毎年、必ず何かが起こる気がしています。