マスコミ風疹記事への補足

NHK

7/3付記事

ここから幾つか引用してみます。

風疹は先月23日までの1週間に全国で新たにおよそ500人の患者が報告され、700人近いペースで増えていた5月下旬より減ったものの依然、患者数の多い状態が続いています。

この部分のソースは国立感染症研究所の風疹発生動向調査の2013年第25週ですが、とりあえず今年の週ごとの患者数のグラフを引用しておくと、

NHKでは
    700人近いペースで増えていた5月下旬
こう表現されていますが、「5月下旬」とはいつ頃かになりますか、第20週(5/22)は中旬としても第21週(5/29)から第22週あたりに該当すると考えるのが妥当でしょう。確かに第22週は648人ですから「700人近い」表現は間違っていませんが、第21週は849人で「900人近い」になりそうな気がします。
    1週間に全国で新たにおよそ500人の患者が報告され
ここも興味深いデータを示しておくと2013年第21週つまり4週前のグラフを引用しておきます。
注目して欲しいの5月下旬に該当する20・21週の報告数で、4週後の25週にどうなったかと言うと

21週時点報告 25週時点報告
20 762人 818人
21 673人 844人


現時点で25週の報告数は504人ですが、今後の集計で「700人近く」になる可能性はあると存じます。それとこの記事を読んだだけでは700人と言われても、500人と言われても、どう多いか少ないかがハッキリしません。風疹の全数調査は2008年から始まっており2008〜2011年の4年間の全報告数を合計して897人です。4年間の合計数並みが1週間に発生している訳であり、この状態を、
    患者数の多い状態が続いています
これはNHKと言うより厚労省の発表だと考えられますから、どういうニュアンスの発表したいかがよく判る内容のように感じられます。もう1ヵ所注目しておきたいのは、
    任意の予防接種は、妊婦の周辺にいる人や妊娠を希望している人などを優先するよう自治体や医療機関に協力を求めていますが、先月(6月)接種を受けた人はさらに増えたということです。
接種本数も既に発表されていまして4月が9万本、5月が32万本です。6月が5月以上であるなら32万本以上になり、そうですねぇ、今年度の累計は75万本ぐらいは確実にありそうです。ここで今年の風疹ワクチン(MR、単独)のうち任意接種用の計画出荷量は250万本。そうなると残りは175万本以下になるとして良さそうです。蛇足ですがこの175万本は倉庫に製品として積みあがっているわけでなく、今作っているとか、これから作る分を含めてですからワクチン不足も起こると言うところでしょうか。


遺憾ながらタブ紙

7/3付

この記事で注目しておきたいのは、
    風疹については、最も抗体を持つ人が少ないとされる20〜40代の男性でも8割の人が既に抗体を持っている。
このソースも国立感染症研究所年齢/年齢群別の風疹抗体保有状況2012年しかないはずですが、20〜40歳代の有効抗体価保有率のグラフを再掲します。
見れば判るように必ずしも有効抗体価保有率が8割を越えているとは言えません。下で示しますが20〜40歳代の平均でも8割に達しません。四捨五入すればそうだとは言えなくもありませんが、チト強引と言うか厚労省の発表データですから8割の根拠がそれなりに必要かと思います。ここで試算ですが私は有効抗体価をHIで医学常識に基づき32倍以上にしています。これを16倍以上に引き下げたらどうなるかです。ついでですから8倍に引き下げた時の計算も含めて示します。

年齢 HI 32倍以上 HI 16倍以上 HI 8倍以上
保有 保有 保有 保有 保有 保有
20 13 92.9 14 100.0 14 100.0
21 13 81.3 14 87.5 15 93.8
22 13 48.1 18 66.7 20 74.1
23 32 71.1 38 84.4 40 88.9
24 39 73.6 44 83.0 45 84.9
25 44 84.6 49 94.2 50 96.2
26 31 79.5 33 84.6 34 87.2
27 41 83.7 45 91.8 45 91.8
28 34 87.2 38 97.4 38 97.4
29 36 92.3 36 92.3 36 92.3
30 40 88.9 42 93.3 42 93.3
31 36 80.0 39 86.7 39 86.7
32 40 80.0 40 80.0 41 82.0
33 39 75.0 40 76.9 41 78.8
34 32 80.0 33 82.5 33 82.5
35 35 76.1 35 76.1 35 76.1
36 28 68.3 28 68.3 28 68.3
37 26 57.8 28 62.2 30 66.7
38 33 71.7 36 78.3 36 78.3
39 28 71.8 29 74.4 29 74.4
40 21 77.8 22 81.5 23 85.2
41 25 83.3 25 83.3 25 83.3
42 26 86.7 26 86.7 26 86.7
43 19 82.6 19 82.6 20 87.0
44 27 84.4 27 84.4 28 87.5
45 22 95.7 22 95.7 22 95.7
46 12 75.0 12 75.0 12 75.0
47 20 71.4 21 75.0 21 75.0
48 18 72.0 18 72.0 18 72.0
49 17 89.5 17 89.5 17 89.5
合計 840 78.1 888 82.6 903 84.0

HIが32倍以上を有効抗体価にすると78.1%になり30の年齢層のうち14の年齢層で80%を切ります。これを16倍以上にすると82.6%となり10の年齢層に減ります。だからどうしたという試算ではありませんが、個人的に気になっているのは、

風疹の抗体検査をした上で必要な人だけ接種させるよう協力を求める通知を出した。

どれぐらいを有効抗体価に厚労省は設定しているのだろうです。せこい話ですがHI 16倍以上にすると4.5%ほど接種対象者を削減できるからです。4.5%なんて誤差のうちみたいな数値ですが、ワクチン事情の切迫は深刻ですからこれぐらいの「せこいカット」をやらないとは言えない気がします。試算すると20〜40歳代の男性で20万本ぐらい節約できます。残りが175万本ぐらいですから小さいようで結構大きいかもしれません。

ここもあえて補足しておけば、20〜40歳代の男性は4760万人ぐらいいます。でもって現在の有効抗体価保有率では流行は防げていません。ピンポイントでワクチン接種を行い、接種されたものが一発必中で免疫を獲得するとして有効抗体価保有率を1%上げるのに47.6万本、5%上げるのに238万本、10%上げるのに476万本です。でもって残りは175万本程度、厚労省がメーカーの尻を叩きまくって追加増産しても残りは200万本ぐらいが目一杯じゃないかと考えられます。


もう一つ面白いのは、

厚生労働省は全国の自治体に対し、新たに予防接種の費用を補助する事業を始める場合

この部分は正しく報じているのでしょうか。ソースがソースなので怪しいとは思うのですが、仮にもし正しければ、

  1. 既に助成事業を始めているところは無関係
  2. 助成事業を行っていないところは無関係
こうなります。ちなみに風疹の抗体検査は自費になり、そうですねぇ、5000円ぐらいになります。ワクチンはMRで9000円ぐらい(at 神戸市の定期接種)です。これもちなみに神戸市の助成は5000円だったはずですから、仮に神戸市で検査までするとどうなるかですが、

風疹抗体 検査代 ワクチン代 助成 差し引き
陰性 5000円 9000円 5000円 9000円
陽性 5000円 0円 0円 5000円


助成5000円はワクチン費用を半額にする程度の効果があったのですが、検査を前提にすれば吹っ飛びます。そのうえ平日に2回受診する必要が生じます。であれば助成を受けずにワクチンだけ接種する選択も生じると考えられるところです。それでも神戸市は記事を信じれば検査を行う必要はありませんが、これから助成事業に乗り出そうとすれば抗体検査費用をどう扱うかの問題が出ます。つまり抗体検査費用まで助成の範囲に含めるのか、含めないのかです。なんとなく
    助成事業はやめとけ!
こう言外に示している気がしないでもありません。今に至っても厚労省の風疹対策に助成の「じょ」の字もありませんからねぇ。もっとも国が助成してワクチンも検査試薬も不足したら猛烈な批判は必至ですから、予算を別にしてもやりようもないのかもしれません。誰でもわかるのですが、厚労省の風疹対策は風疹の流行を抑えるではなく、ワクチン不足を回避するに主眼が置かれているとしてよいでしょう。

以上簡単ですが、マスコミ記事の補足とさせて頂きました。