ミスの原因がよく判りません

ソースは、

ミスの結果は見出しを読んだだけでわかります。乳児の足の指が3本失われるという傷ましい事故です。事故原因を究明し再発を極力防がないといけないのですが、うちの看護師からの質問に私は立ち往生しました。
    いくら10倍でも壊死なんか起こるのですか?
その時はゴニョゴニョと流したのですが、気になったので推理してみます。推理になるのは情報が断片的なマスコミ記事に頼らざるを得ないので、それ以外のところを考えるぐらいの意味合いです。


患者

情報としてあるのは、

  • 入院中の生後1カ月の乳児
  • 先天性の心臓疾患で入院

どんな心奇形についてかは情報が無いのですが、生下時ないしかなり早い時期から入院していたと考えます。たとえば完全大血管転位みたいな疾患(他にも候補は多数)です。入院が長そうな情報として、

心臓疾患で入院中の女の子の乳児が発熱

発熱で入院したわけでなく、心奇形で入院中の発熱と読めるからです。これ以上は情報が無いのですが、重大な心奇形でのオペ待ち状態であったと考えられます。入院が長そうな傍証はもう一つあり、

医師がかかとの上あたりに点滴で投与

乳児なら手背や足背がライン確保の第一選択ですが、ライン確保期間が長くなると血管が潰れてなくなっていきます。「かかとの上」も良くライン確保に使った場所ですが、そこまで使うようになるにはそれなりの期間が必要と考えます。


投与時の状況

これがまた不可解なのですが、

心臓疾患で入院中の女の子の乳児が発熱し、抗生剤を投与するため医師が看護師に溶解方法を口頭で指示

治療や処置の指示は医師が指示簿に書いてから行なわれるのが原則です。通常は、

  1. 医師が患者を診察しながら処置や治療を考える
  2. 考えた処置や治療を指示簿に書く
  3. 書かれた指示簿に基づいて看護師が準備をする
  4. 実際の処置や治療が行われる
ここで口頭指示が行なわれる状況は患者の容態が切迫している時になります。つまり指示簿に書いている時間も惜しい時ぐらいで宜しいかと思います。重症の心奇形で入院中の乳児でそんな事が行われそうな状況は、今回わかっているキーワードはの「発熱」から、肺炎でも起して呼吸が窮迫している状況ぐらいはまず思い浮かびます。

この呼吸の窮迫も単に「苦しそう」ぐらいならまだ通常の手順を踏みます。そうですねぇ、心拍も落ちかけている状況が突然訪れたクラスで無いと口頭指示による指示は行なわれないとみます。まあ、そういうケースは重症の心奇形のオペ待ちケースならしばしばあるのですが、それでも不可解なのは、抗生剤投与まで口頭で指示している事です。

どういう事かと言えば心肺が危機的な状況に陥っている時には、挿管から呼吸管理、ライン確保から昇圧剤の投与等は時間との戦いですから口頭指示で行われます。抗生剤の指示は、そうやって危機的状況を脱し一段落ついた後に行われるからです。つまり治療としてそんなに急ぐ指示ではなく、医師は緊急処置で行った指示を指示簿に改めて書き、その時に抗生剤投与をどうするか判断するぐらいです。

もう一つわからなかったのは、抗生剤の溶解方法まで指示している事です。これも謎です。つうのも抗生剤の溶解方法はコチコチのルチーン業務でわざわざ医師が具体的な指示をする事はないからです。ここについてはやや自信が無く、私が勤務医をしている時にはなかったのは間違いありません。もしあるとしたら、通常の溶解方法でない時ぐらいしか思い浮かびません。

う〜ん、そんな特殊なケースは1回ぐらいあったかもしれませんが、そういう時の方がミスが生じやすいのでやはり指示簿に記載してやります。それぐらい他の状況が切迫していても抗生剤指示は時間的に急がないからです。何があったのだろうです。


10倍濃度の影響

結果的に10倍濃度の抗生剤が投与されたのですが、どれぐらいの量が入ったかです。

点滴終了後、乳児の右足首から先が変色

どうも全量投与後の様です。医師なら直感的に血管から漏れた影響を考えるのですが、もし血管から漏れたら通常は滴下不良を起し投与が出来なくなります。また、

その後、点滴が詰まっていることを知らせるアラームが鳴り、異常に気付いた

滴下不良は点滴終了後に起こったと考える方が宜しそうです。そうなると10倍濃度の点滴により血管が閉塞した影響と考えたいところですが、点滴は「かかとの上」は「たぶん」ふくらはぎのあたりに確保されていた思われます。何が言いたいかですが、10倍濃度の抗生剤は基本的に足の指の方には流れないのです。流れるのは心臓方向に向かってですから、もし濃度の局所への影響が起こるとしても方向が逆じゃなかろうかです。

一番基本的な10倍濃度の抗生剤が局所にどんな影響を及ぼすかの知見に非常に乏しいため、冒頭の方で書いた看護師からの質問に立ち往生したと言うところです。調査の結果、10倍濃度が主犯となっているようですから、これをあえて否定しようとまで思いませんが、私でも理解できる説明があれば助かると思った次第です。