15年後の医師数を試算してみる

不確定要素が山ほどあるのですが、ちょっと計算してみます。まずなんですが15年後の人口はどれぐらいであろうになります。これは国立社会保障・人口問題研究所の推測値を参考にしますが、

    1億1635万人〜1億2398万人
ここは1億2000万人と仮定します。そうしないと計算しにくいもので(ポリポリ)。現在とそれほど差が無いとも見えないこともありませんが、それでも現在より700万人ぐらい減少します。700万人は小さな数ではなく、おおよそ愛知県が1つ、鳥取県なら12個ぐらい分が減少することになります。年齢構成もより高齢化にシフトしているでしょうから、様相は数の変化より著明かもしれません。それにしても少子化担当大臣は何をしているのかいつも不思議です。


でもって医学部定員がどうなっているかです。この変遷は平成21年7月17日付文部省「平成22年度における医学部入学定員の増員について」が参考になります。表にしてまとめてみると、

年度 国立(42校) 公立(8校) 私学(29校) 合計
1981 4580 660 3040 8280
1993 * * * 7725
2007 4090 655 2880 7625
2008 4165 728 2900 7793
2009 4528 787 3171 8486
2010 * * * 8855


1993年の7725人は医師の需給に関する検討会報告書(2006)よりです。この8855人に増えた入学定員は、

平成31年度までの10年間(以降の取扱いは、その時点の医師養成数の将来見通しや定着状況を踏まえて判断)

10年間続けるとはしていますが、「どうなるかはわからん」ともなっています。これに新設医大の認可の話も乗っかりますから、さらに複雑と言えば複雑です。とりあえず8855人は10年続くと考えます。ここでなんですが、2010年卒業生は2004年入学生が主体となります。同様に2025年卒業生は20212019年入学生が主体となります。ここも留年や国試浪人が絡むのですが、人数的にはその年度の入学生が医師になると仮定します。

ここも表にしておくと、

卒業年度 新規医師数
2011 7725
2012 7725
2013 7625
2014 7793
2015 8486
2016 8855
2017 8855
2018 8855
2019 8855
2020 8855
2021 8855
2022 8855
2025 8855
合計 110949


ただなんですが、実際の国試合格者は当該年度の入学者よりおおよそ2〜3%ほど少なくなっています。これも将来的にはどうなるかの予想は不確定要素がテンコモリなんですが、今日は仮定が必要ですから11万人として起きます。文部省データには防衛医大が入っていないと思われますから、そこをドンブリにしたぐらいで御理解下さい。

次に厄介なのは新規供給が11万人でもリタイアがどれぐらいになるかです。医師がどこでリタイアになるかも難しい問題です。現在は「死ぬまでバリバリ100%働ける」なんて設定になっていますが、そうなれば試算は困難になります。そこで70歳定年と仮定します。正直なところ70歳になれば私も定年としたいからです。

70歳定年の仮定で考えると、現在55歳以上の医師がリタイアして減少分になる事になります。これがどれぐらいいるかですが、これは2008年データですが、

年齢 医師数
50〜59歳 51277
60〜69歳 23424
70歳以上 13106


55歳以上ですから50代を半分と計算して足し算すると、62168人になります。ここも62000人と丸めれば、15年で増える医師数は、
    11万人(新規国試合格者)− 6万2000人(リタイア者)= 4万8000人
2008時点の医師総数が28万6699人ですから、15年後には33万4699人、2008年から2010年までの増加分も勘案すると34万人ぐらいが妥当と考えられます。ここで初めの方にやった15年後の総人口が1億2000万人としていますから、人口10万人当たりの医師数は280人ぐらいになります。


算数はよく間違うので注意は必要なんですが、そんなに複雑な計算をやっていないので、大ハズレはないとは思っています。検算をしておきたいのですが、かの有名な長谷川レポートです。ここに将来の医師数の推計が書いてあります。長谷川レポートの前提は7725人での増加数を基に計算されていますが、定員増加効果も計算されています。

年度 2010 2015 2020 2025
活動医師数 28.2 29.9 31.4 32.6
定員5%増 28.2 30.0 31.7 33.0
定員10%増 28.2 30.1 31.9 33.5
臨床に従事している医師数 27.0 28.6 30.1 31.1


現在の医学部定員増加は10%以上になりますから、私の試算もそんなにハズレではなさそうです。そうなると医学部定員を7725人のままにしておいた時に比べ1万4000人ばかり医師が増える事になります。それでもって7725人モデルでも2025年には10万人あたりの医師数は270人ぐらいですから、だいたい10万人あたりで10人ぐらい増加加速効果が出ると考えられそうです。

おおよそで言うと現在のOECD諸国の平均に、7725人モデルでは20年かけても追いつかなかったのが、医学部定員増により15年後ぐらいに追いつく可能性が出てきたぐらいの違いはあるとも考えられます。



今日のはあくまでも試算です。途中何度も書いた様に不確定要素がテンコモリあります。医学部定員だって新設も含めて、もっと増える可能性がある一方で、ある時点から新医療費亡国論でも出てきて再び抑制にならないなんて誰にも言えないかと思います。医師の仕事量にしても、現在の状況では減る事を予想するのが困難ですが、何かをキッカケにして減る可能性もまた無いわけではありません。

何年か前には私も必死になって護持を願った混合診療も、そんな熱気は過ぎ去って医師の間にも容認論が広がっています。そういう流れの中の15年後となると、かつての皆保険時代を懐かしむ「故老」に成り果てているのも十分予想されます。確率から言えば私は生きていて、なおかつまだ現役で開業医をやっているはずです。嫌でもその日を見るだけでなく体験もできそうです。