医学部新設の素朴な疑問

医学部定員

どう推移しているかですが、

年度 募集定員
1997 7625
1998 7625
1999 7625
2000 7625
2001 7625
2002 7625
2003 7625
2004 7625
2005 7625
2006 7625
2007 7625
2008 7793
2009 8486
2010 8846
2011 8923
2012 8991
2013 9041

医師過剰論の影響で7625人まで抑えられた時代が長かった(もっと減らせが公式論でした)のですが、2008年を転機に定員増に舵を切っています。でもって増えた定員は、
    9041人 − 7625人 = 1416人
一つの医学部の定員の標準は100人とされますから、ざっと14校分です。最近はどこも定員を増やしていますから、150人としても約10校分です。日本には80の医学部がありますから、それぞれ定員を2人増やせば1校分の医学部が出来上がる事になります。こういう状況でさらに医学部を新設を行う事が医師不足解消の切り札になるのかの素朴な疑問です。そりゃ、作った分だけ定員は増えるのは否定しませんが、コスト・パフォーマンス的にどんなもんだろうと言うところです。
なんで私学なんだろう?
答えは財政問題とすればFAなんでしょうが、最初から公立の選択枝を検討した形跡も乏しそうに感じます。たとえばですが、47都道府県の中で岩手のみが公立医学部がありません。横並びと言うわけではありませんが、東北、震災被害の2つのキーワードから検討ぐらいしても悪いとは思えません。埼玉だって防衛医大こそありますが、あれはやや特殊なのでこれも検討ぐらいしたって悪くはないと思います。(栃木もそうです) 公立でなくとも公立に近いような形態、たとえば自治医大形式もあんまり俎上にあがった形跡も乏しそうに感じます。新設医学部のキャッチフレーズは自治医大形式に極めて近い印象を抱きますが、でも純私学であるのが問答無用の前提になっています。どうも最初からそれで決まりとして動いているような気がしてなりません。公立ないし自治医大形式は議論のタブーなんでしょうか。ここについて違和感をずっと抱いています。 この私学が前提路線での議論で楽しい意見もあって、某神の様な有識者は、
    医師は儲かるからローンを組んで進学するのが当然。公立なんて不要だ!
そこから地銀の経営にも良いとか云々の主張に展開してましたっけ。たぶんアメリカ式を念頭に置いているんじゃないかの見解も出てましたが、これまた違和感のある意見でした。某神の様な有識者の本音がどこにあるかなんて知る由もありませんが、外野から見ると医学部を私学で作るためには「すべてが正当化される」みたいに感じられて良い気はしませんでした。ま、某神の様な有識者はとにかく国がお嫌いと言う話も聞いてますから、そういう意味では辻褄は合っているのかもしれませんが、えっと、今はどこにお勤めでしたっけ?
海図なき航海は危険
医師のように長期の養成期間を要する専門職を何人にするかは「見通し」が必要なはずです。もっとも「見通し」と言っても某法曹業界のようにあるはずの需要見通しが蓋を開けたら「無かった」なんて事もありましたし、医師数だって定期的に行われた医師の需要に関するナンタラ検討会を行っていたにも関らず、見事に大ハズレみたいな事にもなってはいます。 それでも、それでもなんですが、やはり海図は必要でしょう。なんとなく足り無そうな気がするから闇雲に作ると言うのは宜しくなさそうな気がします。医療でなら、医師の需要に関するナンタラ検討会は貴重な経験ですから、これを教訓として新たな海図を作るのが筋と思っています。これに関しては久しぶりに開催されると言う情報を耳にしました。どういう結論が出るんでしょうねぇ。少しだけ情報を知ってられる方の意見では、噂されている面子から医師のリミット無き増員に否定的な流れになるんじゃないかとはしていました。 ただこれまでの医師の需要に関するナンタラ検討会に限らず、この手の御用会議は「結論先にありき」で、結局のところ厚労省(及び政治・政府)の腹一つで決まりますから、蓋を開けてみないと予測困難と言ったところです。委員の意志はあんまり関係ないのが慣例ですし。
医療制度と医師数の関係
今は足りないの意見は基本的に首肯します。問題はどれだけ足りないのかの考え方です。日本の医療の特徴はアクセスの異常な良さです。悪い特徴とは思いませんが、アクセスの良さは需要の増大と連動しやすく、これを変えない前提で必要医師数を計算すれば、そりゃ今の倍ぐらいは軽く必要になります。倍にするのなら医学部の10や20は軽く必要になります。そういう意見の有識者も前から啓蒙活動を展開されています。 ただなんですがアクセスの前提が変われば必要医師数は変わってきます。また議論の良し悪しを別にして、擬似医師的な医療補助職の創設の動きも確実にあります。この擬似医師的な職種のパートは将来的にどこに位置付けられるんだろうの問題もあります。大きく成長させて現在の医師の仕事のかなりの部分を担わせるのか、あくまでも補助職として限定的な役割に留めるのかです。 今度の医師の需要に関するナンタラ検討会はそこまで踏み込むかですが、少なくとも正面からは踏み込まないと見ます。アクセス問題は患者の利便を確実に損ないますから、ドラステックな手法は取りにくく、やはり真綿で首を締め上げるような方法になると予想されるからです。ただ正面から取り上げなくとも、そういう意図を含ませての結論にするぐらいは可能です。これは言うまでも無く、厚労省がそういう意図を結論に「含ませたい」とすればのお話です。
生臭い蛇足
10/18付河北新報記事はなんとも言い難い感想を持ちました。ssd様はかっぺ禁止と切り捨てておられますが、場所を変えると珍妙さが際立つ気がします。もし関東に医学部を新設するなら埼玉とか千葉辺りが有力視されていますが、たとえば埼玉で
    医学部新設 埼玉の医師採用禁止を 教員確保で緊急決議
こうしたらどんなものでしょう。あくまでも例えばですが、東北なり、埼玉なりに関西人の教官しかいない医学部が出来れば妙な面白味のみ感じます。つか、地元に出来る医学部ですから、ごくごく素朴に地元出身者である程度固めたいとするのは不思議な発想ではないと思います。現実的に医学部に医師が引き抜かれて困りそうだの懸念はわからないでもありませんが「禁止」とはなかなか厳しい表現です。そうですねぇ、
    東北の医師不足を配慮して、広く全国から教官を集めて欲しい
これぐらいの「要望」ぐらいが穏当なところと存じます。まだまだ流動的な情報ですが、東北に新設が噂される医学部は宮城案が有力とも聞きます。宮城に作れば自然に東北大が主流を占める気がします。東北における東北大の存在感、影響力は大きく、ましてやお膝元の宮城ならそうなるのが自然です。これも悪いと思えません。医学部を作れば関連病院が必要になりますし、新設ならこれがゼロから始まりますから、圧倒的な影響力を持つ東北大と友好関係を持つほうが良いと思います。少なくとも喧嘩を売る必要はないぐらいです。それを構想段階で排除の姿勢とはかなり首を捻ります。 先ほど地元排除の方針を取った時に関西人教官ばかりによる医学部なんて喩えを持ち出しましたが、現実的に東北なら東京しかないでしょう。他に教官を送り込む程のところは想定し難いところです。関西人教官も来るかもしれませんが、多数派・主流派は東京になるとするのが妥当です。そう考えると話は急に生臭くなります。穿ちすぎなんでしょうか。「出来るかもしれない」だけでこんだけ動きがあるのですから、色んな話がこれから飛び出してきそうです。