言うても無駄やろなぁ

ブログ「理想の自分と出逢う旅」(河村直子氏)より、

他の日の記事もお時間があればどうぞ。こういうタイプの方は一定数おられる訳で、なおかつネット上では発言力は大きく感じます。いわゆる反ワクチン派(と言うより・・・・・自粛)ですが、言論の自由がありますから発言する事自体は許容されるものとします。もちろん反論もまた言論の自由であり、これもまた保証される関係にあります。さて昨年に風疹の大流行があったのは記憶に新しいところです。ここで風疹ワクチンの接種率ですが厚労省定期の予防接種実施者数からグラフを作ってみました。
グラフの見方ですが接種率は

対象人口は各年度に新規に予防接種対象者に該当した人口であることに対し、実施人口は各年度における接種対象者全体の中の予防接種を受けた人員であるため、実施率は100%を越える場合がある。

だから100%を超える年度もありますが、ワクチン接種は連年行われていますから大凡の接種率を反映していると見ても良いかと思います。もっともなんですがそのお蔭で140%なんて接種率が出てきてグラフがかえって見にくくなっています。ちなみに2012年データで1期:97.5%、2期:93.7%、3期:88.8%、4期:83.3%です。それと期別の説明ですが2006年度からMRによる定期接種2回が行われています。2008年度からはそれまでに1回接種だった者に対し

    3期:中学1年
    4期:高校3年
こういう経過措置が取られているのを表しています。それと予防接種をされていない者ですが河村氏の様なケースもあるでしょうが、他には
  • 接種前に罹患した
  • 疾患のために接種できない
  • 積極的ワクチン忌避ではなく消極的な理由で、


    1. 家庭事情のためワクチンどころでなかった
    2. 単に失念していた(うっかり、無頓着)
こういう方々も当然含まれます。そうそう厚労省のデータは1995年までしかないので参考までに去年作った年齢別の接種率グラフも提示しておきます。
だいたいこんな感じです。男性のグラフでワクチン接種率の表示がないのは、それ以前は男性には定期接種そのものが存在していなかったからです。そういう事情を踏まえて国立感染症研究所の風疹 発生動向調査の2013年53週の報告から去年の風疹患者数を年齢別のグラフで示します。
グラフからわかる事は
  1. 男性の方が多い(男性10985人、女性3372人)
  2. 男性でも2回接種の可能性が落ちる20歳以上から罹患者が増えている
  3. 子供に少ない
風疹は従来子供の病気のイメージがありましたが2013年は成人中心であった事がわかります。ちなみに小学校未満(0〜6歳児)は464人(3.2%)、小学校(7〜12歳児)で250人(1.7%)です。私は小児科開業医ですが2013年はついに1例も風疹を診る事はありませんでした。ちなみに0〜6歳児のうち予防接種前の0歳児を除くと400人になります。さらにこのうち予防接種を行う年にあたる1歳児が168人含まれています。私の意見としては風疹ワクチンのお蔭で子供への流行はかなり抑えられたと素直に見ます。



ここでワクチンには2つの見方があります。大した話ではないのですが、

  1. 個人防衛
  2. 集団防衛
個人防衛はわかりやすくて、ワクチン接種によりその疾患の罹患を予防する効果です。感染症は罹ってみないとどうなるかは誰にもわかりません。軽症で終わる事も多いのは確かですが、重症化したり重い後遺症が残ったりする事も一定確率で発生します。また自分が軽症であっても、他者に感染させた時に軽症で終わるかどうかは誰にも予想できません。感染症の重症化や後遺症を防ぐためには、そもそも罹らないのが一番効果的です。そのための個人防衛のためのワクチンです。

集団防衛は個人防衛の延長線上に直結します。感染とはヒトからヒトへの連鎖になります。この連鎖の輪が拡大すると流行状態になります。ここで感染の連鎖を断てる人がいれば感染はそこで阻止されます。具体的には既感染者、ワクチン接種者です。そういう人が多数存在すれば感染が発生しても連鎖の輪が広がりにくく、広がりかけても限定された規模で終息します。この集団防衛が守っている人の中には、希望してもワクチン接種が出来ない弱者も含みます。それこそ罹患するだけで重症化どころか命に関わる弱者を守っている事になります。ワクチン接種とは自分を守る事が集団を守る事に連動していると言えます。ラグビーじゃありませんが、

    one for all,all for one
こうやって集団で守っている人の中に河村氏の様な考えでワクチンを忌避される御子息も含んでいる訳です。河村氏は感謝など念頭にもないと存じますが、感謝されない人も守る集団防衛戦に参加するのは本当に格好の良い事だと思っています。そういう集団防衛戦に参加されている人がこれだけ高率におられる事を小児科医として感謝しています。それでも1人でも防衛戦に参加される人が多い方が効果は上がるわけですから、これからも参加者を増やす不断の努力が必要と肝に銘じております。