医療閑話・今のワクチン問題を巡る話題

本業にかなり影響している問題なのでもう1回。


化血研問題のわかりにくさ

前回も引用した1/8付化血研HPより、

今回の処分は、弊所が、血漿分画製剤について長年にわたりこれを承認書と異なる方法で製造するとともに不正な製造記録を作成しこれを隠ぺいしていたこと、及び、独立行政法人医薬品医療機器総合機構による同製剤に関する立入調査において適切な対応を行わなかったこと、並びに、ワクチンについて厚生労働省の報告命令に対して適切な報告を行わなかったことによるものです。

私の知る限りではポイントは、

  1. 承認書と異なる方法で製造
  2. 不正な製造記録を作成しこれを隠ぺい
この2点のようです。ほんじゃ、これまでの薬事法に基づく業務停止にどんなものがあったかを2010/4/14付薬事日報「田辺三菱製薬に25日間の業務停止‐申請データ差替えで行政処分」を参考にしてみます。

薬事法に基づく業務停止は、過去に日本商事の105日間、日本ケミファの80日間、皇漢堂の10日間といった前例がある

今回の化血研の「110日」は日本商事を上回る過去最長の厳罰処分であることは確認して良さそうです。ここでなんですが引用記事の田辺三菱製薬が起した問題ですが、

具体的に承認申請データの改ざんがあったのは、アンモニア含量試験、アルブミン以外の蛋白質濃度測定試験、重合体濃度測定試験、界面活性剤含量試験など。市販後にもバイファは、アレルギー誘発の可能性がある酵母成分の混入を調べる、ラットPCA反応試験の抗体抗原反応で、陽性を陰性と偽るなどの不正を行っていた。

処分に値しそうな問題ですが、それでも田辺三菱は25日間です。化血研の110日間がどんだけ重いかが直感できます。直感は出来るのですが、私のような医療関係者でも違和感が強いのは前回も書きましたが、

    製造工程は違法だが、出来上がった製品は問題なし
こうなっている事です。違法な製造工程、それも空前の厳罰処分が行われる程のものであれば「当たり前の感覚」で言えば製品もアウトじゃなかろうかです。厚労省も処分発表でははっきりと
    不正品
こう断じながら製品使用はOKなんです。たぶんその辺のわかりにくさが、これだけの厳罰処分、なおかつワクチンとか血液製剤という話題なのに、
  1. マスコミ
  2. 自称医療ジャーナリスト
  3. 反ワクチン団体
この辺の反応が案外鈍い原因では無いかと思っています。うがった見方によっては厚労省が「圧力」をかけているなんてのもありますが、いうても厚労省ですからマスコミは今後の情報提供がらみでありえても、2.と3.の方々には大して関係ないとも考えられます。厚労省の圧力程度で口が封じられるのなら反ワクチン運動自体が存在しないはずだからです。私もワクチン接種はモロ本業ですから、業者筋などから出来るだけ情報を仕入れたつもりですが、それでも「どんだけの悪事」かわかりやすく解説しろといわれても正直なところ困るってのが本音です。


地雷原の北研

派手な化血研問題に較べると地味なんですが、北研問題ってのも実はあります。北研問題については化血研問題以上に情報が断片的で、ある程度確実なところを拾っておくと問題はMRワクチンに発生したようです。

  1. 前回ロットでワクチンの力価が規定より低いものが発見された
  2. そのため北研は接種者にワクチン効果を確認するために抗体検査を北研負担で行うとした

ここまでは北研から文書で頂いています。この時のメーカーサイドの説明として、
    規定より力価は低いが実用上は問題ないので接種自体は問題ない
ソースを探したら第一三共(北研の販社)にありました。

社内定期安定性モニタリングの結果、麻しんウイルスの力価が有効期間内に承認規格を下回る可能性があることが判明したことから、下記製造番号の当該製品の自主回収を行うことを決定しましたのでお知らせいたします。

この情報自体が昨年の10/31時点とチト古いのですが、それ以降にはないようなので最新版としてよさそうです。これによると問題の本質は、

  1. 製造直後には問題はなかった
  2. 時間の経過による力価の低下が早く、有効期限内に力価が規定を下回る事が判明した
こう解釈できます。回収リストもあり

20160124105631

HF060A及びHF061Aは回収対象外、つまり問題無しとなっています。もう少し情報が欲しいところなんですが、平成27年10月30日に厚生労働省へ情報提供した「自主回収の対象ワクチンに関する見解」の【別紙-1】の更新版にありました。

20160124111038

ワクチンの有効期間は製造から18ヶ月として表をシンプルにすると、

ロット番号 製造年月日 規格値を下回る時期
年月日 製造より
HF053A 2014.3.3 2015.5.3 14ヶ月
HF054A 2014.3.5 2015.5.5 14ヶ月
HF055A 2014.4.8 2015.1.8 9ヵ月
HF056A 2014.5.19 問題なし
HF058A 2014.12.10 経時調査中
HF059A 2014.12.14 経時調査中
表を見て気が付く事ですが、HF056Aを2014.5.19に製造した後の次は2014.12.10のHF058Aになっています。期間が空くのは他のワクチン製造との絡みがあるかもしれませんが、ロット番号としてHF057Aが抜けています。HF057Aは回収リストにもありませんから、おそらく製造直後も力価を規定が下回りロット落ちしていたと推測されます。もう一つなんですが、少なくとも2014年3月から12月の間にHF053AからHF059Aの7つのロットを製造しているとして良いでしょう。そうなると回収対象外のHF060A及びHF061Aは2015年に製造されたとして良いかと思います。

しかし2015年は2つのロットしか作っていないように見えます。MRワクチン製造なんて安定需要の売り切り商品に近いですから、年によって製造量の差は小さいはずです。第一三共の発表は2015年10月ですから、2014年実績からすると5ロットぐらいは作っていても良いはずです。これは問題を北研が自覚して製造と言うか、検品に出していない可能性が高いと見て良さそうです。いや見方によってはHF057Aがロット落ちになったようにHF061A以降は作っても、作っても規格を満たせない製品しか作れていない可能性もあります。

2015年のワクチン製造については業界筋の情報としてワクチン製造の改善に取り組んでいるの話はあります。そりゃ改善に取り組んで不思議ないのですが、もう一つの情報として未だに原因不明と言うのもあります。製造法を改善すると言うのは承認された製造工程以外の手法を用いることになり、これで品質的に問題が無い製品を作れても、検品の上で出荷なんかしたら化血研問題でわかるように業務停止ものの処分を受ける可能性があります。ですから北研が出荷を再開するには、

  1. 変更した製造工程での改善に成功する
  2. 成功した製造工程の正式承認を得る
この改善による成功にまだたどり着いていない「らしい」のお話です。時間がかかるのは改善をしても1回では成功と言えないハードルが課せられているのかもしれません。少なくとも複数回以上の問題ないワクチン製造が出来てから製造工程の承認が行われるぐらいの状態です。同時になぜ製品不良の問題が生じたかの報告書の提出も義務付けられているの可能性もあります。どちらにしても北研のMRワクチンの出荷は当分期待できない怖れがあります。


「悪質」発言から考える

北研問題を考える時のヒントになりそうなのがある伝聞情報です。ワクチンは感染症部会の管轄なんですが、そこである委員が、

    北研の方が化血研より悪質だ!
感染症部会の議事録を読む気力がないのですが、複数の業界筋から「悪質」発言が本当にあった「らしい」と聞いています。これも聞いた時には何が悪質かサッパリわからなかった(情報を持ってきたMRも知らない)のですが、厚労省への資料を見るとわかってきました。不良品の自主回収は昨年の10月31日から行われています。私も聞いたのはその辺りだったと記憶しています。ところが不良品で一番早く力価が低下したHF055Aの社内検査での不良発見は昨年の1月時点のお話です。つまり10ヶ月以上もの間、不良品対策に手を拱いていたと見られたんじゃないでしょうか。手を拱いていたと言うより隠蔽と受け取られた可能性はあります。化血研処分が重くなったのは私の解釈する限りなんですが、
  • 非承認の製造工程で作るのは過失
  • 製造工程が非承認であるのを隠蔽するのは重過失
こういう感じではないかと考えています。これに対し北研は
  • ワクチン力価が有効期限内に低下するのは単なるトラブル
  • ワクチン力価の低下にすぐに対応せずに半年も放置していたのは過失を越えた重過失
化血研より北研が悪質と発言した委員は、
  • 化血研製品は製造工程こそ厳重処分の不正であるが、出来上がった製品には問題なく接種者に被害は及ばない
  • 北研製品は不良品の隠蔽になり、なおかつ接種者に影響が及ぶ
これぐらいの趣旨は最低ありそうな気はします。さらにって程ではありませんが、2014年以前のMRワクチンは本当に問題はなかったのか、いやMRワクチン以外も本当に問題が無いのであろうかの疑惑は容易に広がります。つうても社内資料しか追跡試験のデータは無さそうで、そこで「無い」とされたら後は信じるしかありませんけどね。それでもワクチンメーカーにとって怖い、怖い感染症部会の委員に不信感をもたれると説明は本当に大変だと思います。

さて北研にもなんらかの処分が下されるのでしょうか。これについての情報は私は持ち合わせていません。不正は宜しくありませんし、不良品を接種するのは論外と思っています。不正や不良品を作ったメーカーになんらかの処分はあっても構わないのですが、そのためにセットのようにワクチン不足が起こるのは末端の医療機関及び接種希望者にとって迷惑なお話です。末端の医療機関が取れる対策としては、烙印の押された化血研製品、どうにも危ない臭いのする北研製品を除外して品揃えって言いたいところですが、全医療機関がそう動いたらワクチンは足りなくなるのが必至です。

去年の後半から引き続いてワクチンは厄年みたいです。